第30話 あの艦を目指せ! ⑧
「ここで一つ問題があります。虚無の穴をなんと呼称しましょう? 抜けた先が宇宙なのですから虚無の穴は不適切だと思うんですよねぇ」
「今更ですよ!! 虚無の穴でいいです!」
名前はともかく、既に虚無の穴を開くための算段はついている。
「まずは時空に揺らぎを作ります。これはエーテルを乱すだけで構いません」
「でもエーテルなんていつも乱れてるのに、普段は時空の揺らぎなんて感じられないよねえ」
「ん〜〜、さすがロビンソンさんいい着眼点をお持ちです。実は常に時空は揺らいでいるのですよ、ただ我々はそれを認識できないだけです。
例えば空気は常に流れが変わっていますが、それを目で見ることはできませんよね?」
「なるほど」
エーテルを乱すのは簡単だ魔法を使えばいい。この場合は機械を通すので魔砲を使うこととなる。ブリタニア号にある攻撃魔砲は光子魔砲のみ、出力を最大にして空撃ちすればエーテルを乱せる筈だ。
「乱れたかどうかはレーダーで測定しないとわかりませんのでご注意を、乱れた後は虚無の穴を生成するために更に魔砲を使わなければなりません。これはこちらでプログラムした次元魔砲を使用します」
「次元魔砲、始めて聞きますね」
「ワタクシがさっき作りましたので」
「大丈夫なんですか?」
「多分大丈夫ですよ」
不安だ。
しかしダメで元々、やってみる他ない。早速各員が所定位置に着いて各々のやるべき事を行う。まずは光子魔砲を放って前方のエーテルを乱す。
揺らぎはわからないが、サマンタランの「成功です」の言葉からレーダー上ではエーテルの揺らぎが観測出来たことがわかる。
続いて次元魔砲を使うのだが、使用前にまたサマンタランが「名称はどうしましょう?」と聞いてきたので「次元魔砲で!」のドクターの一声で収まった。
「次元魔砲を発射してください」
「はいドクター」
ブリタニア号の上下から二枚の魔法陣が現れ、それらはフリスビーのように回転しながら飛んでエーテルが揺らいだ場所へ行く。そしてエーテルの揺らぎを挟み込むようにして向かい合うと、お互いの魔法陣を雷のような電流が行ったり来たりし始めた。
しばらく待つと、次第に穴が形成され、そして直径一キロメートル程の大きな真っ黒い穴が出来上がった。
「虚無の穴の生成に成功しました」
「じゃあ突入しましょう」
「いえ、それは待ってください」
ドクターの号令に対して副長が待ったをかける。
「このまま宇宙へ行くとブリタニア号は航行不能になってしまいます」
「あ、そうでした。向こうにはエーテルが無いんでした」
「それなんだが、内燃機関搭載のシャトルを使えばいいんじゃないか?」
ヒデの提案が採用された。このブリタニア号にはシャトルが一機搭載されている。それはなんと最初にガリヴァーへ避難する時に使われたあのシャトルである。
地球とアルファース間を行き来するシャトルには、エーテルリアクターだけでなく内燃エンジンも搭載されているため、宇宙でもエーテル界でも活動できるのだ。
この内燃エンジン搭載シャトルは意外にもエンシワ連盟には存在しておらず(そもそもエーテルが無限供給されるのだから必要無い)、ラボラトリーの興味を大きくひいたらしい。
「いいですねぇ〜、それではワタクシも行きましょうかねぇ」
「いやサマンタランさんが行っても魔法が使えないんだから動けないですよ」
「ご安心ください、ワタクシこう見えて皆さんの足手まといにしかなりませんので」
「だから嫌なんですよ」
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