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出立の夜。
現地ガイドのまわしてくれた四輪駆動車にのりこむと、
「…降りなさい、」
体格のよい現地ガイドのとなり、助手席には当然の顔をして、
「遅いですよ、博士!」
青年が座っていた。
いつもと変わらずの白衣姿で。シートベルトをはめた膝には愛用のノートと、ドーナツの包みを抱えて。
「……降りなさい」
「ぼく山なんてはじめていきますよ! 空気が薄いなんて緊張しませんか? 酸欠になったらどうしよう! ほんとうに一〇〇メートルごとに気温が、」
「……降りなさい、キミはお留守番だ」
「博士、ひとりじゃさびしいでしょう? ひとりなんてよくありません、せっかくのお花見に! 人事課長がサクラは見ておくからと仰ってくれて、大丈夫です! ぼく、ぬかりないんですよ、そういうのは! あまりのドーナツも帰ってからすぐに食べられるように! 冷凍庫に入れてあります、冷凍種子のよこに! それでドーナツの内径の、あ! もうでないとまにあわないって! つづきは車内で! それで、博士、」
はじめての『お花見』にいつになく興奮する青年の横で憐れむようなガイドの眼差しに、博士はもう、小さく頷くしかできなかった。
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