第2話

何で江里口と組まされたんだろう.

まこと前後ろだから,

ペアになると思ってたのに.

あ…

やばい.

耳に入れた.

お湯…

考え事良くないな.

江里口が

「あぁっあっあー.」

って雄たけびあげながら,

足勢いよく上げた.両足.

スリッパが,

洗髪台にすっぽり入った!

入った!!!

しかも両方.

ちょっと笑いとどよめきが起きてる.

すげぇ.

「ちょっと今誰か回してない?

動画,それこっちに回してよ.」

加工してアップしよー.

バズるよ.いくよ,これ.

あ…

言った後気が付く.

これ,採点中だよ.

洗髪の.

あぁ…しくった.

終わるわ,これ.

耳に水と,背中ぐっしょりは禁忌よ.

やっちゃ駄目.

なんか最後まで終わったものの…

終わったもののだ.

「田口塁さん,再試.」

はぁい先生…

はぁ…

「すみません,分かりました.」

何だよ.

タオル,防水ガウン,シート倒し,声掛け,水温調節,

までは上手くいってたじゃないか…

もういいや.


何でペアまこじゃなかったの?

げんなりしながら席に突っ伏す.

「昨日どうだった?」

昨日?

「あぁ…

途中までは上手くいってたよ.」

「ん?上手く送れて無かった?」

「いや.

3番目の兄ちゃんと仲良くなれた.」

「え…一緒に見たの?」

「…一緒にしたの.

御恩と奉公だよ.」

「え?」

「もう,いいよ.

この話.終わりで.

何で,まことペアじゃなかったの?」

「ランダムだったね.」

「まこだったら,耳みずでも黙ってくれてたでしょ.」

「それは,どうか分かんね.」

「はぁ…まこ,ちゃっかり合格だかんね.」

「楽勝だった.」

「うるせぇ.」

江里口が、ごちゃごちゃ言わなければ

僕だって合格だったよ。

あのくらいで…

ガタガタ言うなんてめんどくさい。

大体仕返しかって位

耳に水入れてきてたよ江里口も。

こっち堪えてやらなきゃ良かった。

「噂の江里口。」

まこがぼそっと呟いた。

「何?」

何ぃ?

「るいくん。」

はぁ…お前は田口呼ばわりするでしょ,いつも.

きしょい.変な呼び方される時は裏がある.

「何でしょうか。

大袈裟江里口くん。」

「残念だったな。」

言葉と態度が合ってないんだよ。

ほんと何ニヤついてんの。

「耳に水入れたお詫びに…」

「あぁ何してくれんでしょうか?」

「そっちだろ。」

「そっちも大概でしょ。

我慢してやった身にもなってみたら。」

「俺も合格者だから.」

「こっちが犠牲になってやったからでしょ.

大暴れしてやれば良かった.」

はぁ…

「もういいよ.」

「何で上に立ってんだよ.」

江里口が少しイラついたように言った.

あぁ…何か言ってたな.

全くもって聞きたくない.

「聞かなくていいよ.」

まこが言った.

「お前に言ってない.」

江里口が言った.

はぁ…

「いいよ.まこ.ありがと.

江里口,何?早く言って.」

「何で,こいつ,まこなの?」

「関係ないでしょ今.

そんな不必要な雑談するような仲じゃない.

早く要件お願い.早くっ.」

早く.ちなみに,お前こいつじゃねえよ.

イラつかせる天才か江里口っ.


「何?」

机指でコンコンしたいけど,あからさまだから,

足先を机に当てる.当て続ける.

この調子でいくと机ぶっ壊しそう.

「面子が足りない.」

「何の?」

「合コンの.」

「いつ?」

「今日の今日.」

「幹事誰?」

「赤.」

全て揃ったか判断材料.

いやいや今日僕,食事当番じゃない?

「何時?」

「7時.」

「19時?」

「そう.」

ぎりだな.

あぁっ.

「どこと?」

「保育士さん.専門学校.

未満会.」

未満会か.

あぁ保育士さんね.

赤かぁ.恩売っときたいよな.

赤松くん.

キラリの才能と見た目のクールさ.

ちょっとコネクション欲しい.

