第31話 あの艦を目指せ! ⑨

 突入メンバーはドクターとヒデとロビンソン、副長とサマンタランはブリタニア号に残ってサポートと決まった。シャトルの準備が整い次第出発する。

 ロビンソンの操縦するシャトルは視界一杯を暗黒に塗りつぶす虚無の穴へと向かっていく。

 

「虚無の穴へ突入したよ」

「ヒデさん、エーテルリアクターを解除して内燃エンジンに切り替えてください」

「よしきた」

 

 内燃エンジンが起動してゆっくり暖まっていく。今は慣性で進んでいるが、虚無の穴を抜ける頃には内燃エンジンで推進していることだろう。

 ふと目の前の空間が歪んだ気がした、かと思えば次の瞬間には真っ黒な世界が広がり、そこには無数の白い光点が瞬いていた。

 

「宇宙だ」

 

 ドクターの口から自然とその単語がでてきた。ここが宇宙のどこかはわからないが、間違いなくここは宇宙だ。

 バックカメラを確認すると虚無の穴があったので抜けたのは確かだ。

 

「サマンタランさん、聞こえますか?」

「はいドクター、通信感度は良好です」

 

 通信機は問題なく使えるようで安心した。といってもエーテルが無いのでずっとは使えない、直ぐに調査を終わらせて戻らなくては。

 まずは観測から、副長が周囲の映像から現在地を測定する。

 

「観測の結果、ここは地球から三万光年離れた宇宙域にあるアステロイドベルトのようです」

「アステロイドベルトってなーにー?」

「小惑星帯の事です、付近に生物の住む惑星は見当たりません」

「んーーー、エネルギーが無いのでガリヴァーがアステロイドベルトの外まで避難したとかはなさそうですねぇ」

「ガリヴァーはあの時、ベクターに追われていました。リオさんならきっと近くの惑星に隠れるんじゃないでしょうか?」

「その可能性が高いな」

 

 無数にある小惑星を一つ一つ探すのは無理だ、しかしガリヴァー程の大きさを隠す事ができ、更に虚無の穴を監視できる位置にいる、それだけの好条件となるとかなり絞られる。というよりほぼ確定で見つかる。

 

「見つけました! ガリヴァーです!」

 

 ドクターの興奮した声がシャトルに轟く、モニターにはアタリをつけた惑星の表面が映されている。

 惑星にある谷の底、挟み込まれるようにしてその艦はあった。谷の両側には高い山があるので隕石や他の小惑星との衝突から免れている、まさに絶好の監視ポイントといえる。

 更にここは宇宙なのでクイーンの心臓も活動を停止している筈だ、ベクターからはそうそう見つかりづらい。

 

「んーー、いい隠れ場所ですねぇ。では早速突入してください」

 

 ゆっくりと谷間へ向けてシャトルが前進する。進めば進むほど見慣れた造形の艦が迫ってくる。しかしその外観はボロボロで、ほんとにガリヴァーなのかと一瞬疑う程だ。

 禿げた外装を横目で見ながら通常出入口まで移動して横にシャトルを着ける、ロープで固定してから宇宙服に着替えて外へ、ドアを開けて中へ入った瞬間、猛烈な冷気が三人を襲った。

 

「うわ! さむさむさむー」

「寒っ! どうなってんだ?」

「この辺りの気温はそんなに低くない筈なんですけど」

 

 中の空気は完全に抜けている、それで気温が下がったとかは無さそうだが。ひとまず冷気に耐えながら通路を進んでいく。外の破損状況から中も酷いものだと思っていたが、存外そこまで荒れておらず安全に移動できる。

 灯りは付いていないので足元だけライトで照らして移動する。暗くてわかりづらいが、何度も何度も歩いた通路だ。迷いなく歩く事ができる。

 最も重力制御システムが停止しているので歩くというよりはスライドするようにして移動している。

 

「まずはブリッジに行きましょう」

 

 艦の制御システムを管理している所から攻めるのは道理、迷いなくブリッジに辿り着きはしたのだが生憎入る事はかなわなかった。

 自動ドアだから勝手に開かなかったとかではない、手動でドアを開いたのだが、なんとブリッジ全体が巨大な氷で封鎖されていたのだ。

 

「冷気の正体はこれですか!」

「なんでこんなバカデカい氷があんだよ」

 

 反対側のドアへ移動してみる、こちらは入口付近に氷がなくすんなり入れたが、氷はブリッジの八割近くを埋めつくしており、それは勿論艦長席も同様だった。

 

「リオ……さん」

 

 ドクターとヒデが艦長席を見て固まった、二人の視線を追いかけてロビンソンがその姿を見る。二ヶ月前と全く変わらない姿でリオ・シンドーがそこにいたのだ。

 氷の中で眠るように。

 

「リオ、おめぇこんなところで」

「でもこんなデカい氷ってどこからきたんだろ?」

「んーー、これはワタクシの仮説なんですが。おそらく彼は自らを氷に閉じ込める事で無理矢理仮死状態にしたのではないかと」

「コールドスリープという事ですか?」

「はいその通りです」

「だがこの艦にコールドスリープ装置なんざないぞ、それどころかこんな氷を作る装置だって」

 

 そこまで言ってからヒデの口が止まる。彼の脳裏にある方法が浮かんだからだ。そう、この艦にコールドスリープ装置等ない。だが氷を作るシステムはある。

 

「氷結魔砲だ」

「え?」


 一度だけ使った事がある、惑星ロビンにて巨大なイカに襲われた時にリオが遠隔で使用していた。つまりリオはブリッジに向けて氷結魔砲を使ったという事だ。

 

「そうだあの時リオさんが氷結魔砲て、確か名前が」

「「アイスコフィン!」」

 

 氷の棺とは言い得て妙なものだ。


「サマンタランさん、リオさんは助けられると思いますか?」

「おそらく可能でしょう、これはただの氷ではなくエーテルの氷です。詠唱コードを書き換えればコールドスリープ用に変換する事もできたはずです」

「でしたら一度戻りましょう。リオさんを助けるためにも」

「あぁ、そうだな!」

 

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