第10話 加工勝負と願い事

 とある日の昼下がり。エピカは原石加工の作業小屋にいた。もちろん、ストノスも一緒だ。


「ウフフッ♪我ながら良い出来映えだわ!」

 エピカは加工した原石─カットストーンを見てうっとりした。


「どれどれ……?おぉ、流石だな!」

 ストノスは、カットされた石を眺めて感嘆する。


「えへへ〜♪」

 エピカは照れたように笑った。


「そうだ!せっかくだし、私と勝負しない?」


「え……?」

 突然の提案に、ストノスは戸惑ってしまう。


「どっちが綺麗に加工できるか、競うっていうことよ。どう?面白そうだと思わない?」


「……そうだな。よし、やるか!負けた方は勝った方の願い事を一つ聞くということで……。」


 二人はお互いに顔を見合わせるとニッコリ笑い合い、「せーの」と掛け声をかけて同時に原石に触れた。


 ***

「これは私の勝ちでしょう!」


「いいや、俺の勝ちだろ!」


 エピカとストノスは、それぞれ自分の作品を見せ合った。二人の作品は、どちらも綺麗に仕上がっていた。


「誰かに審判を頼めば良かったわね……。」


「確かにな。でも、ここで加工してることは、屋敷の人たちには秘密だしな……。」


「そうね……。……そうだ!ブラン!ブランはどっちが綺麗だと思うかしら?」


 エピカはブランに問いかけた。しかし、ブランは「ニャン?」と鳴いて首をかしげるばかりだった。


「おいおい、ブランにわかるわけないだろ……!」


「それもそうね……。」


 エピカとストノスは苦笑いを浮かべた。


「仕方ない、今回の勝負は引き分けだな。」

 ストノスが言うと、エピカは不満そうに頬を膨らませる。


「ええっ!?そんなの嫌よ!絶対に私が勝つもの!……そうだわ!もう一度やりましょう!今度は、あの子に判定してもらうのよ!ねぇ、ブラン?」


「ニャオン♪」


「はぁ……。わかったよ……。」

 こうして、彼らはとある場所に向かった。


***

「ステラちゃん、こんにちは!」


「エピカさん!ストノスおじさんも!」


「おう。久し振りだな。」

 二人は金髪の少女─ステラに挨拶した。


 彼女は『怪盗ガーネット』と『怪盗スクリーム』の正体が、エピカとストノスだと知る、数少ない人物の一人であった。

 ストノスは、5歳児に審判を任せるのはいかがなものかと思ったのだが、エピカの熱意に押し負けてしまったのだ。


「今日は、なにしに来たの?」


「実はね、ステラちゃんと遊びたいと思って来たのよ!ねっ、いいでしょ!?」


「うん!遊ぶ!」

 ステラは笑顔で答える。


 すると、エピカとストノスは互いに目配せをした。そして、エピカはブランを呼んだ。


「ブラン、おいで!」


「ニャーン♪」

 ブランはステラの方へと近寄る。すると、ステラは目を輝かせた。


「猫ちゃん!!」


「フフッ、ステラちゃん。ブランと遊ばせてあげるから、私たちの勝負の審判をしてくれるかしら?」


 エピカが尋ねると、ステラは元気よく「うん!!」と答えた。


「ありがとう!助かるわ!……それじゃあ、始めましょ!」


「ああ!」


「よーい、スタート!!」

 そして、再び勝負が始まった。


***

「……よし!これで終わりよ!」

 エピカは最後の仕上げを終え、満足げな表情をする。


「こっちも終わったぞ!」

 ストノスも、エピカと同じように完成した作品を眺める。彼の方も、満足げな表情をしていた。


「さぁ、どちらの方が綺麗に仕上がったかしら?」

 エピカはステラに尋ねた。ステラは少し考えると、二人に向かって言った。


「……エピカさんの方がきれいだと思う!」


「やったぁ!!」

 エピカはガッツポーズをする。一方、ストノスは残念そうに肩を落とした。


「……はぁ……。俺の負けか……。」


 エピカは、ステラにお礼を言う。

「ステラちゃん、本当にありがとね!」


「うぅん。猫ちゃんとお話しできたし、楽しかった!」


「そう言ってくれると嬉しいわ。」

 エピカは微笑むと、ブランを抱き上げた。


「さ、そろそろ帰りましょ。ブランが疲れちゃうからね。」


 すると、ステラは手を振って言った。

「エピカさん、ストノスおじさん、またねー!」


「あぁ。またな!」


「ええ!また遊びに行くわ!」

 二人は手を振り返し、帰路に着く。


「……そういえば、お前のお願い事はなんなんだ?」

 ストノスはエピカに聞いた。


「それは後でのお楽しみ♪」

 エピカは悪戯っぽく笑うと、ブランを連れて帰って行った。


「おい、待ってくれよ……!」

 ストノスもその後を追いかけた。


***

 屋敷に着いた二人は、ストノスの部屋で話し始めた。


「なぁ、さっきのお願いを教えてくれよ。」

 ストノスの問いに、エピカは不敵な笑みを浮かべると、こう答えたのだった……。


「……それはね、ダイヤモンドを、一緒に盗みに行ってほしいのよ!」


「ダイヤモンド……?」


「そうよ!願いが叶うダイヤモンドがあるという噂を聞いたことがあるの!」

 エピカは興奮気味に話す。


「……まさか、その噂を信じてるのか……?」


「ええ!だって素敵じゃない!」


「ははは……。ロマンチストだな……。」

 ストノスは呆れながらも微笑んだ。


「いいぜ。付き合ってやるよ。」


 その言葉を聞いて、エピカの顔がパァッと明るくなる。

「本当!?ありがとう!ストノス!!」


「まぁ……その噂は、俺も気になるしな。」

 ストノスはニヤリと笑った。


「そうと決まれば、準備をしなくっちゃね!」

 エピカは張り切って言う。


「そうだな。いつにするか……。」

 ストノスも乗り気であった。


 ………しかし、そのダイヤモンドをめぐって起こる悲劇を、彼らはまだ知らなかった……。

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