第51話 故郷はエーテルの彼方へ ⑬

「艦長?」

 

 オペレーターの呼ぶ声でハッと我にかえる。地球が目の前にあるのなら尚更負けるわけにはいかない、ここでクイーンを逃がしてしまえば地球に向かう可能性がある。たとえ弱体化していて魔法が使えなくても、その図体で暴れれば都市一つを更地にするくらいの力はある。

 

「クイーンにエーテル反応! 魔法がきます!」

 

 クイーンの六本の手に魔法陣が展開する。その魔法陣は今までクイーンが使ってきたフレアブラスターやホーミングエレキテルとは違うものだった。

 そして今までガリヴァーが使ってきた魔砲とも違う。

 

「黒い魔法陣だと? 土壇場で新しい魔法を使うのかよ!」

「まさか暗黒魔法」

「将軍は知ってるのか?」

 

 生憎地球生まれのリオにはピンと来なかったが、エンシワ連盟の将軍ともなれば流石に思い当たるものがあるのだろう。

 

「私も初めて見ます、理論上は存在すると言われている魔法で……時空を操作すると言われています」

「時空を……まさかゲートを単独で開くのか!?」

 

 ところがそうはならなかった。脚先に生じた黒い魔法陣はそのまま脚の付け根近くまで下がったかと思うと、通り過ぎた先から脚が消失していった。

 その消失した脚は何処にいったかと思えば、クイーンを追ってきた大型艦六隻の近くに黒い魔法陣が現れ、そこから脚が伸びて戦艦を串刺した。

 

「各艦行動不能です!」

「クイーンの脚にエーテル反応! 艦のエーテルを吸い上げているようです」

「クイーンに集中砲火だ! 六隻に近い艦は脱出したクルーを救出!」

 

 全てのエーテルを使い切るかのような勢いで怒涛の攻撃が始まる、ある艦はホーミングエレキテルで、ある艦はフレアブラスターで、それぞれの最大火力を叩き込み続ける。

 ガリヴァーも負けじと光子魔砲を連続で撃ちながらフレアブラスターのチャージを始めた。

 数百隻の攻撃にも耐えた化け物だ、たった四隻の攻撃など意にも介さない。しかしその身体に張られたシールドはエーテルを補給できないため徐々に薄くなっていっている。

 

「クイーンが再び暗黒魔法の準備に入りました!」

「どこから来るかわからない! ダッシュウィンドで回避しろ!」

 

 魔法陣の一つはガリヴァーの真上に現れた。咄嗟に風速魔砲ダッシュウィンドで緊急回避する。数ヶ月前にクイーンから逃げる時散々利用した魔砲だ、緊急回避にかかるGにも以前よりは慣れたものである。


「今ので一隻落とされました!」

 

 残りはガリヴァーを含めて三隻、これはまずい展開だ。艦が多ければ多い程クイーンの栄養となりやすくなる。そして三隻以下となった事で、次に暗黒魔法を使われたら一隻は二本以上の脚で襲われる事となり回避が難しくなる。

 いや、むしろ一隻ずつ六本の脚で襲ってもおかしくはない。

 

「よし、全艦に通達。クイーンに魔砲を浴びせながらゲート向こうへ後退せよ。ガリヴァーはここで奴とタイマンを張る!」

 

 命令は即座に実行され、ガリヴァーを除く二隻は引き撃ちで後退しながらゲート向こうへ退避していく。残されたガリヴァーはフレアブラスターのチャージを終えた。

 

「科学班、クイーンのシールドはどうだ?」

「健在です、ですがフレアブラスターで全て剥せるでしょう」

「わかった次できめる! 射線をクイーンに合わせろ!」

「艦長! クイーンからエーテル反応が! 火炎魔法がきます!」


 どうやらクイーンも同じことを考えていたようだ、赤い魔法陣はフレアブラスターの発射を意味する。先に撃ってはダメだ、一発ではシールドしか剥がせない。二発目の準備か一発目に合わせて撃たれたら避けられない。

 

「魔法がきます!」

「回避!」

 

 右に避ける。

 

「左舷被弾! 損傷大!」

「構うな! 撃て!」

 

 クイーンの極太フレアブラスターをギリギリで回避したが、左舷に被弾してナセルが破壊された。そのためガリヴァーが大きく傾いたがそれでも斜線を外すことは無く、撃ての命令と共にチャージされていたフレアブラスターが発射された。

 

「命中しました、クイーンのシールド消失」

「二発目準備!」

「クイーンが暗黒魔法を使います!」

「ダッシュウィンドで回避だ!」

「どちらへ!?」

「前だ!」

 

 ガリヴァーを包むように魔法陣が現れるも、脚が出てくる前にその包囲を脱した。

 

「続いてホーミングエレキテルが来ます!」

「全速前進! 全てのエーテルを二発目に込めろ! 被弾は気にするな!!」

 

 ホーミングエレキテルをそのまま船体に受けながらもガリヴァーは前進する。船体の破損状況は酷いものだ、おそらく既に四十パーセントを超えているだろう。

 死者も相当でている筈だ。

 それでも止まらない、全ては確実に仕留めるために。エーテル界と地球の脅威であるベクタークイーンを倒すために。

 

「フレアブラスターのチャージ終了しました」

 

 艦はまだ健在だ。場所はクイーンの目と鼻の先でかつ手の届く範囲だ。クイーンの脚がガリヴァーへ向かって伸びてくる。

 

「撃て」

 

 リオの短い一言、それと共にガリヴァーが至近距離でフレアブラスターを放つ。クイーンの胸に命中したそれは、シールドの無い体細胞の崩壊した脆い身体を焼きながら貫き、心臓にまで到達する。

 今回は削るだけですまさない、心臓を焼滅させクイーンの生命活動を完全に停止させても尚、フレアブラスターの勢いは止まらず、背中を貫通して月面に新たなクレーターを作って終わった。

 

「クイーンの生命活動の停止を確認」

「終わった……のか……はは、あぁ……実感が湧かないな」

 

 それはリオだけでなくガリヴァーのクルー皆がそうだった。しばらくしてようやく皆の胸にも実感が湧いた頃には、艦を更に破壊するかのような歓声があがったのだが、そこは割愛しておく。

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