第34話

 新しいモンスターの確保と、それを飼うための資金。

 問題は山積みだ。

 バイト、バイトしなきゃ。

 なるべく高収入のやつ。

 あと、最近学校側もバイト認めてくれないんだよなぁ。

 不良になるーとか、学力が落ちるーとか言う理由で。

 どうやって届出を出して説得させるか。

 はっ! 待てよ?

 吸血鬼のおばあちゃん家はそこそこのお金持ちだし、そっちのおじいちゃんもなんだかんだ外孫のあたし達姉妹に甘い。

 餌代、確保できるか?!


 「そんなんさー、タマ連れて害獣駆除か採集依頼をこなせばいいじゃん」


 学校にて、今後のお金に関する愚痴や不安、悩みなんかをなっちゃんに相談したら、こんな言葉が返ってきた。

 目から鱗が剥がれ落ちるという感覚を味わった。

 なっちゃんは、詳しく説明してくる。


 「冒険者活動ってのは、正確にはこづかい稼ぎアルバイトにはならないの。

 どっちかって言うと、学生による慈善活動ボランティアって見方になるらしくて。

 金銭の授受はたしかにあるけど、社会貢献する仕事が多いから見逃されてる部分が大きいらしいよ。

 あと、大昔に学生運動ってのがあったらしくて。

 当時の学生冒険者の人達への報酬を学校側が圧力をかけてゼロにしようってことになったらしい。

 それを知った学生冒険者たちと、その圧力が気に入らなかった冒険者ギルド側がブチ切れて、手を組んだわけ。

 そこからが、もう凄くて。

 冒険者ギルドは人材派遣って言う意味で、取引先だった情報ギルドに根回しして、当時の理事長と校長の弱みを握って社会的に抹殺するところまでいったらしいよ」


 学校側も苦肉の策で、慈善活動ボランティア扱いにしたんだろうなぁ。


 「そりゃ学生は怒るわ。

 でもなんで冒険者ギルドは圧力なんかにブチ切れたんだろ?」


 「うーん、なんか冒険者ギルドは組織的に独立してて、本来はたとえ学校であろうとも圧力かけちゃいけないらしいよ。

 お願いならともかく」


 「お願い?」


 「そ、たとえばテスト期間だからうちの生徒が来ても仕事斡旋しないでほしい、とかそういうの」


 「なるほど」


 「まぁ、そんな背景があるらしくて、普通のアルバイトなら却下されることが多いけど、冒険者活動なら簡単に許可が下りるってわけ」

 

 いわゆる裏技ってやつか。

 なるほど。

 あたしが納得していると、なっちゃんが聞いてきた。


 「そういえば、普通の、というか他のテイマーの人ってどうやってモンスターをテイムしてるの?」


 「……そういえば、どうやってるんだろ?」


 あたしがタマをテイム(?)したのは、たまたまだ。

 テイムってよりも、拾ったというのが正しいけど。

 あたしの返しに、なっちゃんの瞳がキラリ、と光った。


 「私、見てみたいなー。

 ねえ、一緒に冒険者活動クエストしてみない?」


 あたしも、ちょっと冒険者活動に関しては気になっていた。

 しかし、


 「……やってみたいけど、あたしもタマも初心者だし。なっちゃんの邪魔になったりしない?」


 その辺が不安だったので、確認も兼ねて聞いてみた。


 「私は別に気にしないけど?

 あ、でも冒険者ギルドに登録するには、親、保護者の許可とハンコが必要だから、ココロの親がダメって言ったらダメだけど」


 それもそうか。


 その日のうちに、あたしは両親にこの事を伝えて許可をもらおうとした。

 しかし、


 「何事も経験だし、いいんじゃないか」


 お父さんからの承諾はあっさりだった。


 「ダメ」


 お母さんからは即答で、却下された。


 「え、で、でもさ。

 この活動って将来的にも良いんだよ?

 なっちゃんが言ってたんだけど、社会貢献になるから履歴書にも書けるんだって」


 あたしは、お母さんの承諾を得ようと冒険者活動についてプレゼンしてみた。

 と言っても、ほとんどなっちゃんの受け売りだったけど。

 しかし、お母さんの防御は硬かった。


 「そんなこと言ったら、他のアルバイトだってそうでしょ?

 工場、コンビニ、飲食店、スーパーマーケット。

 どの仕事だって立派な社会貢献だし、履歴書にだってその経歴と活動内容を書けるし。

 何よりも、冒険者活動だけでしかお金を稼げないってわけじゃないでしょ」


 ぐうの音も出ない正論をお母さんは展開した。

 しかし、あたしは一つ気になってお母さんに聞いてみた。

 

 「……なんで、お母さんは冒険者活動に反対なの?

 その仕事が嫌いなの?」


 もしや職業差別か、と考えていたら。


 「そうじゃない。そういう事じゃなくて。

 大怪我するかもしれない、もしかしたら死んじゃうかもしれない危険な仕事って意味で反対なの。

 あんた、自分の娘に死んじゃうかもしれない危険な仕事してきますって言われて、ヘラヘラ笑いながら、

 『うん、いいよー。その代わりちゃんと家にもお金入れてね♡︎』

 とか言うと思った?」


 そんな答えが返ってきた。


 「冒険者活動をしてる人たちは凄い人たちばかりなのは、ココロも知ってるでしょ?

 魔法が使える、武器が使える、戦い方を学んでいる。

 ココロ、あんたは人間で他の亜人種よりも弱いし、他の人間種族でも使えるはずの魔法が使えない。

 自分の身を守る術が無いのに、どうやって冒険者活動その場所でお金を稼ごうと思ってたの?」


 ほんと、ぐうの音も出ねぇ。


 「方法はひとつじゃないでしょ。

 タマみたいなモンスターを手に入れるだけなら、それこそ保健所とかで犬猫と同じように保護されてるモンスターでも良いわけでしょ?

 タマの練度とかならお母さんが相手してあげられるし。

 だいたい、ココロ。あんた冒険者活動それで本当にお金を稼ぎたいの?」


 ダメか。

 本当は少しだけ活動してみたかった、というのが本音だけど。

 お金をかせぐ、とか、怪我のこととか全く考えて無かった。

 残念だけど仕方ない。

 そう考えて諦めようとしたら、助け舟が意外なところから現れた。


 「お前もようやく俺たちの苦労がわかる歳になったか。

 HAHAHA」


 風呂から上がり、腰にバスタオルを巻き付けたじいちゃんが笑いながら現れたのだった。

 

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