第2章 剣の会~元悪役令嬢の場合

第5話 寡黙な騎士

チュン、チュン。


元悪役令嬢の朝は早い。

「「王太子殿下、おはようございます。」」

「やあ、メイドの諸君も朝早くからご苦労。」


男って楽だわ~。

こんな薄着で朝から王城の庭をランニングしても、侍女からのお小言もない。

むしろ最近体を鍛え始めたんですねとか、殿下って案外親しみやすいですね、など爽やかイメージが向上してるわ。


ただ、走る時アレが邪魔なのよ。

あそこがプランプランして気になるの。

嫌がらせにちょん切ってやろうかしら。


タッタッ。


今日も来たわね、アイツが。

「やあ、騎士団長子息で筋肉アホのギル君、おはよう。」

「うっす。」


おはようぐらい言えよ。

仮にも王太子殿下だぞ。


謹慎処分から1週間、ナヨチンバカのナヨった体力を鍛え直すため、毎朝6時から1時間、ランニングを日課にしたんだけど、毎朝この筋肉アホと出会うのよ。


タッタッタッ。


今日こそ、この筋肉アホに勝つ。

最初は周回遅れにされたけど、だんだんと差が縮まってきている。


「今日はぼくが勝つからな!」

「フッ。」


コノヤロー、今鼻で笑いやがった。

私は決めたのよ、【称号】なりきり剣姫を返上し、王国一の剣士となることを、そのための踏み台になってもうわよ、筋肉アホのギル君。


タッタッタッタッ。


やはり今の体力では筋肉アホに負ける。

こうなれば奥の手を使うわ。

「身体強化魔法!」


ダダダダ。

ダダダダダダ。


やった、初めて前に出た、もう少しでゴールよ。

ダカダカダダダダ。


「くそ~あとちょっとだったのに、負けた。」

「フフッ。」

負けたけど明日はいける、それにしてもひと汗かいた後の髪の毛がじゃまだわ。

よし、無駄なものは省こう、バッサリいこう、今は男だし関係ないわね。

坊主頭だ。


  ♦


チュン、チュン。


元悪役令嬢の朝はパニックだ。

昨日の夜、少しエッチな夢を見て、朝起きたら、ガウンに謎の液体がベチョ~って付いている。一瞬おもらしかと思ったが、これはアレだな。


「ギャーーーーー。」

「どうしました殿下! お体のお具合でも悪いのですか?」

「キャー、殿下の美しい御髪が・・。」


そうじゃないんだ、そっちじゃないだ、坊主頭はいいのよ。

上じゃなくて下なのよ、初めての経験でどうしたらいいの?

ここは無よね、無になるわ。

メイド達よ、君たちも無になるのよ。


スン。


「殿下、お立ち下さい。お着替えを致します。」

「ああ、頼む。」

立ち上がり、手を広げ素っ裸にされる。

「あっ。」

「・・・。」

「キャ。」


3人のメイド達の顔がみるみる赤くなっていく、耳まで真っ赤だ。

う~ん、イカ臭いよね、御免ね、私も恥ずかしいのよ。

シュッシュッ。

最後はティッシュで丁寧に拭かれた。

今ステータスを見ると、たぶん【称号】賢者になってるわよね。


タッタッ。


今日も来たわね、アイツが。

「やあ、騎士団長子息で筋肉アホのギル君、おはよう。」

「うっす。」

「今日は最初から身体強化して勝つ、覚悟しておき給え。」

「ギロッ。」

ほう、今日はやる気だな、その勝負買った。


ダダダダ。

ダダダダダ。

ダダダダダダ。

ダダダダダダダ。


「ゼーゼー。」

「ハーハー。」

「フハハハハ、やったぞ10日目にして初勝利だ。」

「フフフフ。」

負けたぜとか、今日は調子が悪かっただけだ、とかなんか言いなさいよ。会話はキャッチボールなのよ。学園の教師からも言われるでしょう。単語で話してはいけませんって。そうだ、筋肉アホに今日の朝の出来事の傾向と対策を聞いてみよう。私、男の知り合いないし。


「筋肉アホ、ちょっと相談に乗ってもらえないか?」

「はい殿下。」

おっ、初めて返事したわよ。男の友情ってやつね、10日間にわたる激闘の成果ね。


「婚約破棄のせいか最近ストレスとあっちの方が溜まっててな、夢でヤッてしまったんだ。筋肉アホはどうしてるんだ?」

「!!!」

「いや、変なことを聞いたな。忘れてくれ給え。」

「いや、正直オレにそんな相談してくれて嬉しいです。オレは殿下から嫌われていると思ってましたから。」

「そんなことはない。」


私は今、猛烈に感動している。男同士の会話っぽくね。正直ドレスがどうとか、あの店のスイーツが美味しいとか女同士の会話より百倍楽しい。


筋肉アホが右手を差しだしてきた。

何かしら?

反射的に私も右手を出し、硬い男と男の握手をした。

「今日の午後4時に殿下の部屋にお迎えに行きます。」

「?」


そのまま筋肉アホは去って行った。右手に何か紙切れがある。握手じゃなくてこれを渡したかったんだわね。可愛いとこあるじゃない。

「何かしらこれ?」


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騎士団御用達 優待割引券

高級娼館『ダンデライオン』

営業時間 16:00~

指名アリ

※殿方にひとときの夢を!

ーーーーーーーーーーーーー


「フォ~~~~~~~~~ここここれは、大人の夜の遊びへのお誘い。」

正直興味はある。

元の私は清い体なんだけど、ナヨチンバカは違うだろう。

でも私は童貞、女の子の体、やわらかそう。

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