「枠は?」

「1席.耳に水入れた,るいくん指名.」

うるせぇな.

「じゃあ出る.

あ待って会費は?

全体の出せとか言い出すんだったら

出るとこ出る.」

「物騒な…言わないよ.

3000円.女の子の500円のせてる.」

「あっあぁ.まぁ…分かった.

場所どこか飛ばして.

クラスのグループので.僕に.」

このちょっと多めも鼻に付くんだよな.

学生に少し多めも無いだろ.

こっちバリバリ会社員ならまだしも.

「何でまこだっけ。」

まこが言い始めた。

えー前も,この話しなかった?

「僕は、しんしって読めなかったんだよ。

可愛い女の子が近くに座るって思って…

むさい野郎が来るとは思わなかったんだよっ。」

「あっあぁーどんまい。」

どんまいじゃねぇよ。

真子は詐欺。

しっかも,まこ分かってて

再度聞いたな.

その顔つき.


あと肉焼いて…

視界が真っ暗だ…

手の感触.

「忙しいからやめてください.」

はぁ…

無反応か.

「誰と思う?」

・・・

「さとる兄ちゃん.」

「正解.」

楽しい?これ.

「僕,急いでる.

また出るから.

ご飯いらない.」

「どこ行くの.」

「あのねさんに言うから.」

「何するの.」

「それは…色々.」

あのねさんにも正直な事は言わない.

「ねぇ…尻触るのやめて.」

「何で?」

「何でって…

え?

1回寝たくらいで彼女面?」

「え?

こっちメスなの?」

「僕,女の子が好きだから.」

「…何か分かったような分らんような.」

「お小遣いくれるなら考えてもいいよ.」

「何?お金発生するの?

その仲は適切じゃなくない?」

「もうどっちにしたって適切ではないでしょ.

裸エプロンとかでやってもいいよ.」

見たいか?

僕は見たい.僕のを見たいんじゃなくて,

やって欲しい.

好きな子のを見たい.

白いフリフリなのがいいな.

ぷるるんとしてて,きゅっとしてて,

ぷりんとしてて,

すらっとしてて,

うん.いいな.

ちょっと冷静であらんと

行けなくなる…



「ごめん.」

乾杯の合図に,

ごめん重鎮でもメインでもないのに

遅れてしまって…って気持ちでいっぱい.

フツメンです…ヒョロガリです…

けどって…

申し訳ない顔した後

一瞬笑ってペコペコして席ついた後.


あっあぁ…

皆純朴じゃない?

持ち帰られても食べられなさそうだし,

持ち帰っても重そう…

そもそも持ち帰られなさそう…


でも,こういうのって,

ノリが大事.

ここで,そこそこ頑張ってたら,

次に繋がる.

次こそ運命の出会いってあるかもだし.

一番店員に近いから,

下げとか回しとか引き受けてるし,

飲みもんパネル聞きながら押してるし、

パシリでは決っしてないと思いながら.


真向いの子とお話する.

えっと…

保育士さん.

保育士さんのせんもんがっこって言ってた.

授業大変?

子ども可愛いよね

とか言いつつ,

子どもとか本当はどうでもいい.

でも,話合わせるって基本でしょ.

自分語りなんて

しらけさせるだけ.

グラス空いてない?

何飲む?

好きなの頼みなよ.

僕のおごりじゃないけど.

さっき全体向けの自己しょ.

あんま聞いて無かった.

御名前なんだっけ.

井田愛ちゃん?

愛ちゃんだねーって何気に下呼び.

るいくんって野球の塁なんだぁって言われる.

そうそう.

自己しょで言った.

覚えてるみたい.

真向いの女の子.

母さんが言ってた父さんが野球関係の人だったから.

僕は,るいなんだ.

フランスっぽくて気に入ってる.


「田口.」

「何?

ごめん遅れた事でしょ.」

江里口.後ろ控えてた.

言い方ー.

僕の後ろ寄ってた.

「赤にも詫びとく.後で.」

こっち下座で,あっちめっちゃ上座で,

そこまで行って,わざわざする話ではない.

てか僕がしたくない.

げんなりするの狙いに行きたくない。

月曜がっこでいいでしょ.

