第16話 闇の道を歩むとも ③

 ドレニアメローの物資が次々とガリヴァーの格納庫へと運ばれていく。納品の指揮をとるのはヒデとガラド、二人の指示によってドロイドとドレニアメローの保安部員が荷物を運び込んでいく。

 その光景をカメラ越しに眺めながら、副長はリオへ通信をとばす。

 

「よろしいのですか? まだ彼等の事を完全には信用されていないのでしょう?」

「そりゃあな、いくら連盟の人間でも悪い奴はいるだろ」

「ではよく受け入れようと思いましたね」

「この艦にいるなら信用できるさ。艦長権限で副長に命令する、ドレニアメローの奴らが怪しい動きを見せたら拘束せよ。やり方は任せるが基本は毒ガス、毒はあとでドクターに作ってもらう。ドラゴニア人の身体データを学ぶために今ドレニアメローの負傷者の手当をさせてるんだからな」

「そういう事でしたか、かしこまりました。彼等が怪しい動きを見せたら無力化します」

「よろしく……いや訂正、さっきの命令は俺たちにも当て嵌めといてくれ、そうでないとフェアじゃないだろ?」

 

 そう言ってリオが通信を閉じた。静かになったブリッジにて副長は艦内の監視と点検を行う。始めてリオがこの艦に来た頃は、彼が感情で動く人間だと分析していたのだが、今は感情で動くという評価は変わらないものの、そこに論理を加えてどこか理性的に動く人間なのだと考えている。

 艦長に適した人間というのは得てしてロマンティストとロジックを共存させているものだと言われている。そういう意味でリオは艦長に適していると言える。

 前任者はほとんど勢いでリオに艦長権限を託したが、その判断は正しかった。

 

「艦長に機関士そして医者、初手で艦に必要な人員が揃っていたのはあまりにも幸運でしたね」

 

 地球の言葉に運も実力のうちという言葉がある。この幸運も彼の実力であるならば、連盟始まって以来の逸材なのかもしれない。

 

 

 ――――――――――――――――――――

 

 

 数時間前。


「王様を助けて欲しいだって?」

 

 アチータから出された条件、それはドラゴニアを統べる国王の救出であった。そもそも彼等は王族の避難船を護衛する部隊の一つであったのだが、先の戦闘で殿を勤めたがゆえはぐれてしまったのだそうだ。

 

「本来ならあそこで死ぬ覚悟だったが、こうして生き延びてしまったのなら民間人の君達に頭を下げてでも助けに行きたいのだ。無理ならせめてシャトルだけでもいただけないだろうか」

 

 彼女の言葉に嘘はないだろう、副長に連盟のデータベースを確認してもらったのだが、彼女らは本当に王族を護衛する直属の騎士なのだそうだ。ドラゴニア人は名誉と正義を重んじる惑星だが、特に騎士の位を持つ者達はその傾向が強く、それらが守れなかった時は家名を守るために自ら首を切り落とすらしい。

 

「ふむ」

 

 考える素振りを見せてはいるが実の所リオの中で答えはでている。あえて考えるフリをする事で相手の焦燥を煽り、こちらにとって有利なものを引き出そうとしたのだが、相手はリオ以上に経験を積んだ歴戦の勇士、そうそうそのような焦りは見せてこない。

 

「いいだろう、ただしこちらからも条件がある」

「言ってくれ」

「まず一つはガリヴァーへ乗艦した際に、君達は俺達の下についてもらう事、つまり部下になれという事だ」

「構わない、二つ目は?」

「国王を救出したら、ドラゴニアに俺達の保証人になってもらいたい。これはエンシワ連盟と交渉する時を想定してのものだ」

「私の一存では決められないが、救出の暁には国王へ嘆願しよう」

「それでいい、早速始めよう」

 

 その後、リオとアチータで更に細かい取り決めがなされたが、それは割愛しておく。

 二人の会議が終わり、リオはドクターの様子が気になってドレニアメローの医療室へ向かった。この時には既に物資の移動が始まっており、副長へのいざと言う時のための指令もだし終えていた。

 

「ここが医療室だな」

 

 自動ドアを開けて入ると、薬品の匂いに混じって血と吐瀉物のすえた臭いが鼻腔に突き刺さるかのような錯覚がする。

 ドクターは何処かと歩を進めようとした瞬間、目の前に白衣をドラゴニアの青い血で染めあげたドクターが両手を広げて通せんぼする。

 

「リオさん、これ以上は進まないでください」

「お、おう」

「今は治療中ですので要件は手短にお願いします」

「えっと……ガリヴァーの医療室へ患者を移動させたらどうかな」

「その発想はありませんでした。確かにガリヴァーの方が衛生的にも大丈夫ですし……ありがとうございます! 早速打診してきますね!」

「が、頑張って」

 

 流石にドラゴニア人を無力化する毒を作ってなんて言える雰囲気ではなかった。

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