第29話 あの艦を目指せ! ⑦

 多少のトラブルはあったが、ブリタニア号は無事にガリヴァーがロストしたポイントに辿り着く事ができた。辿り着いたはいいが、予想通りそこにはガリヴァーの面影は無く、隕石片とベクターの死骸、そしてガリヴァーの物と思われる装甲片があるだけだった。

 

「妙ですね」

 

 スキャン結果を見ながらサマンタランがボヤいた。

 

「何かおかしな所があったんですか?」

「いえね、破片が少なすぎるんですよ」

「でもドラゴニア国王が破片すら見つかるか、て言ってたじゃないですか、こんなものじゃないんですか?」

「ドラゴニア国王の言う破片はあくまでエンジンやブリッジなどの重要な機関の破片の事を言っています、広域スキャンをかけましたが、やはりエンジンやブリッジの破片は見つかりませんでした。

 それどころか、この周囲にしか装甲の破片が無いのですよ」

 

  艦が大破した場合はその場に滞空するか、爆発や隕石にぶつかって流されていくかで、時間が経てば経つほどそれらは広範囲に散らばる筈だ。

 しかしガリヴァーの破片はこの周辺にしかない、まるで忽然と消えたかのような。

 

「言われてみると確かに変ですね」

「予想は付きますが、余計な事を言うのは控えておきましょう。少しここに滞在して調べさせてください」

「はいわかりました」

 

 本当なら、破片の流れに沿ってガリヴァーを探すつもりだったのだが、予想外の時間ができてしまった。

 

「ロビンソンさん、ちょっとシミュレーターに付き合っていただけませんか?」

「あたしでよければ!」

 

 前回の事もあり、ドクターは少しでも艦長の務めを果たせるようシミュレーターを行っているのだが、いかんせん一人かつ素人では限界が直ぐに来てしまい詰まってしまう。

 副長も手伝ってはいるが、彼は余りにも機械的すぎて訓練にならない。効率を学ぶという点では参考になるが。

 というわけでドクターとロビンソンは二人仲良く艦長シミュレーターをウンウン唸りながらこなしていく。

 サマンタランの調査報告が上がったのは更に三時間後の事である。全員をブリッジに集めて報告が始まった。

 

「皆さん、謎は全て解けました」

「おう、ガリヴァーの居場所はわかったんだな」

「いいえ、それはまだ。ですがガリヴァーの軌跡は判明しました」

「軌跡? それってつまりガリヴァーはここで破壊されてないって事ですか?」

「はいそうです」

 

 ドクターとヒデはホッと安堵する。ガリヴァーの結末を覚悟はしているものの、目の前で現実として叩きつけられるのは苦しいものだ。

 

「ワタクシの調査で八キロメートル先で時空の揺らぎが測定されました。それもただの揺らぎではなく、虚無の穴です」

「虚無の穴、確かドラゴニアの……誰だったか、誰かが言ってたな」

「ガラドさんですよ、確か虚無空間へ繋がる穴で、そこはエーテルも何も無い漆黒の世界だって」

「はいはい! アタシも虚無空間は知ってるよ、そこに行くとエーテルリアクターが稼働しなくなって動かなくなっちゃうんだって、死後の世界とも言われてるらしいよ」

 

 聞けば聞くほど最悪の空間でしかない、それがたった八キロメートル先にあるのかと思うとゾッとしてきた。エーテルが無いのなら魔法も使えない事でもある、エーテルを使った魔法は最早生活の一部、無くてはならないものだ。

 それが無いというのなら、まさしく地獄や死後の世界なんて言われてもおかしくない。

 

「はいその通りです。虚無空間はそれはそれは恐ろしい空間なのですよ、少なくともエーテル界に住む我々にとっては。

 しかしそうではない人々もいます」

「そんな人達いるんですか?」

「ワシも見当がつかんぞ」

「アタシもわかんないかな」

「おやおや、ロビンソンさんはともかく。ヒデさんやドクターはご存知の筈でしょう?」

「「え?」」

「だってお二人の住む星は、まさにそのエーテルの無い世界と交流をしているじゃありませんか?」

「「あぁっ!!」」

 

 そうだ、その通りだ。見落としていた。ドクターとヒデの故郷アルファースは、エーテルの無い宇宙に漂う地球と交流をはかっているのだ。

 つまり虚無空間とは他でも無い、宇宙を指していたのだ。

 

「そうか、リオさんは虚無空間……いえ、宇宙へつながる道を見つけてそこに飛び込んだんですね!」

「ええその通りです、ワタクシ達でしたら虚無……いえ、宇宙と呼びましょう。エーテルの無い宇宙へ飛び込む事など考えられない、ワタクシなんて魔法が使えなかったら芋虫みたく這いずらなくてはなりません」

「だが宇宙を調べるのはいいとして、どうやって調べるんだ? エーテルリアクターが使えないなら飛び込む事はできんだろ?」

「それだけじゃありませんよ、仮に宇宙への道を開けられたとして、ガリヴァーと同じ場所に出られるとは限らないんじゃありませんか?」

 

 このドクターの指摘はサマンタランのご機嫌を良くしたようで、彼は「いい着眼点ですね」と言ってからモニターへある論文を表示した。

 

「これは皆さんがロビンさんを発見した惑星……仮に惑星ロビンと名付けましょう。惑星ロビンの周辺を調査した時の論文です。

 ドラゴニアのアチータとそこの副長の二人で書いた論文、間違いありませんね?」

「はいサマンタランさん、その通りです」

「この論文では時空の揺らぎについての調査結果がまとまっており、また意図的に時空を歪める方法についても書かれています」

「へぇ、すごいねえ。その論文があれば宇宙への道も開けるんじゃないの?」

「その通りですロビンソンさん! ここは常に時空が揺らいでた惑星ロビンとは条件が全く異なりますが、この論文を応用して全く同じ道を開く事は可能です。

 更に根拠はまだあります、アーサー王の話は覚えていますね?」


 記憶に新しいので当然覚えている。


「戦争が終わったのち、アーサー王の記録は地球へ持ち帰られました、アーサー王自身かその知り合いかはわかりませんが、少なくともドラゴニアと地球は間違いなくあの時繋がっていました。そう、アーサー王が来てから戦争が終わるまでの期間」


 つまり、今ならまだガリヴァーの元へ繋がる道が開く可能性が高いという事を歴史が示しているわけだ。

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