「これアルコール入ってる.」

「何で,そんなの頼んだ.」

「ちがっ間違いだ.」

「呑めない?」

から呑んで?って事?

「僕ら皆はたちなってない.よね?」

「当然.今日は未満会。」

「ソフトのみほーって話だったよね.」

でもさ減ってない?

「そう.」

「もう,そこまで呑んだら呑めば?」

「今行使.」

「何?」

「耳ーずの.」

「え!?」

「声大きい.同罪頼む.」

「まじか.」

もう半分減ってるから,

半分呑んだらいいの?

あれ?

だって,ここ参加したから

チャラになったよね.耳みず.

もう江里口が困り果てた顔してて、

諸々逸してて,何も言えなかった.

何で江里口のを呑みあいしないといけないんだ.

無言で受け取って,

呑んだ.

ソフドリでしょって言うつもりが…

確かに味おかしい.

一気に呑んでグラス突っ返した.

「次,何飲む?」

「炭酸系.」

「何でもい?一緒で.」

「おぉ.」

目をつぶって溜め息.

何で江里口と一緒の炭酸を飲むのか…

行った後,あれおかしいなって気持ちになった.

んでもって空グラス持たせたけど、

また空グラスこっち回ってくんだわ。


また,愛ちゃんと話す.

笑顔が案外可愛い…

かも.

白い肌が気持ち良さそう.

立ってみてって言いたい.

全身どんなか見たい.

気を抜いたら手を掴んで触れちゃいそう.

連絡先交換しとこって言ったら,

スマホ出してくれた.

拒否られなくて嬉しい.

一応って言ったら嫌そうな顔された.

確かに…

何で,そんな事言っちゃったんだ.


二次会って言ってるけど、

もう僕帰ろ。

十分顔立てたはず。

色々仇は出たけど。

「るいくん次どうする?」

赤が声かけてきた。

「ごめん僕もう、ここで。

ちょい遅刻もごめんね。」

「分かった。次間に合って。」

「うん。ありがとね。

楽しかった。また。」

やっぱ赤すげぇな。気遣いが。

次って。次だって。

社交辞令かな。

「わっ私も。」

どっかで聞いた事のある声をした方を見たら、

愛ちゃんだった。ちょっと申し訳なさそうに、

ちっさく手を挙げてて可愛い。

「分かった。帰り大丈夫?」

赤が反応した。

「僕一緒するよ。」

赤見て、愛ちゃん見る。

「よろしく。」

「うん。」

爽やか笑顔だけ残して赤は集団と消えた。


「愛ちゃん帰ろっか。」

愛ちゃん見ると、僕見ながら、

「はい。」

って僕に僕だけに恥ずかし気な笑顔をくれた。

やばい。

僕の事好きかもしれない。

僕も好きなんだと思う。


「手を繋いでいい?」

聞くと,

「うん.」

愛ちゃんが手を少し上にあげた.

頬が夕日のように染まってて可愛い。

多分…お化粧だな.

でもでも,

やった.

愛ちゃんと手を繋ぐと,

ふよっとしてて,柔らかかった.

ただ,手を掴んでるだけなのに,

愛ちゃんの心を掴めてる,

そんな感じがした.

「愛ちゃん,彼氏はいるの?

好きな人は?気になる人は?」

自然と口から出てた.

質問攻め.

いるって言われたら,そっから考えよう.

足は止まってた.

お互いに.

俯く愛ちゃんに,こっち見て欲しくなった.

どうしよ.

愛ちゃん,僕の方見てって言いたい.

あ…

僕が質問してた.

僕の質問が…

俯かせてる.

もう,いいよって言いたくなった.

だから,悩まないで,こっち見てって.

「「あっ…」」

同時に開口した.

「ごめん.」

何だか謝ってた.

謝るの好きではないけど,謝ってもいいって気になってた.

また,静かに時が流れる.

何にも無い時間が.

愛ちゃんと僕と2人.

雑踏が無音になる…

世界が無くなる.


「彼氏はいません.」

「うんっ.」

「好きな人は…」

「…」

「上手く言えません.」

「う…うぅ…ん.」

握ってた手が無機質な物へと変化していって,

ゆっくり離れていった.

