第35話

 数日後の休日。

 あたしはなっちゃんと一緒に初の冒険者活動お仕事に来ていた。

 場所は森。自転車で一時間ほどの場所にある森だった。


 「それでそれで?

 そのあとどうなったの?」


 なっちゃんが数日前の、親の許可を貰った時の話、その先を促した。


 「じいちゃんがお母さんの黒歴史を暴露して、お前も散々お転婆して俺たちを苦労させたんだから、それくらい許してやれ。

 なんなら、お母さんか婆ちゃんが、あたしが怪我しないように特製のお守りでも作って渡してやればいいだろーって説得してくれた」


 しかし、実の親に自分の黒歴史暴露されるってどんな気分なんだろ。


 「いいおじいちゃんだ」


 うん、あたしもそう思う。

 説明では端折ったものの、一応、婿殿でもあるお父さんの顔を立てつつだったので、そこまで波風はたっていないと思う。

 あとなっちゃんには言わなかったが、ヤマト……お兄ちゃんみたいにあたしを抑圧して家出されても大変だから、という一言が決め手だったりする。


 「でもアレなんだね、ココロのお母さん、テイマー活動の方は危険じゃないって判断だったんだ?」


 言われて、気づいた。

 たしかに、危ない、怪我をするという意味ではテイマー活動だってそうだ。

 何故だろう? と考えてすぐに答えは見つかった。

 

 「たぶん、休みの日にやってるテレビ見てるからだと思う。

 ほら、あのテイマーの対戦のやつ」


 あたしも物のついでに録画してあったやつを観てみたのだが、ほとんどリリアさんに喧嘩吹っかけられた時と同じ光景が画面の向こうに映し出されていた。


 「あー、なるほど。

 あと、保健所にモンスターも保護されてるってのも、調べないとわからないことじゃん?

 私も里親募集の張り紙読み込むまで知らなかったしさ。

 もしかしたら、スーパーとかの張り紙みて知ってたのかもだけもど。

 ココロのお母さん、もしかしたらかなり調べてるんじゃない?」


 「かなぁ?」


 たしかに、そうかもしれない。

 ペットの里親募集の張り紙は、興味がなければいちいち見ないし、わざわざ連絡先までチェックするとなると、本当に飼う気がある人くらいだと思う。

 それに、あたしはお母さんに張り紙のことは一切話していないのだ。

 それなのに、わざわざ調べなければわからないことを、お母さんは出してきた。

 もしかしたら、お母さんなりにテイマーについて調べていたのかもしれない。

 テレビ番組を見ればわかるのだが、他のテイマー達のほとんどは複数モンスターを従えている。

 なるべくお金をかけずに、そしてあたしが危なくならないように、モンスターを手に入れる方法を考えていてくれたのかもしれない。

 もし、本当にそこまで考えてくれていたのなら、とてもありがたい。

 だけど、ちょっと過保護かなとも思ってしまう。


 さて、まぁそんなわけで親の判子許可も貰えたので、冒険者ギルドにて無事登録手続きを済ませ、お仕事に来たわけである。


 そうそう、魔物使いテイマーでは先輩でもあるグレイさん、そして一応先生であるジーンさんにテイムのやり方をメールで聞いてみた。

 そしたら、とりあえず殺さない程度に痛めつけて、それでもなお立ち上がって犬猫みたいに懐いてきたら、テイム成功だそうだ。

 もろ動物、いや、モンスター虐待じゃないかと呟いてしまった。


 ちなみに、言葉は悪いが野生のモンスターを相手にして、これを倒して所持しているモンスターの練度を上げるのだが、この倒すというのはイコール殺すということらしい。

 相手側が逃げ出すこともある。

 これでも練度は上がるのだとか。

 ならやっぱり討伐依頼にして正解だったと言えるだろう。


 そうだ、これも初めて知ったのだけれど、リリアさんに喧嘩を売られて対戦することになったあの時。

 読者諸君は覚えているだろうか?

 ジーンさんが、体力ゲージがどうのこうのと言っていた、アレだ。

 なっちゃんもそうなのだが、冒険者ギルドに登録して会員証、ギルドカードを受け取るとモンスターや他の冒険者のステータスが視認できる仕様になっているのだとか。

 なんでそんなゲームめいた仕様にしたのだ、とか、そもそも個人情報ダダ漏れじゃねーか、とかツッコミどころ満載なこの仕様。

 今から何十年、いや、何百年も前にギルドの偉い人になった、旧世界世代の人、あれ? 歴史ファンだったっけ?

