閑話5 もうすぐ……(??視点)

「――様。次に向かいますはクラルヴァイン侯爵領でございます」

「そう」


 目の前でわたくしに頭を下げ、そういう神官。彼に対して、わたくしは口角を上げた。


「ようやく、ようやくですのね」


 鈴のなるような声でそう言えば、神官は深々と頭を下げると部屋を出て行く。


 ローテーブルの上に置いてあるワイングラスを手に取って、注がれている赤ワインを飲み干す。


 脚を組みなおして、頬杖を突く。


(ようやく、会えますのね)


 あのときは、失敗した。


 でも、わたくしはようやく――カーティス・クラルヴァインの心を手に入れることが出来る。そうだ、そうに決まっている。


(わたくしの所為で女性嫌いになられた、可哀想なお方の心を癒して差し上げなければ)


 わたくしがつけた傷は、わたくしでしか癒せない。


 彼の心を射止められるのは、わたくしだけ。


 ……そう、思っていたのに。


(何なのかしら? あの女は……!)


 報告書には、カーティス・クラルヴァインが婚約したと書いてあった。しかも、相手は出戻り娘。顔は童顔だし、わたくしよりも優れているところと言えば……年齢くらいしかない。わたくしよりも若いからと言って、調子に乗らないでほしいわ。


「本当に、気に食わないわ」


 何もかもが気に食わない。わたくしの思い通りになれば――この世界は平和になるというのに。


 だって、わたくしは『水の豊穣の巫女』だから。誰もがわたくしに首を垂れ、敬うのが普通だというのに。


「けれど、カーティス・クラルヴァインもわたくしの力を再認識すればきっと――」


 ――わたくしのほうが、妻に相応しいとわかってくださるわ。


 そう思ったら、口角が上がるのを止められない。


(待っていなさい、カーティス・クラルヴァイン。そして――)


 ――エレノア・ラングヤール。


 わたくしが、この『水の豊穣の巫女』であるわたくし――。


(アンジー・ブリームが貴方たちの幸せをめちゃめちゃに壊して差し上げますから)


 そう呟いて、わたくしは高笑いをしたのだった。

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【第1部完結】年の差七の旦那様~出戻り娘はお飾りの婚約を希望中~ 華宮ルキ/扇レンナ @kagari-tudumi

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