蠍座の星獣

 すさまじいエネルギー波が、昂輝の肌にビリビリと伝わってくる。強大な力を感じて、後退あとずさりしそうになる。だが――。


(この子を、守らないと!!)


 背後にいるアストレアを見て、昂輝はオライオンに立ち向かうことを決意する。

 昂輝の覚悟を感じ取ったのか、ジンが彼のとなりに立つ。


「ナナナ!!」

「コウキ! ジンが“力を貸してやる”って!」

「――え?」


 ジンの言葉を、アストレアが昂輝に伝える。その内容を聞いて、昂輝は問い返す。


「“力を貸してやる”って…」

「“星鎧せいがい”は星のエネルギーで作られた物。対抗するには同じ“星の力”じゃないとダメ。ジンには…その力がある!」

「…“星の力”」


 昂輝はジンに視線をやる。ジンの赤い眼は昂輝を見定めていた。――昂輝は、力強くうなずく。


「力を貸してくれ、ジン。おまえの力を…!!」

「ナー!!」


 瞬間、ジンが蒼い光に包まれる。光が弾け飛んだとき、彼の姿は蠍座さそりざの紋章が描かれた篭手こてへと変わった。


「…え?」


 ジンが篭手こてになってしまったことに、昂輝の目が点になる。戸惑っていると、アストレアが篭手こてを拾って渡してきた。


「これを左手首に付けて! 腕を高く上げて、“変身”って叫んで!」

「お、おう! わかった!」


 アストレアに言われ、昂輝は篭手こてを左手首に装着。腕を高々と上げ、声を張りあげた。


「――変身!!」


 昂輝の声に反応し、篭手こてからまばゆい光が放たれ、足もとに蠍座さそりざの紋章が展開される。紋章が上昇し、昂輝の全身を美藍電気石インディゴトルマリンの鎧でおおっていく。最後にサソリの装飾が付いた刀が現れ、昂輝がそれを手にすると、周囲にあか星屑ほしくずが舞いあがった。


「あれは…」


 変身した昂輝を目の当たりにして、オライオンは絶句する。だが、それ以上に驚いたのは…。


蠍座さそりざの紋章…。あのチビトカゲ、まさか――!!」


 刹那、目の前にいたはずの昂輝の姿が消える。


「…なにっ!?」


 オライオンが気づいたときには、昂輝は彼の後ろ側に立っていた。――さやからやいばを抜いて。

 オライオンは昂輝に向けて棍棒メイスを振りあげるも…すでに遅し。

 昂輝がやいばさやに収めたとき、棍棒メイスが真っ二つに割れた。続けて、オライオンの星鎧せいがいもはじけ飛ぶ。


(たった一撃で、俺の武器と鎧を破壊しただと!?)


 あっけにとられているオライオンに、アストレアは告げる。


「ジンは、選ばれし十二体の星獣せいじゅうのひとり。あなたも聞いたことあるでしょう?」


 神に匹敵ひってきする力を持つ、選ばれし十二体の星獣せいじゅうたち――十二神星じゅうにしんしょう

 そのひとりであるジンは、蠍座さそりざ星獣せいじゅうである。 


十二神星じゅうにしんしょうが…地球人を選ぶなんて…。これは裏切り行為だぞ!!」


 オライオンは、ジンが地球人の昂輝に力を貸したことが信じられなかった。ゆえに“裏切り”とののしる。

 昂輝が変身を解除すると、ジンは篭手こてではなく、いつもの姿に戻っていた。直後、昂輝の耳に聞き覚えのない男の声が響く。


『裏切りではない。俺の任務は姫さまの護衛。そもそも宇宙連合コスモス・ユニオンには所属していない』


 落ち着いた声音こわねだ。…気のせいだろうか。その声はジンから聞こえたような――。


『俺のことよりおまえは自分のおこないをじろ。自分勝手なことをしたあげく、姫さまに暴力を振るうとは…。星人ほしびととして情けない』


 ジンがため息をつく。

 オライオンがくやしくて歯を食いしばっていたとき、突然辺りが暗くなった。

 昂輝たちが上空を見上げれば、小型の飛空艇ひくうていが飛んでいた。

 それを見て、オライオンは強気の態度で叫ぶ。


「ガハハハハ!! 本隊からの増援だ! これで貴様たちも終わ――ッ!!」


 高らかな笑い声が途切れる。なぜなら、上空から垂直に降りてきた銀髪の男性が、オライオンを踏みつぶしたからだ。


「…これはどういう状況でしょうか?」


 男性はオライオンを足蹴あしげにし、ジンと昂輝の前に立つ。左眼は眼帯でおおわれており、残された右眼――漆黒しっこくの瞳が彼ら…ではなく、昂輝の背後に隠れているアストレアを見つめる。


「説明していただけますか? 姫さま」


 男性に説明を求められ、アストレアは苦笑いを浮かべた。

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星剣のスコーピオ 鷹夏 翔(たかなつ かける) @kakeru810

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