おっおう,僕の勘違い.

また,周囲が流れ始めて,

戻ってきた地球ーって感じ.

いいよー僕今地球人.

帰還したよ.無事に…

無傷じゃねぇ.

それなりに

負ってる.

「送ってくよ.

どっち?」

指を右左,左右,右左指しながら笑った.

今日,僕,江里口に恩売ったから,

次もまた声掛けて貰おう.

え!?

こっち見た愛ちゃんの顔に

何を思ったらいいのだろう.

困ったような悲しいような

もどかしいような愛らしいような

思いつめた表情.

「うわぁ…

何…?

聞いてるから.

言っていいよ.」


可愛い唇から…

何て言葉を出すんだろう.


「あの…」

「うん…」

あぁ…何か,こっちの息が止まりそう.

聞きたいような聞きたくないような

聞きたいような聞きたいような…

聞きたいんだな僕.

聞いて…帰ろう.

何聞いても驚かない.

うん…そう.

初対面で恋バナしてくる

ちょっと変わった愛ちゃんって位置付けして.


「はぁ…

うん…

上手くいくと思うよ.

初対面だけど.

愛ちゃんの事,僕可愛いと思ったし.

勇気を出して告っちゃえば.

そいつに.」

余裕がある…ように見せる

馬鹿な奴だ僕.

ほんと.どうでもいい.

やばい.なんか堪えられなくて,

口挟んじゃってる.


「あの…」

「うん…」

なんだこれは.

デジャヴか.もう,いいから次のシーン早く…

聞くって言ったけど,

もう無理矢理帰しちゃおうか.

そうだよ.

そうしないと帰り遅くなる.

なんか乗らせちゃえばいいのか.

あ…

目が合った.

反射的に笑う.

弱いなぁ僕.

「るいくんの事.」

「うん?」

うん.

「好きだと思うの.」

「えっ!?」

いやいやいや

待て待て待て.

同名の奴かもしれんじゃん.

舞い上がって急降下は

まじでいくない.

「あっ…あぁー…

るいくんって…?」

何て聞き方したらいいの?

凄い記憶喪失な奴じゃん.

行方不明ってる奴じゃん.

「るいくんだよぉ.」

袖を引っ張られてて…

顔見られてる…下から見上げてくれてるっ.

くわぁ…まじかぁ…

神様っ.

僕って言ってるみたい.

目の前の女神さん

僕が良いって言ってる.

やばい,これ.

このまま帰せない.

帰れない.

彼女の引っ張る右手と僕の左手は

そのままにして…

右手で彼女の背中を抱き寄せた.

はぁ…

良い香りがする.

抱き心地が,ふんわりもにもに.

このまま時間が止まったらいい.


「帰らなきゃ.」

愛ちゃんの声が現実に引き戻す.

「あ…あぁ.

そうだね.」

帰りたくなくなっちゃってる.

「どうやって帰るの?」

「電車で.小巻線だよ.

この時間帯だったら…座れるかなぁ.」

「駅から家まで,どんな感じ?」

「大通りで明るいから大丈夫.

ん~10分ってところかなぁ.」

「そうなんだ.

電話しとこうか?」

「大丈夫.お母さんと話しながら帰るから.

ありがと~.」

「あっ…実家生?」

こっち向けて笑顔くれるんだ愛ちゃんが.

だけど,こっちは実家の子なのかなって

ちょっと探りを入れたい.

一人暮らしか確かめるのって重要だよ.

「うぅん一人暮らしなんだぁ.電話してね.

お母さんと話して帰るの.」

「そっか.かからなかったら,鳴らして.

即行出るから.」

「ありがと.」

はぁ…

こっち向けて笑う愛ちゃんが

愛おしくて堪らなくなる.

一人暮らしの情報得た.

ちょっとレベルアップした.

駅…近いな…

予想以上に…

名残惜しくなる.

繋いだ手を離したくない.

じゃあ,またって言いたくない.

おんなじ気持ちだったらいいな.

僕の電車も,ここ発で,

降りる駅の終着も一緒ならいいのに.


