第42話 故郷はエーテルの彼方へ ④

「よお、また来たぜロビン」

 

 惑星ロビンの無人島、かつてロビンという冒険家がこの島に不時着して生涯を閉じた話は記憶に新しい。仮称のつもりでつけたロビンという名前だが、いつの間にかこの惑星そのものの名前として定着していた。

 死体ではありつつもロビンと出会ったこの場所にリオとロビンソンが訪れた。

 

「ここにおじいちゃんがいたんだ……ちょっと中も見ていい?」

「ああ、老朽化してるから気をつけろよ」

 

 いそいそとロビンが住処としていたシャトルの中へ入っていくロビンソンの背中を見送ってから、リオは空高くを見上げた。

 地上からは見えないが、この空の遥か向こうにはエンシワ連盟の艦隊が展開しているところだ。

 ここで、惑星ロビン圏でベクタークイーンとの決戦が行われる。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 数週間前、最終決戦に向けて軍議が開かれた。

 

「まずなによりどこでクイーンと戦うかだ」

 

 最初に切り出したのは評議会の時にリオと戦ったジェルプランの議員だ。驚いた事にこのジェルプランの議員はエンシワ軍のジョウテイ、地球で言うところの将軍でもあるらしい。

 次に発言したのはドラゴニア国王だ。

 

「どこでもという訳にはいくまい、クイーンを虚無空間に引きずり込むためにはエーテルの乱れている場所が必要だ」

「俺がガリヴァーで虚無空間に飛び込んだあの場所は使えないのか?」

「普通のベクターならそれでもいいのでしょうが、クイーンですとそうはいきません。あの場所は元々エーテルは乱れておらず、たまたまベクタークイーンが同じ場所に魔砲を打ち込んだからエーテルが大きく乱れたにすぎません」

 

 サマンタランの説明を聞いて合点がいった。あの時都合よく正面のエーテルが揺らいだのは、逃げている時に進路をあまり弄らず、ほぼ真っ直ぐ進んでいたからだ。

 ゆえにクイーンの魔砲を避ける度にほぼ同じ地点が揺らいだのだろう。

 

「という事はもうあそこは閉じて使えないのか」

「また開けば使えますが、クイーンを通すほどの大きさのゲートをつくるのは不可能でしょうね」

 

 思えばあの時くぐったゲートは小さかったような気もする。

 

「クイーンを通すための大きなゲートを開くためには、常にエーテルが乱れているような場所で、かつエンシワ星系から離れている所が理想的ですねぇ」

「そんな都合のいいところが果たしてあるだろうか?」

「我々も外星系の調査はしているが、そのような場所は聞いた事がない」

「ですよねぇ」

「いやある!」

 

 常日頃からエーテルが乱れており、かつエンシワ星系からも離れている都合の良い場所。リオには一つ思い当たる場所がある。


「ロビンの星だ!」

 

 惑星ロビン、そこの外周部は常にエーテルが乱れており時折時空が歪む事がある。またエンシワ星系からはおよそ五十光年も離れているので決戦の舞台としてもちょうどいい。

 

「なるほど確かに、念の為調査隊を送ろう。ほぼ決まりだが、一応調査結果次第で決定という事でよろしいかな?」

 

 ジェルプラン将軍がそう取りまとめる。異存は無いので満場一致で決戦場所が惑星ロビンに決まった。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 惑星ロビンからガリヴァーへと戻ったリオは、ロビンソンと別れてその足で格納庫へと向かった。

 大破していたWESガリヴァーであったが、エンシワ連盟の技術者達によって大幅に改修されて新品同然となっていた。前回と変わったところと言えば出力が前より出るようになった事と、そしてなにより大きな変化として。

 

「こんなにクルーがいるのは壮観だなあ」

 

 通路を歩けば様々な人種のクルーとすれ違い、各セクションへ行けば探さなくても誰かが必ず視界に入る。ドロイドしか見なかったあの頃と大違いだ。

 一応これが本来の光景ではあるのだが。

 

「格納庫もいっぱいだぁ」

 

 ここでもやはり大勢のクルーが見える、しかしここにいるのはガリヴァーのクルーではない。格納庫に入った瞬間に誰かが「艦長入室!」と叫んだ。

 中にいるクルーが一箇所に集まって入口のリオを見る。

 

「突入部隊! 全員揃っております」

 

 と、ここに居るクルー達の代表がそう報告する。その代表はなんとガラドであった。かつて短いながらもガリヴァーの保安部隊を勤めたドラゴニアの爬虫人種のガラドが、今度は突入部隊の隊長を勤める。

 

「よし、俺の事は気にせず楽にしてくれ」

「はっ!」

 

 その合図でまた突入部隊のメンバーは散り散りになって各々の作業に戻っていった。一人を除いて。

 

「まさかドクターが突入部隊に志願するとは思ってなかったぞ」

「正確には衛生兵ですよ、治癒魔法ならボクが一番上手く使えますからね」

「止めはしないぞ」

「今更止められても困ります」

「それもそうだ」

 

 クスクスとお互い笑い合う。これが最後になるかもしれないのに気楽なものだと内心で毒づきながら。

 この戦いにおいて四つの部隊が編成された。

 一つ目はベクタークイーンと正面きって戦う決戦艦隊。

 二つ目はベクタークイーンの下半身に突入して内部から直接上半身を切り離す突入部隊。

 三つ目はベクタークイーンを惑星ロビンまで誘い出す誘導部隊。

 四つ目は虚無空間をタイミング良く開いてクイーンを押し込む打撃部隊。

 

「ブリッジから艦長へ」

 

 ドクターと何気ない会話をしていると突如として通信が入った。

 

「リオだ」

「誘導部隊からの報告です、あと三日で所定のポイントまでベクタークイーンを誘い出せるとの事です」

「よしわかった!」

 

 いよいよ作戦開始である。エーテル界の命運を握る決戦の火蓋がついに落とされるのだ。

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