最終章 大事件、そして終幕へ

第1話 柘榴石の嫉妬……?

「よし、こんなもんか……」


 とある日のこと。俺は庭師の仕事をしていた。俺の前には綺麗に剪定せんていされた木があり、俺は満足げにそれを眺めた。

 ……それにしてもこの仕事、なかなかに楽しいものだな。原石の加工に似てる気がするし……。俺はそう思いながら、次の作業に取りかかった。


***

 しばらくして、作業を終えた俺は屋敷に戻った。そこへ、エピカが駆けよって来た。


「ストノス、お疲れ様!……ねぇ、今から休憩しない?」

「そうだな。ちょうど一息つきたかったところだ。」


 俺はエピカと一緒に屋敷の中に入った。

 俺たちは食堂に向かうと、テーブルについてお茶を飲み始めた。エピカは紅茶を一口飲むと、「ふぅ」とため息をつく。


「やっぱり、紅茶は良いわよね~」


 エピカは満足そうだ。


「そうだな。」


 俺はお茶菓子に手を伸ばしつつ答える。今日はクッキーのようだ。一口かじると、サクッとした食感とともにバターの風味が口に広がった。……美味いな。

 エピカはというと、幸せそうな顔をしながら紅茶を飲んでいる。……エピカはいつも、何を飲む時でも必ず最初に砂糖を入れるんだよな……。まぁ、甘いものが好きみたいだし、仕方ないか……。

 というか、このクッキー、形がいびつな気がするんだが……。


「なぁ、これ……エピカが作ったのか……?」


 俺の言葉を聞くと、エピカはビクッとしてこちらを見た。


「な、ななな、何を言っているのよ!わ、私が作るわけないでしょう!」


 エピカは明らかに動揺している。

 ……いや、どう見てもこれはエピカが作っているだろう……。でも、これ以上追及するのはやめておいた方が良さそうだ……。下手をすれば機嫌を損ねるかもしれない……。

 そう思った俺は、別の話題を持ち出した。


「そういえば、最近学校の方はどうなんだ?何か変わったことはないか?」


 エピカは一瞬戸惑ったが、すぐに笑顔になった。


「大丈夫よ!特に何もないわ!」

「そうか、なら良かった。」


 俺とエピカは笑い合う。


「そうだ!ストノス!明日、私の買い物に付き合いなさい!」

「おいおい……。いつも唐突だな……」


 俺が苦笑いを浮かべると、エピカは頬を膨らませた。


「いいでしょう!?」

「わかったよ……仕方ねぇな……。」

「フフッ!ありがとう!……あっ、そうだわ!ねぇ、ブランはどこ?」

「あいつは……確か……中庭で昼寝してたはずだが……。」

「わかったわ!じゃあ、行ってくるわね!」


 エピカはブランを迎えに行った。

 まったく……忙しい奴だな……。まぁ、そこがエピカらしいけどな。


「……よし、俺も仕事に戻るか。」


 そう呟くと、俺は椅子から立ち上がった。

 そして、再び庭へと戻った。


***

「……あれ?」


 しばらくすると、ブランがやって来た。


「ニャーン♪」


 ブランは嬉しそうに鳴き、尻尾を振りながら近づいて来た。


「お前、エピカのところに行ったんじゃなかったのか?」

「ニャオン♪」


 ブランは俺の足元にすり寄ってきた。


「そうか、じゃあ、もう少しここに居るか。」

「ニャン♪」


 ブランは俺の膝に飛び乗ると、丸くなった。


「フフッ……可愛いなお前は」


 軽く撫でてやると、ブランは気持ちよさそうに目を細めた。そんなブランを見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。

 ブランは、エピカが連れてきた猫だ。エピカはブランをとても可愛がっていて、ブランもまたエピカによく懐いている。

 ブランが来てからというもの、エピカは毎日楽しそうだ。

 エピカには、猫のように自由奔放なところがよく似合っていると思う。そのことを本人に言ったら怒られそうだけどな。


 しばらくの間、俺はブランとのんびり過ごしていた。するとそこへ、エピカがやってきた。


「いたー!もう、探しちゃったじゃない!」

「……悪いな。ちょっとコイツと遊んでたんだ。」

「むっ……!」


 エピカは少し不貞腐れた顔をした。


「……私もストノスと一緒にいたかったのに……」

「え……?」


 俺は思わず聞き返した。すると、エピカはハッと我に返った。


「な、なんでもない!ほ、ほら!早く行くわよ!」


 エピカは俺の手を掴むと、強引に引っ張って行った。

 そして、そのまま屋敷に戻った。


***

「エピカ……機嫌直してくれよ……」

「………」


 屋敷に戻ってからも、エピカは自室にこもって出てこない。どうやら、一人にされたことに拗ねているようだった。

 俺はエピカの部屋の前で呼びかけ続けたが、返事はない。……困ったな……。


「……なぁ、そろそろ出てきてくれないか……?」

「………」

「お前を置いてブランと遊んでたことは謝るよ……。だからさ、許してくれよ……。」

「……本当に反省してるの……?」


 ようやくエピカが反応してくれた。俺はホッとする。


「ああ、もちろんだ。」

「……そう。」


 エピカがそう言ったかと思うと、扉が開いた。


「……入っていいわよ。」

「ありがとう。」


 俺は部屋に入ると、エピカの隣に座った。エピカは相変わらずそっぽを向いていたが、耳まで真っ赤になっていた。


「エピカ、ごめんな……」


 エピカの頭を優しくなでると、彼女はゆっくりとこちらを向いた。


「……うん。」


 エピカは小さくうなずくと、俺の胸に顔を埋めた。


「……寂しかった……」


 エピカは消え入りそうな声で言った。


「……悪かったよ」


 俺はエピカの髪をすくようになでた。


「……本当よ……。……でも、ちゃんと来てくれたから……今回は許すわ!」


 エピカは顔を上げると、笑顔を見せた。

 よかった……。いつものエピカに戻ってきたようだ。


「よし!明日は、たくさん買い物するわよ!ストノスは、荷物持ちね!」

「へいへ……えぇ!?」


 エピカは悪戯っぽく笑う。


「フフン!よろしく頼むわよ!」

「はぁ……」


 俺はため息をつくと、覚悟を決めた。


「わかったよ……。付き合えばいいんだろ……?」

「ありがと!それじゃ、明日ね!」


 エピカは満足げに微笑んだ。

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