 とにかく、旧世界時代のゲームが好きだった人が冒険者ギルドの上層部にいて、大昔のゲームであり現代のRPGでも適用されているその仕様を、取り入れようとなったらしい。

 なんだそりゃ、無茶苦茶にも程があるだろ、著作権どうなってる、とまたしても色々ツッコミどころ満載な流れがあって、とにかくカードを所持していると他人の体力ゲージ等が視認できる仕様のまま、現代に至っているらしい。


 このカード、実は鑑定スキルが登録されている。

 スキル、いわゆる技能とか能力とか、モンスターなら技と呼称されるアレだ。

 人が得る特殊能力の一つ、ともされている、アレだ。

 千年前、旧世界からこの新世界へと世界が生まれ変わった時、鑑定スキルを含め、様々な特殊能力を人間たちは会得できるようになった。

 会得の方法は様々だ。

 でも、これも読者諸君にはわざわざ説明をしなくても、理解してくれることだろう。

 歴史の授業で習うことでもあるわけだし。

 そう、千年前、新世界へと世界が生まれ変わった時、その理すら全てが変わってしまったのだ。

 まるでファンタジーゲームのような、剣と魔法の世界に変貌し、そこに旧世界の遺物である科学技術がゆっくりと、千年をかけて融合を果たした。

 そして、あたし達が生きる現代がある。

 会員証ギルドカードにスキルを登録する技術も、この千年かけて編み出されたものの一つだった。

 先述したように個人情報保護の観点からも、野生の動物やモンスターはともかく、人相手に対しては同じカード所持者同士でなければ、いわゆるステータス等は見れないようになっている。


 「そういえば、討伐って。なんのモンスターを討伐するの?」


 あたしはなっちゃんに聞いた。

 なにしろ、テイマーにしろ冒険者にしろ、あたしはペーペーの新人なのだ。

 依頼の受け方なんかは受付で説明されたし、パンフレットも貰った。

 でも、今日はなっちゃんがいたし、他ならないなっちゃんが、


 『適当に依頼見繕っていい?』


 と申し出てくれたので、言葉に甘えたのだ。


 「フェンリル」


 「えっ」


 聞いて、あたしはなっちゃんを『嘘だろ、おい』という意味で見つめた。

 なっちゃんに、あたしの不安が伝わったようで、依頼書を取り出して見せてくる。

 それを受け取り、書かれている文字を目で追う。

 同時に、その内容を意訳したなっちゃんの説明が流れていく。


 「なんかね、本来なら猟友会担当の案件なんだけど、依頼された人がぎっくり腰で動けなくなっちゃったらしくて、それに、フェンリル従えたならココロもテイマーとして箔がつくかなって思ってさ」


 「いや、でも、フェンリルって普通の狼の五倍は大きいし人喰いするやつでしょ?!」


 「大丈夫大丈夫、私何度か狩ってるし。

 それに、これから討伐するのは人を食べる前のやつらだしさ。

 人の味を覚えてないから大丈夫大丈夫。

 増えすぎて、その被害が出る前に数を減らす目的もあるんだよ」


 なっちゃんはさすが慣れているのだろう。

 彼女が空中に魔法陣を描き、取り出した身の丈ほどもある大剣相俟ってとても頼もしい。

 一応、あたしもじいちゃんに鉈を借りてきたけど、やっぱりチェーンソーにするべきだったかなぁ。

 あっちなら油で動くし、でも持ち運ぶの大変なんだよなぁ。

 お母さんからは、弓矢を勧められた。

 弓矢は拳銃とは違って、規制が緩いのだそうだ。

 拳銃などの銃火器は、資格がいる。冒険者ギルドでもその資格に申し込めるらしい。


 さて、とりあえず、お母さん、ごめんなさい。

 もっとよく考えて冒険者になるべきだった。

 まぁ、今から後悔しても遅いし、これは自分で決めたことだから口になんて出来ないけど。

 でも、さすがに恐怖を感じてしまう、あたしなのだった。

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