第3話 帰還~故郷へ帰る~



 まさか宇宙船の船長が僕の……父さん。


 ニュースは続いていた。


 火星移住化いじゅうか計画の一つ、テラフォーミング(地球化)の進行状況について五条ごじょうキャスターが説明している。


 スペースコロニー(人工の居住地)も最終段階に進み、実験的に送られた百名は健康に問題もなく過ごしているという。


 僕は火星の地球化計画が始まった年に生まれたと母さんから聞かされていた。

間違いない。八嶋健人やしまけんとは僕の父さんだ!


 そう思うと、今まで父親が不在なのもしっくりとくる。


 確か火星までは三百日近くかかると言っていた。きっと父さんはスペースコロニーの建設、いや僕たちの家を建てに行っているのだ。


 そりゃ長らく家を空けるわけだ。僕は今までのことがみょうに納得できた。


 小さな頃、僕が「父さんはどこにいるの?」と聞くと、母さんは決まって空を指さした。そして、「きっとお父さんもこっちを見ているわよ」と言っていた。


 その時は絶対うそだと思っていたが、実は本当の事だったのかもしれない。


 僕の頭はテレビに写った八嶋健人のことで一杯になった。


 すると、あの石は何だろう。火星の石なのだろうか?僕は頭をフル回転させ八嶋健人やしまけんと八嶋碧人やしまあおとを結びつけるパーツを集め出した。その時電話が鳴った。


碧人あおと、まだ起きてたの?」


「起きてるよ」


 僕はドキドキしながら答えた。そして、母さんを困らせるかもしれないが、今僕の心を埋め尽くすあのことを口にした。


「ねぇ母さん」


「なあに?」


「僕の父さんって八嶋健人やしまけんとって人?」


「……ビンゴ!」


 母さんの明るい声が聞こえて僕はほっとした。


「気がついちゃったのね」


「何それ。何で内緒にしてるだよ。僕は……僕は、ずっと悩んでたんだ」


「ごめんね碧人あおと。父さんの仕事はね、生きて帰れるか分からない仕事だから父さんと相談して一段落ひとだんらくするまでは碧人には秘密にすることにしたの」


「そんなのって、そんなのってずるい。僕だって父さんを心配したかった。もし、事故で死んだとしても悲しめないじゃないか!」


 僕は今までまっていた感情を爆発させた。母さんはだまって僕の話を聞き続けた。僕がどれだけ不安で孤独こどくでいたかをなぐりつけかのように母さんにぶつけた。そしたら母さんはあっけらかんとこう言った。


「ごめんね。半年後、お父さんが帰還しまーす!そして、私の出演する映画『オリンポスの使者』公開しまーす!お父さんと二人で観に来てね」


「えっ、宣伝ですか?」

(さすが女優だ。こんな状況でも映画の告知をできるのか……。)



 半年後、父さんは火星から無事に帰還した。


 そして、『オリンポスの使者』公開記念イベントに父さんと僕はぎこちない距離感で出席した。でも、映画を観終った後には何故なぜだか距離が縮んでいた。一緒に映画を観て大笑いしたからだろうか。


「父さんのプレゼントした火星の石で母さん戦ってたね」


「そうだな。あれをストッキングに入れて振り回すなんてね」


「火星人っているのかな」


 僕がつぶやくと父さんは真剣な顔で僕を見た。


「あれ?母さんから聞いてないのかい」


「何?」


 嫌な予感がした。母さんはいつも大事なことを何一つ教えてくれないのだ。


「俺とあすみは火星人なんだよ」


「嘘だろ!じゃあ僕も?」


 一年後、僕たち家族三人は火星に移住することになった。

 

 いや、移住ではなく帰還きかんなのかもしれない。


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僕の父さんは誰だ! しほ @sihoho

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