最終話 翠玉と柘榴石は笑う
昨夜の事件から一夜が明けた。テレビでは、宝石泥棒の話題が取り上げられている。
《朝のニュースをお伝えします。昨夜未明、窃盗未遂の容疑で『怪盗ルビー』『怪盗ペリドット』と名乗る2名の男女が逮捕されました。警察によりますと、容疑者である怪盗たちの目的は、『世界三大希少石を盗むこと』であったとのことです。警察は、他にも盗みを働いている可能性も視野に入れて捜査を進める方針を示しています……》
このニュースを見て、銀髪の少女──リアムはこう言った。
「『怪盗ルビー』と、『怪盗ペリドット』?聞いたことなかったです……。それより、私は『怪盗ガーネット』と『怪盗スクリーム』の大ファンなんですよ!!あぁ……私のお屋敷にも、来てくれないかなぁ……」
また、金髪の女の子──ステラはこう言った。
「あのねあのね!テレビに出てた泥棒さんたちは、あかい髪と、みどりの髪だったでしょ?わたしの知ってる泥棒さんたちも、同じ色の髪なんだよ!お目目は、ちがう色だけど……。わたしは、キラキラしてる目の泥棒さんたちのほうが好きだよ!」
***
グラナート邸でも、そのニュースが放送されていた。
「いやはや、物騒な事件もあったものですね……」
グラナート家の執事、プロムスはお茶の準備をしながらそう言った。
「そうですね……。この屋敷が狙われなくて良かったです……」
メイドのサルヴィも安堵のため息をつく。
「この屋敷には、たくさんの宝石がありますからね……。もし盗まれていたらと思うとゾッとしてしまいますよ」
「確かにそうですよね……。……ところで、エピカお嬢様たちはどちらへ?」
サルヴィはふと思い出したようにそう尋ねた。すると、プロムスが答える。
「お嬢様なら、ストノスさんの部屋にいらしたと思いますが……。もう少ししたら下りてこられるでしょう……」
***
「ストノス!入るわよ!」
ドアの向こうから声が聞こえたかと思うと、勢いよく扉が開かれた。
ベッドで寝ていた俺は、その声に眠い目を擦りながら起き上がる。
「……エピカか……。俺は疲れたんだよ……。もう少し寝かせてくれ……ぐぅ」
俺は再び布団に潜り込むと、眠りにつこうとする。
「ダメよ!怪盗に休みはないの!……次の獲物を考えるわよ!」
エピカは布団を剥ぎ取り、俺を揺さぶった。……勘弁してくれ……。
「……はぁ……。わかったよ……。でも、それよりまずは腹が減ってるからなんか食べたいんだけど……」
「それもそうね。……それじゃあ、朝食にしましょう!」
こうして、俺たちは食堂へと向かうのだった。
***
「……エピカお嬢様、『怪盗ガーネット』と『怪盗スクリーム』をご存知ですか?」
朝食中、プロムスさんが唐突にそう尋ねてきた。
「え、えぇ……。知ってるわ……」
エピカは少し動揺しているようだ。かくいう俺も、内心ヒヤヒヤしながら聞いていた。
「……実は、最近2人の怪盗が捕まったのですが……。そこで、未だに捕まっていない『怪盗ガーネット』と『怪盗スクリーム』が話題に上がっているのですよ」
「そうなのね……」
「はい。この屋敷もいつ狙われるかと思うと、不安で仕方がないのですよ……」
プロムスさんはため息混じりにそう言った。
「そ、そうね……。早く捕まってほしいわね……。ねえ、ストノス?」
エピカは引きつった笑顔を浮かべて、俺に同意を求めてきた。……えっと……これは、俺も何か言わないと駄目な感じか……?
「……そうですね。俺もそう思います……」
……この屋敷に怪盗ガーネットと怪盗スクリームが盗みに入ることはないなんて、言えなかった。なぜなら、その正体は俺たちだからだ……。
「あら、もうこんな時間ね。……朝食も済んだことだし、私は部屋に戻るわ!」
エピカはそう言うと、逃げるようにして立ち去った。……おい!俺を置いてくなよ!
