第46話 大団円

 作戦は成功した。エーヨの黒縁メガネは予想以上に曇っている。

ヘレンの作ったお粥さんが熱々だからだろう。


 エーヨが黒縁メガネを外す。チリレンゲには目もくれず、箸を握る。

舞台の袖から見るエーヨは、メガネをしているときとはまるで別人。

明るくて、華やかで、垢抜けている。そして、ちょっとドジっ子。


「いただきます。熱っ!」

 チリレンゲではなく箸を握ったのもそう。舌を火傷したのもそう。

そして、箸を転げさせたのもそうだ!


「ふふふっ。箸を落としちゃった! そしたらどうして? 転げてるわ」

 箸が転げるのを見て笑い出すのもそう。

笑いの沸点が低過ぎる! まるで別人だ。

はっきり言って、超絶かわいい。


「今、エーヨが笑ったんじゃないか⁉︎ エーヨが笑った!」

「えぇ、あなた。笑ったわ。エーヨが笑った! エーヨが笑った!」

 車椅子娘が急に立ちあがったみたいにはしゃぐオートスリア公爵夫妻。

その声だけでエーヨが笑ったことを知り、涙している。

大量の湯気で、2人からはまだエーヨの顔が見えていないだろうに。


 群衆もやんややんやの大声援。なかにはもらい泣きする貴族もいる。


 ハーツが黄金色の大きなメガホンをヒーライから奪い取る。


「2冠王子の意地を見せた、トール殿下ーっ!

宮殿舞踏会の常識を撃ち破り、10年振りの笑顔! となったエーヨ公女!

いやしかし、こんなことってあるんやねぇ、ヒーライはん」


「そっ、そうですねぇ……」

 と、呆気にとられるヒーライ。


 このあと湯気が止まると、エーヨの笑顔が群衆の前に明るみになる。

そのあまりの神々しさに、手を合わせるものが多数いたのは言うまでもない。


 エーヨが僕の目の前に立つ。想像を遥かに超越した最高の笑顔だ。

顔が熱くなるのを感じながらも、エーヨの衣服の袖を右手でそっと掴む。

エーヨはにこにこして「遠慮は不要ですよ」と言い、

僕の右手を両手で掴み、運ぶ。エーヨの心臓に1番近いところに。


(こっ、これが98のやわらかさ、なのか……)全身が熱い!




 翌日、僕は3公女からニコッを受け取る。

さらにその翌日には、西の館の改修工事がはじまる。

同時に領地の視察へと向かう。


 期待もあるが、不安も大きい。

リーフ島はどんなところだろうか。領民は僕を温かく迎えてくれるだろうか。

僕がまったりのんびりできる場所と時間はあるだろうか。

不安は尽きない。


 でもその道中、僕が下を向くことはない。

これから先もずっと上を向いて頑張る覚悟だ!


 いつの日か、西の館でまったりのんびり過ごす、その日まで!


________________________


続編、はじめました。

よろしくお願いいたします!


https://kakuyomu.jp/works/16817139558840126547/episodes/16817139558841022918

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西の館の第3王子は底辺メイドとの日常生活をこよなく愛す 世界三大〇〇 @yuutakunn0031

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