詩織が大切で、独り占めしたい

 ぼくとセイマが入れ替わって昼間は猫、夜は陰陽師という生活が始まって一か月近くが経った。

 ぼくらが頑張っているおかげで、この辺の化け物は減りはじめているみたいだ。

 よかったよー。もしも詩織があんなのと出会っちゃったら大変だ。

 普通の人間には化け物は見えないらしい。たまにそういうのがよく見えちゃう人間もいるみたいだけれど。

 で、知らない間にそばに近寄られて、ずっとそばにいると命のエネルギーが抜き取られちゃうんだって。そうすると生きていられなくなってくるって。

 詩織をそんな目にあわせちゃだめだ。

 そうそう。ぼくの思考が少し人間寄りになってきたんじゃないかってセイマが言っている。

 元々ぼくは人間の考えていることとかを詩織の言葉を通じてよく理解しているほうなんだって。そのうえセイマが憑依したことで、より人間っぽい考えも理解している、って。

 ぼくとしては詩織のことがもっと身近になるし嬉しいんだけど、セイマは「二人の思考が混じるのはあんまりよくない」っていうんだ。

 だから彼は昼間は意識を閉ざして、いわゆる睡眠状態になっている。

 そんなの、気にしなくていいと思うんだけどなぁ。


「最近、この辺でかっこいい男の子が夕方にうろうろしてるんだって」

 詩織がぼくをなでながら言う。

 どきっとした。

「その人ね、にゃんたみたいな模様の服なんだって」

 それって、ぼく、いや、セイマだ。

「友達がいうには、顔とかすごくかっこいいんだけど服がねーって」

 詩織が愉快そうに笑う。

「にゃんたの模様だったらかわいいのにねぇ」

 ……な、なんだ、ドキドキが止まらない。

「わたしも会ってみたいなぁ。にゃんた服のイケメンさん」

 詩織がなんだかぼーっとした顔になったぞ。

 ぼくは……。ほめられてうれしいのと、でもセイマの時には会ってほしくないのとで……。

 楽しいどきどきと、ちょっと悲しいのとで、わけが判らない。


 夕方、セイマと入れ替わった。

 ぼくがぼくでいる間、セイマはほとんど眠っているから、あの話は聞かれていないみたいで何も言ってこない。

 ぼくは今朝聞いた詩織の話をセイマにできずにいた。

 なんでか、知られたくなかった。

「にゃんた、詩織となにかあったのか?」

 詩織の名前が出るだけで、どきどきっとする。

 どうして? って聞き返してみる。

「いや、なんとなく。何もないならいいのだ」

 詩織のことを考えるとどきどきするのとか、ちょっと悲しいのとかがセイマに伝わってるってことか。

 セイマが体を動かしている間は、あんまり詩織のことを考えないようにしよう。

 って思ってたんだけど……。

「こっちのほうに悪霊がいそうだ」

 セイマが向かったのは、ぼくの家の近くだ。

 いた。黒いもやもや。人間の形にも見えるソレはセイマがいうにはかなり危ないモノらしい。

 そして、その先には、――詩織!

 怨霊が詩織に近づいていく。

「駄目だっ!」

 強く思うと、ぼくの思いは声になって口から飛び出した。

 詩織が振り向く。

 目を見開いた。

「見えているのか」

 セイマがつぶやく。普段はそういうモノが見えない人間でも、力が強いモノは見えることがあるらしい。

 早く詩織を助けないとっ。

 ぼくの思いも手伝って、セイマはいつもより速く走って、手に力を込めて悪霊を殴りつけた。すかさずお札を投げる。

 怨霊がすごい声をあげながら、消えていった。

「あ……」

 怖がっていた詩織の顔からほぅっと緊張が消えた。

「あ、ありがとう、ございました……」

 詩織、顔が赤くなってる。

 これはっ、詩織がよく見てるアニメの、アレだ!

 恋!

 ぼくに?

 ううん、きっと、セイマに。

「あの、あなたのお名前は」

 詩織が頬を赤くしながら尋ねてきた。

「俺は「にゃっ!」」

 セイマとぼくが思わずあげた悲鳴が重なった。

「にゃ?」

 詩織が驚いて、首をかしげる。

 沈黙。

「……にゃのるほどのものではございましぇん」

 大真面目にごまかして、ほら早くここからいなくならないと、ってセイマをせかした。

 ぼくたちは、呆然としている詩織を残して、足早に立ち去った。


「ってことがあったのよー」

 詩織がぼくをなでながら今日の話をしてくれた。

 楽しそうに笑う詩織が、ぼくは……、好きだ。

 そう、きっとこれも、恋、なのかもしれない。同居人以上に詩織が大切で、独り占めしたい。

「その人ね、にゃんたみたいだったよ」

 え?

「服だけじゃなくてね。なんとなくだけど、にゃんたみたいな感じがしたの。にゃんたが人間になったらこんな感じかなーって」

 詩織が笑う。かわいい。

「なぁんてね。わたしがにゃんた好きすぎるからだよね」

 詩織がぼくをだきしめる。

 あったかい、きもちいい。

 だれにも言えないぼくの恋がかなうことはないけれど、詩織の笑顔のためにぼく、がんばるよ。

 大好きな詩織の腕の中でぼくはのどを鳴らした。



(了)


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 お題:幸せそうな大型の猫 やさしさと善良さ

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にゃんた RUN 乱 ラン♪ 御剣ひかる @miturugihikaru

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