第6話 甘えん坊

「ねぇ、梨美?」

「なぁに?お兄ちゃん」

「寝る時くらいは離れて寝よう?」

「嫌だもん。これから離れていた兄妹のなかをもっと深めなきゃ」


 確かに、前までの僕が梨美や母さんに相当冷たく当たっていたのはそうだけれど、リビング、そして僕の部屋、果てはトイレの中にまで入ってこようとしてくるので流石に僕も困ってしまう。


 そして、今はベッドの中だ。


「お兄ちゃんは、私に近づかれるとやっぱり嫌なのかな?そうだよね、ごめん」

「そんなことないよ、ごめんね。梨美。おいで?」


 今まで冷たく当たってきた反動だろう。甘えたい年頃だし、なにより冷たく当たってきたから少しの拒絶でも怖くなってしまうんだろうな。


「大丈夫だよ、僕は梨美の事を絶対に嫌いにならないから」

「ほんと?」

「うん、本当だよ」

「お兄ちゃん、大好き!」

「僕も、大好きだよ」

「えへへ、お兄ちゃん」


 本当にどうしてこんなに可愛い妹に冷たく当たってたんだこの世界の僕は。


「梨美はさ、元の僕に戻ってほしい?」

「...........私、悪い子だから、正直、今のお兄ちゃんの事だ大好き過ぎて昔のお兄ちゃんが嫌いになっちゃってるの」

「良かった。本当は、昔のように戻って欲しいって思ってるかもしれないからさ」


 例えどれだけ冷たく当たっていても、それで家族が成り立っていて梨美や母さんが元の僕を望んでいたら、僕は申し訳なさを抱えて生きていかなければならなかったので、良かった。


「今のお兄ちゃんは、どこにも行かないでね。記憶をなくしちゃ嫌だよ?本当にだいすきだから!」

「うん、僕も大好きだよ」

「私にも大好きって言って!」


 いつの間にか、僕の部屋に忍び込んでいた母さんが後ろから抱きしめてくる。


「ずるいわ、梨美。蒼ちゃんを独り占めして」

「ずるくないもーん。私とお兄ちゃんは運命で結ばれてるんだからしょうがないし」

「私だって運命の赤い糸で結ばれてるんだから!」


 美人の二人が、僕を取り合って痴話げんかをしている。


 前世では考えられないような光景に少しだけ興奮する。


「僕は、二人の事が大好き」


 二人の方を抱き寄せると、びっくりしたような顔をして次第に僕の体に身を預けた。


「蒼ちゃん、こんなこと他の子にしたらメッだよ?」

「お兄ちゃんは、私だけにそういうことしていいの」


 二人は独占するように、視線で僕を絡めとるようにじっくりと見つめてくる。


「「蒼ちゃん」お兄ちゃん」

「「大好き」」



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