第9話 【ブラジルの河童】カベッサ・ジ・クイア(O Cabeça de Cuia)

 カベッサ・ジ・クイアは「ひょうたん頭」という意味がある。この妖怪は、ブラジルの北東部にあるマラニョン州やピアウイ (Piauí) 州に伝わり、パルナイバ (Parnaíba) 川やポチ (Poti) 川の水底にんでいる河童かっぱのような妖怪とされている。この地方では4月頃にしばしば洪水が起こる。この時期、金曜日の夜になると決まって、この妖怪は姿を見せる。


 「ひょうたん頭」という名前だが、頭の形がひょうたんなのではない。この妖怪の頭は、普通の人間と同じか、エジプトやマヤの壁画にあるようなコーンヘッドと呼ばれる長い形をしているといわれている。その頭には髪が長く垂れ、体はせていて、背が高い少年の姿をしている。


 なぜ、この妖怪が「ひょうたん頭」と呼ばれるかというと、出現場所である川の上流にはひょうたんが多く生息し、それが成熟せいじゅくして実を落としたころに雨季うきが始まり、水に流されたひかわもょうたんが浮かんでいる川面かわもに、水中から頭を出すからだそうだ。

 このカベッサ・ジ・クイアは、実はもともと人間で、かつてはポチヴェーリョ (Poti Velho) という小さな村で漁師をしていたという。名をクリスピンといい、母と暮らしていた。そんなあるとき、母に呪いにかけられて妖怪になった。そのいきさつとして、次のような伝説が残されている。


 クリスピンは貧しい漁師だった。ある時期、不漁が続いた。たくわえが少なかったので、食事は日に日に粗末そまつなものになっていった。そんなある日、とうとう夕食が牛の骨のスープだけとなった。しかしスープだけでは空腹は満たされない。そこでクリスピンは骨髄こつずいをほじくりだして食べようとしたが、なかなか取り出せなかった。苛立いらだったクリスピンは、あろうことか母の頭に骨を打ちつけて、その勢いで骨髄こつずいを取り出そうとした。母は激しく怒り、彼をののしり、呪いをかけた。呪いをかけられたクリスピンは、気が狂ったように走りだし、ポチ川に飛び込んで消えた。

 その日以来、川に漂流ひょうりゅうするひょうたんにまぎれて、川で水浴びをする子どもを水中に引き込む妖怪が現われるようになった……。


 カベッサ・ジ・クイアが呪いを解くには、7年以内にマリアという名前の処女を7人食べなければならないとされていた。しかしその課題をクリアすることができなかったようで、この妖怪は今でも川の底に生き続けているという。


 カベッサ・ジ・クイアは、ピアウイ州では有名な妖怪である。州都テレジナ (Teresina) の街では、4月の最終金曜日を「カベッサ・ジ・クイアの日」として祝う法律が2003年に制定された。また、ポチヴェーリョ村には、このカベッサ・ジ・クイアの石像が建てられ、土地の人によって伝説が語り継がれている。

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