エピローグ

第52話 未知なる世界

 一年後。

 日本某所にあるブドウ園では毎年恒例の収穫が行われていた。ケースいっぱいのぶどうを所定の位置までフォークリフトで運んだリオは、汗が垂れる顔をタオルで拭いながら現場監督の兄の元へ報告する。

 

「兄さん、こっちの収穫終わったぞー」

「おー、お疲れ。リオはそろそろ出発の時間だろ? こっちはもういいぞ」

「ほいほい。じゃあ行ってくるわ」

 

 フォークリフトを駐機場に移動させてから家に帰る。シャワーを浴びて着替えてから、収穫したてのぶどうを詰めたクーラーボックスを持って再び家を出た。

 目の前で消え去っていくバスを虚無の顔で見送り、数十分後に来たバスに乗って空港へ。そこから更に軌道エレベーターを介して軌道ステーションへ行き、ゲートを通ってエーテル界へ。ここまで半日もかかってしまった、バスさえ逃さなければあと三時間早かったのに。

 到着したのはエーテル界にある地球のエーテル港。様々な船が離発着するその港の一角に、リオの艦がある。

 

「ふぅむ、少し小さくなったな」

 

 目の前にあるのは一年前共に大冒険をした自慢の艦ガリヴァー……によく似た二回り小さな艦。

 ぼんやり眺めているとヒデが気さくに声をかけにきた。

 

「前のガリヴァーはあの後大破しちまったからな、それでも性能は遜色ないぞ」

「お、ヒデ」

 

 荷物の積み込みをしていたのだろう、開いたハッチ付近にコンテナが並んでいるのが見えた。

 

「ドクターは?」

「既に中だ。医療機器のチェックしてる」

「そっか」

「リオはこの後どうすんだ?」

「とりあえずブリッジ行くよ」

「おう」

 

 ヒデと別れ初めての艦を歩く、初めてなのに不思議とどの通路がどこと繋がっているのかがわかる。小さくなっただけで内部構造はあまり変わらないのかもしれない。

 まだクルーのいない通路を進みブリッジへ。

 

「ブリッジは変わらないな」


 小さくなってもブリッジのサイズはそのままだ、もしかしたら見えないところでサイズダウンしているのかもしれないが。

 真ん中にある艦長席に座る。

 

「座り心地は悪いな……新品だからかな」

 

 目を閉じて瞼の裏に映るのはかつての艦ガリヴァー。ほんの数ヶ月を共にし家となっていた艦。

 ガリヴァーはクイーンとの戦いで受けた損傷が激しく、修復不能と判断されてしまった。あの時はむしろ動いていた事の方が奇跡だと言われたくらいだ。

 今は綺麗に改修されて博物館コロニーに展示されているらしい。

 

「そこにいるのはわかってんぞ、ロビンソン」

「あははー、バレてたか」

 

 艦長席から死角になってる影からピョコッと小柄な女の子が姿を見せる。一年前より少し背が伸びたらしいその子は慣れた足で操舵席へと座った。

 

「おお! 新品の操舵席だあー……座り心地悪っ」

「俺と同じ感想じゃん」

 

 クスクスと笑いながらロビンソンがシミュレーターを起動して操縦訓練を始めるのを眺めた。

 この艦はガリヴァーに似てはいるが別物だ。何故乗っているかだが、一年前にリオがエンシワ連盟との契約で勝ち取った艦だからである。

 クイーンとの戦いに勝利を収めて帰ってきたなら艦を一隻貰えると約束していた、一年経ってようやく艦が完成したと連絡が来た時は、まさかあの約束がちゃんと果たされると思わなかったと逆に驚いたくらいだ。

 

「あ、リオさん来てたんですね。お久しぶりです」

 

 ブリッジにドクターが入った。彼女と会うのは二ヶ月ぶりだが、少し髪が伸びたぐらいで見た目は変わっていない、相変わらず丈の長い白衣を着ていて安心したくらいだ。

 

「やあドクター。さっき収穫したばかりのブドウ持ってきたぞ」

「おおおおおお! 待ってました! ボクリオさんのこと大好きですぅ!」

「はいはい」

 

 ぶどうの詰まったクーラーボックスをドクターに渡すと、彼女はあまりにも輝かしいばかりの笑顔でぶどうを一房とって食べ始めた。


「そういえば出発準備はできたのか?」

「ええ、ボクは大丈夫ですよ」

 

 もう一房食べ終えてる。早すぎる。

 

「じゃあヒデの準備とロビンソンのシミュレーターが終わったら出発だな」

 

 この日、ついにリオの新しい艦が出航する。

 今度は遭難したわけでもない、助けを求めるために乗るわけでもない。

 無限に広がるエーテル界、まだ誰も知らない未知なる世界を冒険するために出発するのだ。

 

「出航準備OKだ!」

 

 一通りの準備を終えたヒデがブリッジに上がり、そこから遠隔で機関部を操作する。ドロイドを多めに購入してあるので作業効率はかなり高い筈だ。

 

「クルーはここにいる四人だけか、また集めないとな」

「ねぇねぇリオ、まずは何処へ行く?」

「まずアルファースだな、そこでサマンタランと副長のデータが待ってる」

「副長はともかく、またあの変人が来るのか」

「そう言うなって、あれでも天才学者だし、わざわざこの艦に乗るため長期休暇とったらしいぞ」

 

 副長に関しては最初から組み込んでおいてほしいところだが。

 

「じゃあ最初はアルファースだね」

「ところで艦長、この艦の名前はどうしますか?」

「おいおいヒデさんよ、そりゃ決まってるだろ?」

 

 リアクターの起動を知らせるアラートが鳴る、ヒデがエンジンを噴かしてロビンソンが操縦用モニターを開く、ドクターは通信士の席に座り、港の指示に従ってオートロッククランプを外した。

 

「リオさん、港から出航許可が出ました」

「よし、じゃあ皆行こうか……W.E.Sガリヴァー、発進!」

 

 ナセルの輝きを残してガリヴァーがエーテル界へ飛び出した。

 未知なる未知を求めて、若者達は新世界を旅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

「ところでリオさん、W.E.Sてどういう意味なんですか?」

「あ、それ今更聞く?」

 


 

 〜完〜 

 

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W.E.Sガリヴァー 〜未知なる世界への旅〜 芳川見浪 @minamikazetokitakaze

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