第19話 【大蛇に変身する悲しい人】コブラ・ノラト(O Cobra-Norato)

 コブラ・ノラトの物語は、インディオに伝わる伝説の一つで、特にパラー州で聞かれるそうだ。その話は次のようなものである。



 昔、トカンチンス (Tocantins) 川の沿岸えんがんに住む、あるインディオの女性が双子を産んだ。生まれた子はアナコンダの男の子と女の子だった。2人の子は、生まれながらにして蛇の姿になる呪いをかけられていた。母は、蛇といえども我が子と思い、男の子にノラト、女の子にマリアと名づけ、村の人には秘密にして、2人を育てることにした。


 ノラトは、昼間のうちは人間の姿でいられるのだが、夜になると体中にうろこが生え、蛇の姿になった。それでも心の優しい青年に育っていった。一方、妹のマリアは、姿だけでなく性格までもが蛇となって育ち、船を襲っては人々をみ込んだ。人々は、悪魔のような大蛇が現れるようになったと、アナコンダ退治のために兵隊を呼ぶことにした。

 ちょうどそのころ、正義感の強いノラトは、マリアの乱暴な振る舞いに悩み、マリアを殺してしまった。そして、妹を殺した罪にさいなまれ、家を飛び出した。


 放浪ほうろう生活の途中で、しばしば人里に立ち寄ることや、旅の人と話すこともあったが、夜になると蛇に変身してしまうので、ノラトは人目を避け、いつも野宿をした。


 そんなある夜、一人の勇敢ゆうかんな兵士がノラトの前に現れた。兵士は、蛇の姿をしたノラトにおくすることはなかった。むしろ悲しみに震えているノラトを気遣きづかい、優しく上話うえばなしを聞いた。ノラトの話を聞いた兵士は、いにしえより伝わる、蛇になった人間を元に戻す方法を知っていると言い始めた。それは、剣で蛇のノラトの体を傷つけるというものであった。きたえ抜かれたはがねには、呪いを破る力があり、呪われた血を剣に触れさせればよいのだという。ノラトは兵士を信じ、そして身を委ねた――。


 その後、夜にうごめく蛇のノラトを見た者はいないそうだ。

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