第43話 故郷はエーテルの彼方へ ⑤

 決戦の場所を決めたとしても、そこにベクタークイーンが来なければ何の意味もない。

 そこでクイーンの心臓を使う事が提案されたが、無闇に使うとクイーンが艦隊の背後から来てしまう可能性がある。つまり適切な場所で心臓を使い、クイーンの注目を引きながら特定のルートで誘導しなければならないわけである。

 今作戦において最も危険かつ生存率の低い役割だ。だからこそ誘導部隊は倫理観を無視して選ばれた。誘導部隊の八割は投獄されたテロリストや政治犯等の囚人達だ。

 表向きは志願募集となっているが、その実拒絶した者だろうが関係なしに徴兵しており、逃げると爆発する首輪をつけられていた。

 無論その事をリオは勘づいてはいるが、確証が無いため黙認するしかないのが現状だ。

 

「誘導部隊から入電! 目標地点まであと一時間!」 

「司令部より全艦隊へ戦闘態勢に移行せよとの命令がでました!」

「突入部隊から何時でも出撃できると報告が上がっています」

「〇四〇二〇の方角から隕石です」

 

 二名の通信士がひっきりなしに情報を伝えてくる。少し前のガリヴァーでは考えられない光景だ。

 

「シールド出力を上げて隕石をやり過ごし、決して迎撃はするな。それとガリヴァークルーの全員に通達、本艦はこれより戦闘態勢に移行、約一時間後に現れるベクタークイーンと交戦する」

 

 途端に張り詰めた空気がガリヴァー艦内に充満していく、二十年以上も苦しめられた宿敵との決戦なのだ、仕方ないところもあるだろう。

 さらにガリヴァーは決戦艦隊の旗艦を勤める、そのプレッシャーも大きい。

 

「誘導部隊が作戦宙域に入りました」

「角度合わせいそげ!」

 

 エーテル界は無重力なので地上や海上と違って相手が真横や正面から来るわけではない。今回はガリヴァーから見て斜め右上から来たので、それに合わせてガリヴァーの艦首を向けて正面を向くよう調節をした。

 角度を合わせなくても戦えるが、極力二次元戦闘を意識した方が戦いやすい。そして角度を合わせるとよりクイーンの圧倒的な威圧感を肌に感じる。

 たとえ本体が半分程のサイズだとしてもガリヴァーの十倍以上だ、それどころか以前遭遇した時より少し大きくなってるまである。

 最早人間が山に戦いを挑むようなものだ。

 

「誘導部隊から通信!」

「繋げ!」

「こちら誘導部隊、ベクタークイーンを目標地点への誘導に成功!!」

 

 誘導部隊の興奮した声が伝わってくる、彼等の境遇を考えるとわからなくもない。戦闘区域に配置したカメラが、クイーンとそれを先導する誘導部隊の艦を映した。

 見たところ他の誘導部隊の姿は無い。

 

「誘導部隊は壊滅したのか?」

「先頭の艦以外に通信は繋がりません、おそらく壊滅したものと」

「二百隻も投入した部隊が壊滅か」

 

 正確な被害計算は後で出るだろうが、誘導部隊だけで既に五千人が死亡した事になる。数日かけてクイーンを連れてくるだけでここまでの被害が出るとは、むしろこの程度の被害ですんで良かったと考えるべきか。

 不意にリオの目にクイーンの異常が見られた。

 

「あれは!? 全艦散開しろ! クイーンが魔砲を撃つぞ!!」

 

 何度も見たクイーンの魔砲発射モーション、リオの命令を受け各艦が各々散開を始めるが、実際に動いたのは半分程だけであった。

 

「くそっ、ここに来て鳴り物入りの俺の命令が聞けないってか」

「やった! やったぞ! 俺達は作戦を成功させた! これで故郷に栄こ……」

 

 誘導部隊の叫びがまた聞こえてきたが、残念ながら最後まで聞くことなく彼等はクイーンの魔砲によって跡形もなく消し飛ばされた。

 また、逃げ遅れた十数隻が魔砲に巻き込まれて撃沈した。

 

「言わんこっちゃない! 通信士、司令部を呼び出してくれ」

「繋ぎます」

 

 ワンテンポ遅れて通信モニターに司令部が映し出される。通信に応えたのはジェルプランの将軍だった。

 

「おい! ガリヴァーを旗艦にしても俺の命令を聞かないんじゃ意味無いだろ!!」

「わかった、コチラから改めて命令をだす。また私がガリヴァーに乗船して君の発言力を上げる事にしよう」

「了解した急いでくれ」

 

 即断即決でジェルプランの将軍がガリヴァーに乗船する事になった。既に戦闘が始まっているので迷っている時間はない。

 司令部から改めてガリヴァーの命令に従うよう通知が飛んだ後、十数分してからジェルプランの将軍がシャトルでやって来た。

 

「私がガリヴァーに乗船した事は既に全艦に伝わっている、これで君の命令を無視する者は減るだろう」

「充分だ」

 

 魔砲を撃った後クイーンは静かにしているが、代わりにクイーンの中から小型〜中型までのベクターが大量に出現して艦隊を襲い始める。

 大型ベクターは最初からクイーンの外におり、魔砲を撃つ前から既に交戦状態にあった。

 

「クイーンが大人しくしているのが気になるな」

「あれは再び魔砲を撃つためにエーテルをチャージしてんだよ、図体も前よりデカくなってるし、魔砲の威力も上がってる。その分チャージする期間も伸びたんだな」

「ならば直ぐに阻止せねば」

「いや、わざと空撃ちさせてまたチャージさせれば隙ができる」

「一理ある」

「全艦に通達! クイーンに魔砲を撃たせて再びチャージ状態にし、その隙に突入部隊を投入する!」

 

 センサーから一つ艦の反応が消えた。おそらく大型ベクターにやられたのだろう。クイーンだけでも厄介だというのに取り巻きまで相手しなければならない。

 

「残り約七九〇隻か、やっぱり少なすぎたかもな」  

 

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