なんか楽しい.

どうでもいい帰り道が.

気を緩めると

口元が緩んでくる.

「ただいま.」

帰り着いちゃった.


「遅かったね.」

「びっくりした…」

さとる兄ちゃん.

「今気分いいから退いて.」

うん.

こんなとこで目減りさせてる場合ではない.

部屋戻って,

少し愛ちゃんとやり取りするんだ.

おやすみって絶対打ち込みたい.

手洗いうがいしよう.

部屋部屋ー.

の前に…

「あのねさん,ただいま.」

「遅いっ.」

「ごめん.」

「無事?」

「無事.」

指2本立てると,指1本立てられた.

中指じゃない親指.

上上ー自室ー.

スマホ持ってベッドにダイブ.

無駄にベッドの上ではねるっ.

はねるっはねるっ.

自室って言っても,

ここ,あきら兄さんの部屋.

就職の時に入れ違いで親子転がり込んだ.

3人で使ってたけど,今や僕1人.

昇進したって言ったら聞こえはいいけど.


ドアが開いた.

「どちら様?」

もしやのもしやのあの人しか

いないでしょって思っては見たけど,

違うかもしれないし.

あぁ,やっぱそう.

「何で浮かれてる?」

「彼女出来たから.」

「可愛い?」

「世界一.」

可愛い.にまにましてしまう.

いっま!

彼女出来たって言ったよね!?

「だから,こんな関係続けられない.

手を放してよ.」

1回っきりなら事故で済ませられる.

大事故でも.

ベッドに座り直す.

さとる兄ちゃんも隣に腰掛けた.

…近い馴れ馴れしい.

「今,皆在宅でしょ.

困る.さとる兄ちゃんも困るでしょ.」

「俺,困る事なんて無い.」

「はっ!?」

嘘だろ.困んじゃん.

「微かに酒臭い.」

あ…

はぁ…

「罪を共有した.それだけ.」

しかも,どうでもいい嫌な奴と.

何で?…脅されたんだ.

そうそう.

それが,しっくりくる.

「未成年.」

「だから?」

「るいのあのねさん,

どう思うだろうね.

どう思われるだろうね.」

お前のあのねさんでもあるだろ.

はぁ…

「今日は何して欲しいの?」

溜息をつきながら上を見上げる.

力なく首だけ回して,

さとる兄ちゃんを見た.

どいつもこいつも脅してくる.

「今日は飲んで.」

指をさす先は…

言いたくない.

はぁ…

「げろってもいいの?」

「シーツ汚れちゃうね.」

ぐぅ…


来た時は

そんなこんなじゃなかった.

3番目の兄ちゃんも.

多分.

あんま記憶がないけど

自分の事で精一杯だったし.

小さいピアスから始まって,

いつの間にか髪の色が変わって,

帰ってこなくなって,

学校辞めちゃったみたい.

あのねさんが

「あの人に似て,

ふらふらしてっ.」

声を荒げてた.

どの位の時点からか,

僕にまで被害が及ぶようになってた.

物言わぬサウンドバッグじゃないんだよ.

ちょっと考えるサウンドバッグかな…

だめだ,これ.


ちょっと,あの人に似てるって

言われたがってるんじゃないかとかも

思うなんて,

穿った見方なんだろうか.

それぞれの父さんと会ってるかだなんて,

僕にとっちゃ

どうでもいい話だし.

被害が少ない方がいい.


「待ってね.待って.待って.」

気をつけて装着.

多分,ここ.

ゆっくり…ゆっくり…

無理じゃない?

すっごい動きたい気持ちと

落ち着けって僕と,

せめぎ合う.

ほら.

あれ.

悪魔と天使が頭ん中で

イリュージョン.

コラボってて,

好き勝手になってる.

普通に…

馬鹿くさい.

「痛くない?」

緊張してるって表情なのかな,これ.

何にも言われない.

固まってる?

分からないけど,

全部入れ込みたい.

押し込んで,完突したい.

ねじ込みたい.

なんか,

どこ入ってる?とか

何が入ってる?とか

聞きたい.

言わせたい.

駄目かな.

駄目だろ.

もちょいしてからだな.

