第22話 美術館殺人事件

 工口こうぐち彰久あきひさ警部は休暇を美術館で芸術鑑賞をして過ごしていた。

 工口が食い入るようにして見ているのは、裸の女性がつま先立ちで手を伸ばしている彫刻だ。鼻息を荒くして、触れるか触れないかギリギリまで身を乗り出している。


「そこの貴方、作品に触らないように!」


 学芸員に叱られて、工口はムッとしたように睨み返した。


「……何だ、芸術鑑賞の邪魔をしよって。無粋な奴め」


「へェ、警部に芸術を理解する心があるなんて意外」


 工口が振り返ると、そこには胸元が大きく開いたセクシーなワンピースを着た肉倉ししくらエリカが立っていた。


「エリカちゃん!?」


「まァ警部のことだから、どうせこの彫刻もエッチな目でみてたんだろうけど」


「……し、失敬な! エリカちゃんの方こそ、美術館に何の用があって来たんだ?」

 工口警部は図星を突かれて顔を赤くする。


「うん。実はこの美術館の館長・唐見からみ俊樹としきの死体が山の中で見つかったらしくてさ、その事件の調査で来てみたんだけど、どうやら正解だったみたい」


「私もエリカちゃんと会えるだなんて、美術館に来て正解だったよ」


「犯人、わかったんだけど」


「え?」


「さっき警部がストリップ劇場のオヤジみたいな目で見てたこの彫刻だけどさ、腕に妙な境目があるんだよね」

 今度はエリカが彫刻に触れそうな位置で見ている。


「……確かに。ひび割れみたいだが、これが何か?」


「おそらく、唐見館長はこの場所で殺害された。それで犯人と揉み合いになったとき、うっかり彫刻の腕の部分が折れてしまったんだ。犯人は慌てただろうね。館長の死体は山に隠すにしても、客が入ってきたら彫刻の腕が折れたことは露見してしまう。調べられたら、ここが殺害現場だと警察に知られる可能性が高い。彫刻を修復しようにも、都合よく接着剤など持ってはいない」


「ま、まさか……」


「犯人は自らの体液を使って彫刻を修復ことにしたんだ。そう、男汁ザーメンを使ってね」


「何だって!?」


「ちょうど腕の継ぎ目がイカ臭かったし。今日一日の応急処置のつもりだったんだろうけど、ウチの鼻は誤魔化せないよ」


 エリカはそう言うと、さっき工口を叱責した学芸員に耳打ちする。


「警部に彫刻を至近距離で観られて焦ったんだろうけど、失敗だったね。この像の腕の断面からアンタの恥ずかしい遺伝子DNAが検出されるのは時間の問題だよ。この変態早漏野郎」


「……ぐぅ」

 学芸員・液野えきの清志郎きよしろうは大きく項垂れた。


 こうして事件は一件落着。今回も難事件であった。ふぅ。

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