第4話 台本と違うじゃない

立ち位置よ~し。

舞台・照明OK。

エキストラもいる。  

台詞も全部頭に入れた。


アクション!


「ガイル王国王太子フューネルはここに宣言する。レイアーズ公爵令嬢との婚約を破棄することとする、レイアーズ公爵令嬢は未来の国母たるに値しない。」


ふふふ、決まったわ。

一度は言ってみたい台詞、ランギング上位に入るこの台詞を私は今、元の自分の体に向かって右手をパーにして突き出しながらビシッと決めたわ。


「お~っほほほ、フューネル殿下は何をおっしゃっているのかしら?このわたくしが未来の国母に値しない?わたしく以上にこのガイル王国の令嬢の中で気高く・気品に溢れ美しい者などおりませんわよ。」


何言ってんだあのナヨチン、台本と違うじゃない。

悪役令嬢の演技のつもりか?

お~っほほほ、なんて笑う公爵令嬢初めて見たわよ。


「聞きたいか? なぜこの先輩方のこの卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されるのか、その理由を。」


あいつがアドリブ入れたせいで、台詞が微妙に嚙み合ってない気がするわ。

でもしょうがない、続けるしかない。


「どうしてレイアーズ様は、私に意地悪ばかりされるのですか? 平民出身の私がお嫌いなのですか。」

うぜ~、何度見てもやっぱりエロボケアンナの噓泣き、うぜ~。


「あ~アンナ、美しさではわたくしには敵いませんが、可愛さではあなたの圧勝ですわ。そのあなたの可愛さに嫉妬するわたくしもまた美しい。」


おい~、完全にズレ出したじゃない。

しかも自分目線かよ、何回美しいを連発すんのよ。


「多くの令嬢方からレイアーズ嬢の悪行の証言を得ている。アンナ嬢の悪口を流布し、数々の嫌がらせを命じたという証言を。」

調子乗ってんじゃねえぞクソメガネ、なんだそのドヤ顔は。


「私は聞きました。レイアーズ様がアンナ様にわざと聞こえるように平民臭くて五月蠅いと暴言を吐かれる所を。」

「私もです。殿方に媚びを売り、盛りのついた猫のようだともおっしゃいました。」


フムフム、ニュアンスはちょっと違うけど、似たようなことは言ったかも。


「大方、王太子の側近で宰相の侯爵子息でメガネゲイのアレク様が権力を使い、そこの令嬢方を脅して証言を捏造させたのではありませんこと、お~っほほほ。」


なんとここで爆弾発言。

クソメガネはゲイだったの?

私はゲイを否定はしないけど・・・。

クソメガネは顔が白くなってるよ、なんでここで暴露する。


「義姉さんは、アンナ嬢を噴水や階段から突き落としたよね。義姉さんの傲慢さや嫉妬深さはぼくが一番知ってるよ。」

お前が知ってるのは、私のバストサイズだろう。


「おや、わたくしの愚義弟のクレスが何を言っているのかしら。あなた、この婚約破棄をいいことに、お父様にわたくしとの婚約を申し出る算段ですわね。クレスはわたしくのこの魅惑の体がほしいのでしょう。」


ヒッ、鳥肌立った。

ないないない。

しかし、これで確信した。

あのナヨチンバカ、自分が公爵領に追放されるのが決定しているから、クソメガネとムッツリ出歯亀を道連れにして自爆するつもりだわ。


「もうよい、これ以上は聞くに堪えん。ぼくの最初の宣言通り、レイアーズ公爵令嬢との婚約は破棄する。更に今後の王立学園での悪影響を鑑み、レイアーズ公爵令嬢は退学の後、公爵領への追放刑とする。」


「オヨヨヨ、なんてお酷い殿下ですこと。気高く・気品に溢れ美しいわたくしを、あんな片田舎の何もない辺境の地へと追放とは。」

私の大切な故郷をしれっとディスられた。


「異論は認めん、この件は陛下も了承しておられる。」


「もう何も申しません。わたくしのように裏切られたり、ドロドロした貴族社会に嫌気がさされた方は、わたしくの公爵領へおいでくださいまし。令嬢方を歓迎しますわ、ただし殿方はダメですわよ。ごきげんよう。」


大根役者がやっと退場した。

本心は公爵領に令嬢集めて、ハーレムもどきを作る気だわ。

レイアーズ公爵令嬢じゃなくて、レズ公爵令嬢だ。


「ねえ、フューネル様ぁ~。私との婚約発表は~。早くう~。」

まだこいつが残ってた~。


「はて? 何かなアンナ嬢、今回の宣言はここまでだが、まだ何かあるのか。」

泣くぞ、嘘泣きするぞ、100パー泣くわよ。


「嘘、嘘よ。フュー様、私と婚約するって言ったもん。約束したもん。うわ~~~~~~~ん、ヒック、エグ、エグ。」


天誅!

エロボケと婚約なんかする訳ないだろう。

耳元でキーキー五月蠅い。


「エグ、エグ、ヴォ・・・オロロロロロロ~。」

あ~あ、泣きすぎてゲロ吐いちゃった。

私、知~らない。


「衛兵、アンナ嬢を控室へお連れしろ。」


「「「はっ。」」」


「さて、卒業パーティーをこのような場にしてしまい、ぼくも心苦しい。今回の騒動は、ぼく自身に責任がない訳ではない。」


「そんなことはありません、王太子殿下。」


「いや、王太子として自身を厳しく律する意味でも、ぼくは王立学園の生徒会長を辞し、3か月間の停学と自宅謹慎を行う。」


「ご立派です。それでこそガイル王国の未来の国王陛下となられるお方。」


よ~し、これで来年度の生徒会長しなくて済むわ。

しかも、3か月間王城で自由。

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