ぜっん然,余裕とか無くて,

キスしたくなって

舌で口の中も確かめた.


やっぱ女の子の中気持ちいい.

もう出したけど,

このまんま居たい.

余韻余韻.

きっちりゴムつけてるから余裕.

あれ?

なんかスルンって…

変な感じ.

「抜くね.」

言ってはみたものの…

ありゃ?

ゴム中に置いてきてる?

いつ外れたんだろ…

大丈夫かな?

大丈夫よな?

大丈夫だろう.

「はぁ…

きもちかった.」

ごろりする.

今日,泊まってっていい?

って言いそうになったけど,

あのねさんが心配するから帰らないと.


週2で愛ちゃん家に入り浸り.

レポートどっちかしてる時あったり,

実習でいない時以外は

一緒に過ごしてる.

食材はちょっと多めに僕が出してる位.

たまに一緒に食事を作って,

だいたい愛ちゃんが作ってくれる.

洗い物も,やり方違うからしなくていいよって言われてる.

あんまり外にも遊びに行かないかな.

こう言ってると,

何か僕あんまり良いとこ無いのか…

「愛ちゃん,どっか行きたいとこない?」

一緒行こー.

「るいくん行きたいとこでいいよ.」

「うぅん.」

愛ちゃんとこ来てるからなー.

もう行きたいとこないや.

「遊園地とか?」

「人ごみ嫌いーとか言わない?」

「あぁ…」

「美術館とか?」

「芸術分かんねーとか言わない?」

「あぁ…

よく覚えてるね…」

愛ちゃんへ適度に気を遣えてない.

素の僕でいってる.

もう,どこも行かなくていいか.

「ねー愛ちゃん.

あのさー.」

目をくるんってしてさ,首を傾げるの.

愛ちゃんが.

何か小動物みたいで可愛い.好き.

「好き.

愛ちゃん大好き.

しよ.しよーよ.」

愛ちゃん抱っこ出来たら

もう何も要らない.

何でも受け入れてくれる愛ちゃんは,

僕の事好きでいてくれる.

裸エプロンもしてくれた.

恥ずかしそうな感じが

可愛くてエロ過ぎた.


突然,焦ったような電話を

愛ちゃんから貰った.

平日に珍しい.

会いたいって言うから,

授業終わったら行くからって返事をした.

ピンポン押したら即行で.

表情見ながら緊張した.

いつも通り上がって,

ローテーブル定位置に座る.

テレビ付けようとしたら

止められた.


畏まって座る愛ちゃんを眺める.

いつも隣に座るのに,

真向いに座ってる.

もう,これだけで異変感じる.

「生理が来ないの.」

「うん…」

「いつも周期的なのに…」

「うん…」

「お腹に赤ちゃんいるかも…」


え…?

愛ちゃん何て?


僕ら…今…

学生だよね…

これから…

愛ちゃんと子どものために

働く?

働ける?


無理じゃないか…?

答えなんて…

原因は…

あの時…

あの時かも…


早く…

結論を出さなきゃ.

愛ちゃんの腹が出てくる.

言い逃れは出来ないけれど,

もっと逃れられない事になる.


「ごめん…

その子は…諦めて欲しい.

お父さんになる事…

僕には想像できない.」


「一緒に!

一緒に考えて欲しい!!!」

愛ちゃんが掴む手が

力が

本気だった.

本気だったけど…

こっちも正気だ.

「考えてる!

僕だって…

考えた末の結論だ.

とにかく…

今は,どう考えたって…

無理だよ.

無理なんだよ.」

子どもが子ども育てられる訳がない…

「るいくん!!!私の事

好きじゃないの!?」

うっわ.常套句.

これ言われると苦しくなる.

目の前の愛ちゃんが,

愛ちゃんだったのか分かんなくなる.

「愛ちゃんの事…

好きだけど…

それとこれは別なんだよ…」

愛ちゃんの事,好きだ…

好きだった…

だけど…

その子が入ると…

また問題が別のとこに行く…

そんなの…

当たり前でしょ.

