第15話 闇の道を歩むとも ②

  艦内のベクターを掃討して一息ついた頃には、自分がアドレナリンで興奮状態だった事に気が付いた。落ち着いて思い返すと身体が震える、戦闘の恐怖ではなく、自分があまりにもあっさり戦えた事にだ。

 ベクターとの戦いにも慣れてきたつもりだが、やはり直接戦うとなると違う、ベクターといえども生物なのだから、自分の手でその生命を奪うというのは言いようもない気持ち悪さがある。

 おそらくこういう事には直ぐに慣れるだろう、実際二回目以降は躊躇いなく引鉄を引けた。

 思わず投げ出しそうになった銃をホルスターにしまい込み、ガリヴァーへ通信をとばす。


「お疲れ様です艦長」

「副長か、そっちは異常ないか?」

「こちらは問題ありません。周囲にベクターの反応もありませんので安全を確保できたと判断してよろしいでしょう」

「わかった。今更だけど彼等は信用して大丈夫か?」

「大丈夫です。エンシア連盟とドラゴニアは密接な交流を行っておりますので、我々がエンシア連盟だと思われてる間は敵対してきません」

「そうか、なら副長の方から俺達の事情を説明してくれ、勿論俺達がエンシア連盟の者じゃない事も説明してな」

「よろしいのですか? 黙っていれば穏便に交渉ができますよ」

「嘘をつくメリットは無い、現に今は彼等に貸しを作ってるんだ。どの道彼等は手を出してこないよ。まあドラゴニアが蛮族の集まりなら話は別だけど」

「ドラゴニアは名誉と正義を重んじる騎士の国です。不義理なことはなさいません」

 

 それならば安心だ。細かい事は副長に任せて艦長の元へ向かう事にしよう。保安部隊長ガラドに案内を頼みドレニアメロー艦内を進む。

 ざっと見る限り内部の破損はそこまで酷くなさそうだ。

 艦は大体三〇〇メートル程なのでガリヴァーの半分くらい、しかし人員はガリヴァーの倍以上いる。

 

「人が多くて羨ましいな、こっちは人手不足で大変」

「しかしそちらは確かコンシェルジュ機能のおかげで無人でも動かせると聞きます」

「動かせるだけなんだよ」


 そうやって雑談を交わしながら奥へ向かう、ブリッジの隣のデッキに着いて間もなくリオは大きめの部屋へ通される。

 

「ここは会議室です、しばらくすれば艦長が来ると思いますのでお待ちください」

「ああ、わかった」

「いやその必要は無い」

 

 聞き覚えのある声だった。振り返るとさっきモニター越しに会話したドレニアメローの艦長が立っていた。

 確か名前はと思い出そうとするのだが、うっかり忘れてしまった。これから大事な話をするかもしれないというのに相手の名前を忘れるなど失礼極まりない。

 ベクターと相対した時とは別種の恐怖が背中を駆け抜けて、冷や汗で体温が一気に下がるような錯覚すら覚え始めた。

 

「ガリヴァー艦長のリオです、こちらの事情は副長から伝わっているでしょうか?」

「ドレニアメロー艦長のアチータだ、そちらの事情は伺っている。中で話そう」

 

 名前はアチータ、覚えた。

 アチータは哺乳人種のドラゴニア人、身長は二メートルもありカンガルーのような外観に板金鎧のような衣装を纏っている。ガラドもそうだが、ドラゴニアはどこか中世や近世ヨーロッパの騎士を彷彿とさせる衣装が多い。

 中に通される、部屋には何もなく人工芝が敷かれているだけだった。野生的というよりは、彼等の骨格からして椅子に座るよりは直接床に座るか寝転ぶかした方がいいのだろう。

 実際アチータは部屋の中央で足を伸ばしながら横になったので、リオもそれに倣ってアチータの前で胡座をかいた。

 

「椅子を用意するべきだった、直ぐに持ってこさせよう」

「いやお気遣い結構、俺はこのままでも大丈夫」

「では、改めて救援感謝する。何かお礼をしたいが生憎いい物は期待できない」

「お礼をしたいなら情報が欲しいな」

「私が知っている事なら何でも話そう、それと心苦しいが、あつかましい願いを聞いてもらいたい」

「報酬は?」

「君達の欲しいものを渡そう」

「情報以外で渡せるものあるのかい?」

「ああ勿論……人員とかな」

「詳しく聞こうかな」 

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