第6話 夢
俺はどういうことか整理が付かない頭で学生寮に足を動かしていた。見慣れた場所を歩いているはずなのにどこか現実感がない。知らない土地にいるみたいだ。
そんな俺だったが無事に学生寮が見えてきた。さらに学生寮の前には星都と力也がいた。
「星都! 力也!」
二人の姿に急に現実に戻ってきた気がした。慌てて走り二人に近づく。
「おう、聖治。どうやらお前もらしいな」
「お前もって、まさか」
「ああ、お前も会ったんだろ? フードを被った変なやつによ。俺と力也も同じだよ」
「そんな!」
俺だけじゃない? 星都と力也も会っただって?
「そんな……」
あんな意味の分からないことが二人にも起きていたなんて。
「いったいなにがどうなってるんだ。とりあえず二人とも無事でよかった。よく平気だったな」
「平気なもんかよ、なんだあれ? セブンスソード? それでなんで俺たちが殺し合わなきゃならないんだ」
星都は苦い表情で足下を見つめている。どういうことだと苛立っている。
それは分かるが、でも待ってくれ。
俺たちで殺し合うって、どういうことだ?
「殺し合うって……なんのことだ?」
そういえばあの男もセブンスソードとか殺し合う運命とか言っていたが。
「……お前、聞いてないのか?」
「?」
星都が聞き返してくる。俺はぽかんとしてしまって答えを求めるように力也に振り向いた。力也も星都と同じような顔をしている。
「お前は説明、聞かなかったのかよ?」
「その」
言葉が詰まる。不吉な予感とあんな出来事をどう言葉にすればいいのか分からなくて、咄嗟に答えられない。
「フードを来た男が現れて、いきなり襲われたんだ。そいつはなにもない場所から槍を取り出して襲ってきたんだよ」
「マジかよ」
星都が面食らっている。そりゃそうだろう、俺だって今も指が震えそうになる。
「聖治君、大丈夫だったのぉ?」
「お前よくそれで平気だったな」
「それで!」
そこで忘れてはいけない人物の名前を言う。
「そこに沙城さんが現れたんだよ!」
「沙城? あの転校生が? なんで?」
「なんでかは知らないけど。でも彼女は俺を助けてくれたんだ。彼女は剣を持っていて男と戦った後、俺の怪我を治してくれたんだ」
俺の話を聞いて星都と力也が顔を見合わせている。
「なあ、それ本当か?」
「本当だって!」
「分かった分かった、別に否定はしねえよ。でもよ、それならあの転校生は何者なんだよ」
当然そこに行き着く。それは俺も知りたいところだ。
「その後、なんていうか彼女は去っていって、詳しくは聞けてないんだ」
「うーん」
はじめて会った時から彼女には気になるところはあったが、まさかことになるなんて。彼女の謎は深まるばかりだ。
「ならさぁ」
そこで力也が話し出した。
「本人に聞いてみるのがいいんじゃないのかなぁ?」
「本人に?」
彼女は俺の前から姿を消した。きっと俺と一緒にいるのが辛かったからだと思う。あの時の彼女は確かに泣いていた。俺が彼女を覚えていないせいで。
でも、躊躇ってる場合じゃない。自分の命が危険に晒されたんだ、すぐに確認しないと。
「分かった。明日学校ですぐに彼女に聞いてみよう」
「俺もつき合うぜ、知りたいのは俺も一緒なんだ」
「僕も同じなんだなぁ」
「ああ、三人で聞きに行こう」
俺たちは学校で沙城さんに聞きに入くことを決め部屋に戻っていった。
*
翌朝、俺は星都と力也と合流し、教室の前で沙城さんが来るのを待った。もしかしたら来ないのではないか、と不安にもなったが彼女はちゃんと来てくれた。
俺たちの態度で分かったんだろう、話がしたいというと素直に従ってくれた。
込み入った話になるだろうから俺たち四人は屋上へと向かった。柵に囲まれた白い床には誰もおらず晴天の空が気持ちいいがそんな気分にはなれない。
沙城さんは屋上の中央に立ちそれを俺たち三人が対面している。彼女はどこか俯き加減で立っていた。もしかしたら威圧的になっているだろうか? 男三人に囲まれて怖がっているかもしれない。いや、昨日の戦いぶりを見たがあんなに強いんだ。単に緊張しているだけか、それか、俺のせいなのか。
「その、教えてくれないかな。昨日の出来事のこと。あれはいったいなんなんだ?」
「……うん」
沙城さんは頷いてから俺の顔を見てくれた。表情はまだ暗そうな感じだったけど気持ちを切り替えたのかしっかりした顔になった。それから隣にいる星都たちを見る。
「その、隣の二人は」
「ああ、そうか。紹介がまだだったな」
「皆森星都だ。こうして話すのははじめてだよな」
「僕の名前は織田力也だよぉ」
「うん、顔は二人とも見たことある。クラスメイトだよね」
「二人とも俺の友人で、二人も昨日フードを被ったやつらに会ったんだ。そこでセブンスソードのことを聞いたって」
「!?」
俺がセブンスソードと言った時、沙城さんの表情が強ばった。
「……そっか」
真剣な表情に再び陰が差す。
「頼む、教えてくれ。昨日のあいつはなんなんだ? それに沙城さんのことも。セブンスソードっていったい」
俺はなぜ彼女がそんな顔をするのかは分からないけれど、それだけ俺たちが直面している事態っていうのはやばいことなんだろうと伝わってきた。
「うん。分かった。説明する」
沙城さんは俺たち一人一人の顔を見つめ、教えてくれた。
それは、これから俺たちが直面するある儀式、その最初の一歩だった。
「私たち四人わね、ある儀式に参加させられたんだ。それが錬成七剣神(セブンスソード)。魔法の剣を持って行う、七人の殺し合い」
「殺し合い……」
その言葉を聞いたとたん、現実味がごっそりそげ落ちて、寒気を覚えた。
「昨日も聞かされたことだが、穏やかじゃねえな。それホントなのかよ」
「うん」
星都の言うことは分かる。普通信じられないよな。
でも、俺は実際に一度殺されかけて、沙城さんが戦っている姿を見ている。だから受け入れられている。それがなかったら無理だったと思う。殺し合いなんて言われて、すんなり受け入れられるわけがない。
「あのね、これからかなり突飛(とっぴ)なことを言うけど、まずは私の話を聞いてほしいの」
「すでに奇想天外だろ、なんでも言ってくれ」
「うん、僕も話を聞きたいんだなぁ」
二人の返事に沙城さんは小さく頷いた。
沙城さんの言う突飛な内容。それは、俺たちの常識に槌(つち)を振り下ろした。
「この世界には、いわゆる魔法が存在する」
「…………」
「…………」
彼女の言葉に、二人は微動だにせず黙っていた。
「ああ、知ってたよ。俺はそれで世界を三回救ったことがある」
「それRPGだろ、茶化すな星都」
「悪かったよ、とりあえず信じればいいんだろ? 分かった分かった。今の俺は新興宗教に入ったみたいになんでも信じるぜ」
「まったく」
冗談を言うのはこいつらしいが今は止めてくれ、真剣な話なんだ。
「一応俺からも言っておくが、彼女の言ってることは本当だ。俺も昨日この目で見た」
「マジかよ。いや、そうだったな」
なにもない場所から槍を取り出したり飛ばしてきたあの男。そして彼女もまた出したり消えたりする桃色の剣を持っていた。さらにそれは彼女だけでなく俺の傷まで治したんだ。
あそこまで見せられて、逆に信じない方が無理だ。
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