第四章

第14話 闇の道を歩むとも ①

「ドレニアメローに通信を、それからホーミングエレキテルの準備!」

「はい艦長、通信繋がります」

 

 リオの前方やや上にホロモニターが表示され、ドレニアメローの艦内が映される。真ん中には艦長と思われるドラゴニア人がいた。

 ドレニアメローのブリッジは自分達がよく知るものとは大幅に違っていた。まずコンソールの類が見当たらない、椅子も無い。唯一艦長らしき人物は一段高い箱の上に座っている。

 艦長は足が非常に太くイヌ科やネコ科にみられるつま先立ちで踵が長い骨格と同じだ。腕は足に比べたら細いが、筋肉が逞しくついている。首は長い、顔も前に伸びている。

 リオが知っている動物で例えるなら、カンガルーがソレに近い。

 

「こちらドレニアメロー艦長のアチータだ、見ての通り本艦はベクターに襲撃されている。既に超小型ベクターが艦内にも侵入した、救援を求む」

「了解した、まずは外のベクターを殲滅してから中に入る」

「感謝する」

 

 そこで通信が途切れ、リオの視線は再び外のベクターへ移った。

 

「ドクターとドロイド四機をシャトルへ、ドロイドには白兵装備を。魔砲は発射準備が整い次第発射」

「はい艦長」

「ふぅ、しかしドラゴニアて言うからもっとトカゲチックなのかと思ってたけど、意外とアニマルなんだな」

「あれはドラゴニアの哺乳人種です、ドラゴニアには大きく分けて哺乳人種、爬虫人種、妖精人種の三種類の人種がおります」

「へぇ、妖精人種が気になるなあ」

「ホーミングエレキテルの発射準備整いました」

「発射」

 

 ガリヴァーの左右に小さな魔法陣が出現し、そこから電気で形成されたミサイルがドレニアメローを襲うベクターを一匹残らず殲滅していく、ここにいるのはアブベクターのみなので火力はこれで充分な筈だ。

 念の為広域スキャンをかけてタガメベクターやベクターマンティスがいないかを確認して乗り込む準備を開始する。

 

「今からそちらへ乗り込む、誘導を」

「了解、左舷ならこちらで制圧しているからそこからがいいだろう」

「ドクターも連れていく、負傷者への案内も用意しといてくれ」

 

 リオは直ぐにブリッジを離れ格納庫へ移動する。予め格納庫にはフェイズガンを用意してあるので、それを装着してからシャトルへ乗り込む。

 シャトルでは既にドクターが待機しており、リオが乗ってきた時は驚いて目を見開いていた。

 

「リオさんも行くんですか!?」

「ああ、ブリッジは副長に任せてきたから大丈夫だよ」

「普通艦長はこういう時艦に残るものでは?」

「ヒデさんは機関士長だから外せないし、副長は外に出られないから必然的に俺が行くのは当然だろ?」

「別にボク一人でも」

「ドクター一人も心配だし、それに白兵戦用に色々準備しておいたから試しておきたいんだよ」

「ボクの心配はオマケですか、ふーん」

「なに拗ねてんのよ」

 

 誘導に従ってシャトルを左舷に付け、そこから内部へ突入する。エア漏れは起きてないらしくエーテル服無しでも呼吸ができる。

 

「よし、ドロイド隊ゴー」

 

 シャトルから白兵装備のドロイドがでてリオ達の先頭を進む、このドロイドの装備に攻撃能力は備わっていないが、代わりに大きな光学シールドを持たせてある。

 

「まずは合流だな」

「あっちから音が聞こえます」

 

 ドクターの指し示す方から爆発音や打ち合う音が聞こえる、どうやら近くで戦闘が起きているらしい。

 ドロイドを先行させ戦闘箇所へ、司令デッキに繋がる通路上で、案の定ドラゴニア人がバリケードを作りながらコガネムシベクターと戦闘を繰り広げている、哺乳人種と爬虫人種の混成部隊の彼等は手の平から魔法陣を展開してそこから火炎球やレーザーのようなものを発射して押しとどめていた。

 ローブを纏ったいかにも魔法使いといった風体の集団が、弾幕を張ってコガネムシベクターを倒そうと躍起になっている。

 その中の一人がリオ達に気付いて駆け寄ってくる。近くでみるとトカゲのような顔立ちをしている、身体はローブでわからないが、おそらくさっき副長から聞いた爬虫人種というものだろう。漫画やゲームでよく見るリザードマンみたいだ。

 

「援軍感謝します」

「悪いな、こっちで白兵できる奴少なくてこんだけだ。この子はドクターだ、怪我人の元へ案内してくれ」

「治療は任せて下さい」

「感謝します、こちらへ」

 

 爬虫人種の彼はドクターを連れて艦内の奥へ向かう、現場指揮官へ紹介してほしかったがいたし方ない。

 こちらの事は既に認知している筈なので、ひとまず邪魔にならないよう移動しよう。

 

「バリケードが崩れたぞぉ!」

 

 どこからかそんな報告が聞こえた。交差点の右側からタガメベクターが押し寄せて来るのが見える。魔法使い達が腕を構えて魔法の準備をしているが、さっきの戦いをみる限りではおそらく間に合わないだろう。


「ドロイド隊、前へ」

 

 ゆえにリオはドロイドを前に出してバリケードの代わりとした、光学シールドを装備したドロイドの馬力はヒデに頼んで上げてもらっているのでしばらくはもつ筈だ。そしてそのしばらくの間にリオはハンドガン型のフェイズガンを構えて照準をつける。照準越しに見るベクターは、普段モニターやレーダーで見るのとは違い、余りにも恐ろしかった。


「はぁ……はぁ」


 まだ何もしていないのに自然と呼吸が乱れる。練習で何度か握った銃は、実際の重さよりも遥かに重く感じる、腕が震えるのは重いからなのか、それとも緊張からか……いずれにしろ小型魔砲のフェイズガンはエーテルをチャージしているので貯まれば撃つことになる。チャージ時間は僅か二秒程の筈だが、何故か数分くらい経った気がする。

 ふと、ベクターと照準越しに目が合った。反射的に引鉄を引いた。

 フェイズガンから放たれた光子魔砲は、真っ直ぐタガメベクターの胴体を貫いてその活動を停止させる。

 

「は、ははは……なんだよ、意外と簡単じゃないか。ふふふ」

 

 こぼれ落ちる笑いは、安堵から来るものなのか、それとも。

 リオに魔法の類は使えないが、こうして機械を通せば魔法を使うことができる。元々は魔法を学ぶためにアルファースに行こうとしていたのだ、思わぬ形で達成されてしまったのは何とも複雑な気持ちである。

 余韻に浸る間もなく、リオの元に鎧のようなものを付けた爬虫人種が現れた。

 

「ドレニアメロー保安部隊隊長のガラドです。援護感謝します」

「ガリヴァーの艦長リオだ。外のベクターは全滅したから後はこの中だけだ」

「かしこまりました。聞いたかお前ら!! 外の敵は全滅だぞ!!」

「「「うおおおおおお!!」」」

 

 野太い雄叫び、というよりも咆哮に近い叫びが響く。声帯の方も人間とは大幅に違うらしい。

 その後、ガラドの指示でドロイドを動かしながら一体ずつタガメベクターを倒していき、一時間後には艦内のベクターを殲滅する事ができた。

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