「私…

1人でも産むから。」

「ちょっちょっと待って…」

逃げてる未来しか想像できない…

「出たらっ…」

「出たら?」

はぁ…言い方だめ。

「産まれたら…

もう戻せないんだよ。」

「そんな事当たり前だわ。」

はぁ…

「僕…逃げまくって

姿消してる図しか思い浮かばない。」

「…そんな人とは思わなかった。」

そんな顔しないでよ…

「覚悟が出来ない奴に

覚悟を求められたって…

無理だよ…」

お父さんのモデルが思い浮かばない。

だから自由になれるって…

そんなの幻想過ぎる。

「るいくんの馬鹿っ!

好きって言ったのに…

無責任!!」

愛ちゃんの言葉が

槍のように降ってくるんだけど,

もう刺さるままにしてて.

そっから僕が噴き出てる訳で.

なんか上手く考えが纏まんない.

纏まんないけど,

ここどうかして収めなきゃ.


「一緒に病院行こう.

お金は…僕が考える.

責任は…僕にもある.」

僕だけじゃないでしょ.

責任は…

2人の事なんだから.



小さいと思ってた,るいくんが.

あのねさんが言った.

すみません.

避妊しっかりしてなかったの?

あのねさんの言葉が

ぐっさり刺さった.

してたつもりだった.

つもりだったんだけど…

甘かったみたい.

「よく考えたの?」

うん考えました。

「命の重みは?」

うん知ってます。

「後悔しない?」

・・・

今は…最善だと思ってる。

そんなの分からない。

その場その場で判断するしかない。

今の僕が未来まで続いていかない。

今の僕は、未来の僕で、

同じで同じではない。

「気持ちは分かるわ。

分かりたくない気持ちと一緒に。」

あのねさんが出会った、

どの男より酷い奴なのかなとか、

ぼんやり思った。

出世払いで,お願いします.

ひたすら低姿勢で,

あのねさんにお願いした.

お金貸してくれる事になった.

出世払いが許されるなら,

出世をしなくちゃならないという事柄を手に入れた.

加えて,体も差し出す事になった.

僕は母さんに似てるらしい.

男を漁り尽くした後,

あのねさんは女に走った.

言い方良くないね.

男性に振り回されて傷付いて,

出会い愛した女性が僕の母だった.

だけど,

母は妹連れて出て行った.

妹だけ.

僕を置いて.

あのねさんは僕を追い出さなかった.

事実だろうと思われる事を列挙して,

置いていくだけで,

頭が整理されていくかと思いきや…

余計複雑になってくるんだから詰む.


あのねさんは愛ちゃんと違う.

大人の女の人だった.

男の体を知った知り尽くした女の人は

僕に快楽をくれる.

そして,お小遣いも.

ただ流される.


お詫び行脚はあのねさんとした.

愛ちゃんの病院は必ず僕が一緒に行ったし,

愛ちゃんのご両親には謝り倒した.

土下座もしたし…

愛ちゃんのお父さんは怖かった.

震えてるだけじゃ埒が明かないから,

情けなくても言葉に詰まっても自分の言葉並べて謝罪した.

あのねさんに土下座迄させた.

僕,馬鹿だなぁなんて

足りてない頭回して,ただ思った.

あのねさんは違うんですって言おうとしたら,

あのねさんが,ややこしくなる事は

やめなさいって制した.

愛ちゃんの体を傷つけて、

許して貰おうなんて思わないでって

愛ちゃんのお母さんに言われた.

その通りだなって思った.

愛ちゃんのお父さんに

顔も見たくないって言われながら,

責任は取って貰うって言われた.

なんか…色々遠くで怒ってた.

色々遠くで起こってた.

僕がどんどん小さくなって,

そのまま地面に同化しちゃうんじゃないかって

思うだけだった.

これだから片親はって吐き捨てられた…

いや違うんです,この人

全く母でも何でもない.

何でもないのに僕を守ろうとしてくれてる.

御恩と奉公が浮かんだ.


愛ちゃんとは

自然と会わなくなった.

沢山の御免を贈り続けて,

もう届けるメッセージが

それしか無くなってた.

お互い苦しかった.

僕だけ苦しかったのかもしれない.

もう,そこの確認作業をするような

神経は持ち合わせて無かった.

