第44話 故郷はエーテルの彼方へ ⑥
突入部隊についての会議はスムーズとは言い難い内容だった。数週間も前の事だがハッキリと覚えている。
いつものVR会議場に集まったのは、リオとサマンタラン、そして突入部隊へ志願した種族達だ。
「突入するに当たってまずは内部の様子を知る必要がある」
この会議の進行はドラゴニア国王が行った。
「ラボラトリーのサマンタランです。内部映像の分析を行いましたところ、やや窒素の割合が多いですが、概ねエンシワ本星とほぼ同じ大気構成をしております」
エンシワの大気構成は地球のと同じである。ただ地球と違ってエーテルも混じっているので、エーテル器官を持たない地球人にとっては空気に異物が混じったかのような不快感が常にまとわりつく。
リオもここに来たばかりの時はよく嘔吐感に見舞われたが、時間も経てば慣れて平気となった。
「それは朗報だな、エーテル服を着用しなくても良いということだ」
「重力はどうなってる?」
ここで手を挙げたのはオーガ人と呼ばれる戦闘種族だ。
「評議会でも言いましたがクイーンの下半身……呼びにくいので以降はクイーンコロニーと呼称しますが、コロニーは独自で回転しており、接地している物にのみ重力がかかります。つまりジャンプすればたちまち無重力化になるわけです」
「じゃあ遠距離武器は使えねぇな!」
その通りだ。回転しているのだから銃や魔法を放っても命中するのは全く違う所になる。ただ無重力化にある敵を攻撃するというのであれば問題はない。
「ガハハ! 近接戦闘に長けた我らオーガ人の出番というわけだな!」
「いや! 近接戦闘に特に長けた我らコボルト人こそが」
「いやいや! 近接戦闘にめちゃくちゃ長けた我らドラゴニアこそが!」
血の気の多い人達が集まったなあと思うと同時に、司会進行のドラゴニア国王が司会進行をほっぽり出して頭の悪い戦いに身を投じないで欲しいと心の中でツッコミをいれた。
尚、この争いは他の人達を置き去りにしてその後三十分程続いた。
「ではこの争いの決着は決戦の時にということで」
「異議なし」「異議なし」「腕がなるぜ!」「うおおおお!」「やるぞぉ!」
なにやら変な感じにまとまった所で本題に戻る。
「事前に伝えた通り突入部隊は三つに分ける、それぞれの突入ルートはサマンタランから」
「はい、クイーンコロニーにはいくつかハッチのようなものがあります。そこから様々なベクターが飛び出して行くのですが。
その中でも特に大きいハッチが一つあります、おそらく大型ベクターを中に入れる時に使うのでしょう」
「なるほど、そこから侵入するのだな?」
「はい、そして突入と同時にこのハッチを破壊して大型ベクターの侵入を防ぎます」
会議場が騒がしくなる。「退路が塞がれるのではないか?」とか「本当に破壊できるのか?」とか「破壊してしまったら空気も抜けないか?」とハッチの破壊に対して多くの者が懸念を抱いている。
埒が明かないのでドラゴニア国王が強制ミュートをかけて黙らせる。
「では一つずつ説明していこう。退路は中型ベクターが出入りするハッチからの予定だ、戦艦に積まれている一般的な光子魔砲の連射で可能との事だ」
「補足しますとクイーンコロニーの耐久性はガリヴァーのフレアブラスターにも耐えられる程ですが、ハッチの部分は開閉させるためか脆いようです、内部映像でも一部破損したハッチが見られました」
「次に空気が抜けないかだが、ラボラトリーから送られてきた画像を見て欲しい」
会議場の真ん中に大きな画像が映し出される。その画像はさっきサマンタランが言った破損したハッチの画像であり、そこには大小様々なベクターが貼り付いていた。
「ラボラトリーの見解では、ベクターが破損した所に貼り付いて接着剤の代わりを果たしているそうだ、つまり破壊すればベクター共が身をもって塞いでくれるうえに戦力を減らす事ができる」
「ほう、自己犠牲の美しい種族なことだ」
ベクターに知性があるとは思えないが、社会性を築いているのは確かだ。そこに自主性かあるかどうはかはまた別である。
「そして突入した後は近接戦闘でベクターを蹴散らしながら結合部へと進み、結合箇所に爆弾を仕掛けてから退避する。退避した後は爆発させてコロニーとクイーンを引き剥がす」
「爆弾はこちらを使います。マスキット爆弾……これ一つで衛星を破壊する威力があります。結合部の装甲は他よりも脆いのでこれで破壊できます」
「オーガ人より質問だ」
「許可する」
「何故結合部が他より脆いとわかる? 映像では結合部が見えなかったと思うが」
「単純にクイーンの耐久値を見積もった結果です。理論上はこのマスキット爆弾でクイーンの装甲にヒビをいれられます」
後から聞いたところによると、ガリヴァーの前クルーが行った自爆特攻で使われた爆弾の数倍の威力だそうだ。
こうして突入部隊の会議は進行していくのだが、この会議においてリオは、実は一度も発言をしていない。ただいるだけだった。
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