「ちょっ……エピカ、俺も行くぞ!」
俺は慌てて後を追う。
***
「……ふう。なんとか誤魔化せたわね」
「ああ……。危なかったぜ……。バレたら、どうなることやら……」
2人きりになった途端、俺とエピカは安心して脱力した。
「そうよね……。この屋敷の皆には、絶対に言えないわ」
「そうだな……」
「まあ、この話はここまでにしましょう!次の獲物の話よ!」
「そうだな……。次は何を狙おうか?」
「うーん……。そうねぇ……。……あっ!あの原石はどうかしら?」
「どれのことだよ?」
「ほら!あれよ!」
「……えっ?まさか、アレを狙っているのか!?」
「そうよ!そうと決まれば、早速今夜から作戦開始よ!」
「マジかよ……」
「いいじゃない!きっと上手くいくわよ!」
「……そうだといいけどな」
「もう!そんなんじゃ上手くいかないわよ!ほら、さっさと準備しなさい!」
「へいへい。わかりましたよ……」
◇◇◇
ここはとある博物館。さまざまな宝石や原石が、展示品として展示されている。
そこに、怪しい影が2つ……
「……じゃあ、作戦通りに行くわよ!」
ガーネット色の瞳の少女は、隣の男性に声をかける。
「おう。そっちは任せたぞ!」
少女の声に、エメラルド色の瞳を持つ男はそう返した。
「ええ!もちろん!……それじゃあ、行ってくるわ!」
「頼んだ!」
そして、2人はそれぞれの持ち場へと移動する。
──ガチャッ
ケースの鍵が開いた。
博物館の中は静まり返っている。警備員は全員眠っているからだ。
「よし!今のうちに!」
そう言って、2つの影のうちの一つが動き出す。
「待て!慎重に、だからな?」
もう一つの影は、もう一人の方を見て言った。
「わかってるわよ!……ふぅ……。これで最後みたいね……」
ガーネットの少女は、最後の鍵を開けた。そこには、赤い大きなルビー原石が輝いている。
「やったな!後は脱出するだけだ!」
「そうね!行きましょう!」
そうして2人は走り出す。だが、そこへ……
──「現れたな!怪盗ガーネット、そして怪盗スクリーム!!」
サファイアの瞳を持つ青年が、2人の前へと立ちはだかる。
──「泥棒は、許しませんよっ!」
アメジストの瞳を持つ少女も一緒だ。
「あらら……見つかっちゃったわね……。でも、アタシたちの目的は達成したわ!さあ、逃げましょ!」
ガーネットの少女は、そう言い残して走り去る。
「おいっ!ガーネット!俺を置いてくなって……!」
エメラルドの男も、彼女のあとを追って駆け出した。
「逃がすか!レイア、追いかけるぞ!」
「はいっ!!」
サファイアの青年とアメジストの少女は、彼らを追いかける。
……だが、途中で見失ってしまったようだ。
「逃がしてしまいましたね……」
アメジストの少女──レイアは肩を落とす。
「そのようだな……。だが、次こそは絶対に捕まえてやる!」
サファイアの青年──アクシオはそう意気込む。
「そうですねっ!私たちなら、いつか捕まえられるはずですっ!」
「……よし!次に向けて作戦を立てるぞ!……待っていろ、怪盗ガーネット、怪盗スクリーム!」
そう言う2人は、怪盗を取り逃したにも関わらず、少し嬉しそうな顔をしていたのだった。
***
しばらくして、逃げる2人は自分たちの住む屋敷へと戻ってきた。
「はぁ……はぁ……。何とか戻ってこれたわね……」
ガーネットの少女──エピカは息を切らしている。
「ああ……。まったく、あいつらはいつもいつも、しつこいんだよ……」
エメラルドの男──ストノスはそう言いながらため息をつく。
「本当にね……。でも、私は好きよ?なかなかスリルがあって楽しいもの!」
「……まあな。それは俺も同感だ。……でも、俺らが捕まるなんてことは絶対にないからな!」
「当たり前よ!私たちは最高の
エピカは自信満々にそう言った。
「そうだな!」
ストノスはそれに返す。
そうして2人は笑い合うのだった。
怪盗たちの物語は、まだまだ続く……?
(完)
翠玉は叫び、柘榴石は笑う 夜桜くらは @corone2121
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