神経をすり減らして,

会えば何を話せばいいかもよく分からない時間を

お互い持て余してた.

そう…

そこだけ一緒だったんじゃないかって

そう思いたい.

ただ,救われたい.

そう思うだけで.

罪悪感は…

感じない.

感じたくない.

感じないようにしてる.

愛ちゃんとの未来は,もう見えなかった,

一瞬先も.

その時が良ければいいやだったのかな全て多分.

遅かれ早かれだったのかもしれない.

これで良かったんだ.

出会う前に戻りたい.

誰も傷付かなくて良かったのに,

わざわざ交差させて

痛みを負った.

あーぁ僕に出会わなければ良かったね

なんて言わない.

だって,あの時.

僕も真面目に好きだったし,

君も真面目に好きだったでしょ.

結果論だけ見たら最悪なだけで.


1年に1回.

病院で堕ろした日に

お墓参りに行く.

それが手打ちの条件.

申し訳ない気持ちで行き始めて,

のちのち面倒に思うのだろうか僕.

また,何とも言えない気持ちになって,

手紙とか供えてしまうのだろうか.

育った子が素晴らしい子になっていたのではないかって

後悔するのだろうか.

目をつぶりながら上をゆっくり見上げる.

僕は生きてくしかない.



「これ.

あなたですよね?」

ですよね?

僕ですかね?

ですよねだからですよなの?

突然,来られた見知らぬ人は

そう告げた.

こんな人たちに厄介になるなんて

思った事も無かった.


映ってる人たちは獣みたいだった.


うん.多分僕…

なんでしょ.

僕と…誰映ってたと思う?

あのねさん.

さとる兄ちゃんじゃなかった.

動画突き付けられて違いますだなんて

言い逃れが出来なかった。

気が付かなった。

誰がはめたんだろう。


さとる兄ちゃん卑怯でしょ。

さとる兄ちゃんの胸倉掴んで

有らぬ限り罵った。

なんか言い訳する

さとる兄ちゃんに聞き耳なんて持てなかった。


後で判明.

「証拠集めろ.」

って…

何と…

たもにが,たもにの父さんに言われてた.

そこに

純粋な

未成年を守れって

気持ちで無くて,

ただの

嫉妬しか存在してなかったなら.

嫉妬シット!!!

もう,

これはただの喜劇だよね.

だって,

僕,美味しい思いしてた.

全然,削られてない.

気持ちよくて,お小遣い貰えて.


母はいません.

見つかりません.

妹ともに行方不明.

こんな事,言わなくちゃならなくなった.

あのねさん居なくなっちゃったら

どうしたらいいんだろう.

困ってたら,

あきら兄さんが引き受けてくれるって.

かい兄も一緒に.

結局,あのねさんが,あきら兄さんになって,

さとる兄ちゃんが,かい兄になっただけ.

世の中って,そんなもの.

それぞれの彼女にばれなきゃいい.

何やったって.

僕は関係ないけど.

あぁ男好きになった訳ではない.

相変わらず女の子が好き.


賢い,たもにはお父さんとこ行ったし,

訳分からないさとる兄ちゃんは…

どこ行ったか分からない.

僕は謝る事なく。

ひょっこり会った時に

どうしたらいいんだろう.

どう思ったらいいんだろう.


あのねさんは…

お母さんもどきだから,

僕が迎えに行くんだ.

そう決めてる.

皆父方の姓へ変えてしまった。

元々僕は違うし…

さとる兄ちゃんだけ変えなかったらしい。

らしいって、

あきら兄さんと、かい兄の噂話だから

本当のところは分からない。

あれだけぶつかった

さとる兄ちゃんだけ。

あのねさんと同じ苗字のまま。

何だか皮肉で

何だか素敵だ。

僕…

姓についてはただの部外者。

性については…加害者なの?被害者なの?

生については真面目ひたすら.

さとる兄ちゃんの連絡先は、

まだ聞けない。

いつかブリーチ何回やったの?って

ぽろっと聞くかも.

その頃には,髪色戻ってるかもしれない.


7/26 言葉修正。どうやら死語入れてた。

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5番目のるい君 食連星 @kakumi

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