第50話 故郷はエーテルの彼方へ ⑫

 同じ頃、ゲートの維持に注力していたサマンタランの元へ、部下からゲート向こうの新たな情報が届けられた。

 数分前にゲートを開いた時に調べた結果では、どこかの衛星にできた巨大なクレーターの中心に繋がっており、付近にブラックホールや恒星等の危険な天体が無いことが確認されていた。ひとまずそれでよしという事で作戦は継続されたが、新しい情報は流石のサマンタランも驚きを隠せなかった。

 衛星という事は主星が側にある事を忘れていた事実と、ガリヴァーのもつ奇妙な運命というものを感じてしまったのだ。

 

「こちらサマンタランです、リオさんにお伝えしたい事があります」

 

 緊急通信でガリヴァーに繋げる。モニターには今まさにゲートへ押し込まれてるクイーンと、クイーンの猛攻でボロボロになりながらも押し込みつづけるモーラーの姿が映されている。

 

「リオだ、どうした? 今もう少しでクイーンをゲート向こうに押し出せそうなんだ」

「ええ確認しておりますとも、大した事ではないのですが、実はゲート向こうについてお知らせしておきたいと」

 

 と、その時ついにクイーンがモーラーによって完全にゲート向こうに追いやられた。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 あまりにも唐突な出来事だった。クイーンの魔法に耐えながら押しつづけ、モーラーの艦艇が一隻ずつ壊されても、最大出力で押し続けた結果ついに、クイーンが完全にゲートの向こう側へ追い出されたのだ。

 しかし生憎モーラーは戦艦の無理な並列化とクイーンの攻撃により、ゲートを半ばまでくぐった所で機能停止となってその場で浮遊する事となった。

 

「すまないサマンタラン、大した事じゃないなら後で聞く! モーラーのクルーは急いで脱出を! 大型艦はガリヴァーに続け!!」

 

 サマンタランとの通信を切ったガリヴァーが最初にゲートを潜り、戦闘可能な大型艦十三隻が後に続く。この戦闘に参加した大型艦はガリヴァー含めて百七十隻はあった筈だが、もうこんなに減ってしまったのかと愕然としてしまう。

 

「いた! まだ生きてるぞ!」

 

 濃紺色のエーテル界から漆黒の宇宙へ移動した矢先、クレーター内にあるゲートの直ぐ前でクイーンがのたうち回っていた。彼等にとっては空気に等しいエーテルが無い世界だ、呼吸困難に近い苦しみに襲われているのは想像に難くない。

 しかしそれは連盟も同じ事、エーテルで動く戦艦に乗ってる彼等にとってみれば、宇宙にいる事は寿命を削る事に等しい。


「クイーンの体組織の崩壊を確認!」

「エーテルがないと身体をもたせられないのか! 艦のエーテルが残ってる内に倒すぞ! エーテルが切れかけてる艦は早々に戻れ!」

 

 残ったエーテルを消費しながらクイーンへ魔砲を撃ち続ける。エーテルの補給が無いから高威力の魔砲を迂闊に使う事ができない。

 少し前だったら意味の無い攻撃でしかないが、エーテルの無いこの宇宙空間であれば、クイーンもまたエーテルの補給ができないためシールドの出力が低いだけでなく、体組織も崩壊しているので攻撃が通る。

 レーダーが味方艦の反応がゲート向こうへ消えた事を知らせた。

 

「残ったのは九隻か。残りのエーテル残量は!?」

「六十パーセントです」

 

 ヒデが事前にリアクターを改造したおかげでエーテルの貯蓄能力は他の艦より少しばかり高い。

 

「よし、奴の上をとって一気に決めるぞ!」

 

 ガリヴァーが上昇してクレーターから完全に出る。クイーンとの距離は直線距離で僅か四キロメートル。クレーターから出た事で衛星の周りの状況がよく見える。

 無限に広がる漆黒の宇宙に点在する何万何億年前の小さな輝き、そして。

 

「まさか、嘘だろ……ここに出るのかよ」

 

 先程のサマンタランとの通信を切ってしまった事を今更ながら後悔する。彼はこれが言いたかったのだ。

 リオの目の前、ガリヴァーのカメラが映し出したのは衛星の主星。

 五つの大陸と七つの海によって成り立つ青い星、その名も太陽系第四惑星こと地球。

 リオ達の恋焦がれた故郷が目の前にあったのだ。そして地球の衛星といえば一つしかない。ここは、月だ。

 

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