第7話 説明

「昨日、聖治君や皆森君、織田君が会ったのは魔卿騎士団という団体で、魔法と武術を融合させた技を扱う組織なの。その世界では大きい組織よ」

「そんなのが、いったいどうして。俺はそんなの聞いたこともないぞ」

「それはね、私たちがセブンスソードのために生まれた駒だから。私たちは生まれた時からこの儀式に参加することが決まっていたの」


 決まっていた? それにセブンスソードのために生まれてきた駒っていうのはどういう意味だ?


「最初から説明するから、ちゃんと聞いててね」


 彼女の言葉を聞き逃さないように意識を集中させた。


「この世界にはね、信じ難いだろうけど、魔法とか異能とかあって、そうした人たちをまとめる三つの大きな組織があるの」


 魔法。ゲームや漫画などではなく、まさか現実のものとして聞かされる日がくるなんて。状況が違えば喜ぶんだろうけれどとてもそんな気にはなれなかった。


「それが魔帝ソロモン率いる秩序の指輪(リング…オブ…オーダー)。天上の魔術師アンデルセン率いる週末の書庫会。そして、剣聖と謳われたグレゴリウスの、魔卿騎士団」


 魔卿騎士団。昨日の男がそれか。


「この三人はゼクシズという同盟に入っていて不戦協定を結んでいるの。それで大きな争いは起こっていなかったんだけれど、最近になって問題が起きてしまった」

「問題って?」

「グレゴリウスがね、亡くなったのよ」

「え」


 亡くなった? でも、そうなるとどうなるんだ?


「このままではゼクシズ内で魔卿騎士団の立場がなくなってしまう。そうなれば秩序の指輪(リング…オブ…オーダー)と書庫会で争いになる。たいへんなことになっちゃうのよ」


 沙城さんの表情はせっぱ詰まったものになっていた。声も真剣さを増している。

 なるほど。不戦の協定っていうのは別に仲が良いとかではなくてむしろ逆。敵対関係なんだ。それが三角関係になっているからにらみ合いの状態になっている。しかしそこから魔卿騎士団が外れたら他の二つが争いを始めてしまう。そうなれば大きな被害が起こるだろう。


「その結果、世界は……」

「ん?」


 今のつぶやきはなんだか実感が籠っていたようだが。沙城さんは「ううん、なんでもない」と顔を横に振ってしまった。


「だから、魔卿騎士団には新たな団長が必要なの。グレゴリウスに代わるカリスマが。でも、騎士団内にはそれに見合う人がいなくて。だから彼らは作ることにしたのよ」

「それが俺たちだって?」


 話の流れは分かる。そういう事情があるならそういうことになるだろう。


「でもさ、それでなんで俺たちなんだ? というか、今日初めて聞く俺たちにそんな力あるわけないだろ。現に昨日」


 俺は、その団員に殺されかけたんだぞ?

 そう言おうとして、俺は口をつぐんだ。思い出したくもない記憶が蘇る。それを振り払うように目を強くつぶって顔を振った。


「うん。私たちの力は団長どころか幹部、それ以下の騎士にも及ばないかもしれない」

「それなら!」

「でもね、それは私たちが完成していないからなの」


 完成していない……。俺たちがまだ未完成で、なにかをすれば力に目覚めるってことか?

 彼女は昨日剣を出現させていた。彼女はそれをしたということなんだろうか?


「なあなあ、話に割って悪いんだけどさ、先に聞かせてくれ。さっきからそのために生まれてきたとか完成していないとか言ってるけどさ、俺たちただの一般人だぜ? 意味が分からないんだが?」


 星都が聞いてくる。それは俺も気になっていた。聞くタイミングを逃していたがいったいどういう意味なんだ?


「そっか。そうだよね……」


 沙城さんは一端表情を暗くしてからゆっくり話し出した。


「落ち着いて聞いて欲しいの。その、私たちはね、いわゆる一般的な人とは違う」

「そういうことなんだろうな、なんとなく伝わってたよ」

「私たちはね、それ以前に人間じゃないの」

「え?」

「は? 人間じゃない?」


 彼女の発言に俺たちは驚いた。今までも信じられないことを言われてきたが、それも昨日のことがあって納得してきた。

 でもこれは別だ。人間じゃない? 人間じゃないってどういうことだ。哲学的なことってわけでもなさそうだし、かといってロボットでは断じてないぞ。


「僕たちが人間じゃないって、どういうことなのかなぁ?」

「私たちが、セブンスソードのために生まれてきたって言ったよね。それは言葉の通りよ。私たちはホムンクルスっていう人造人間。作られた存在なの」


 彼女は至って真面目な顔で言い切った。

 それを聞くと星都は両手を上げ背中を向けた。どうも納得してないみたいだ。

 彼女に対して失礼だと注意しようかとも思ったが、正直俺も星都とほとんど同じ気持ちだった。


「ホムンクルス、と言われても」

「すぐに信じられないのは分かる。でもほんとうなの、信じてくれない?」

「んん」


 彼女が冗談で言っているようには見えない。が、んー。


「じゃあ聞くがよ、そのホムンクルスと人間を見分ける方法は? この場でホムンクルスだと証明できるのか?」

「それは……」


 星都の質問に沙城さんがたじろいでいる。


「私たちはホムンクルスだとバレないように作られているから、人間との違いをこの場で証明するのは」

「あー、なるほど。便利な言い訳だな」

「星都」

「だってだぜ?」


 まあ、星都の言い分も分かる。こんな訳の分からない事態に巻き込まれ、こんな荒唐無稽(こうとうむけい)なことを言われているんだ、腹も立ってくるだろう。


「あ、でも!」


 そこで思いついたように沙城さんが声を上げた。


「あまりここですべきことではないんだけど、それなら一つ方法がある」

「裸になって生殖器官があるか確認するとか?」

「…………」


 その発言にはさすがに俺も引いた。


「んだよ! アンドロイドとかならそうだろ!」

「沙城さん、教えてくれ」

「無視すんなよ!」

「あー、分かった分かった」


 ほっといてもうるさいのであいまいに相づちしておく。


「私たち、セブンスソードの参加者であるホムンクルスはスパーダと呼ばれるんだけど」


 スパーダ。確か剣のイタリア語読みだな。あの後調べてみたら出てきた。


「スパーダには一人一つずつ、同じくスパーダと呼ばれる魔法剣が与えられているんだ。それを出そうと念じれば出せるはずだよ」


 俺たちは三人で顔を見合わせる。納得してる顔は一つもない。


「なあ、それって朝になったら大きくなってるやつじゃないよな?」

「星都、本気で殴るぞ」

「?」


 沙城さんは分からないようで小首を傾げている。


「沙城さん、そのスパーダっていうのは、昨日君が出してた……」

「うん」

「昨日? そういえば襲われた時転校生が助けてくれたとか言ってたな。じゃあ、あんたはそのスパーダが出せるのか?」

「うん、もちろん」

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