第17話 照れ屋ですか?
「……カーティス様、もしかして照れていらっしゃいますか?」
お水を一口飲んだ後、私は首をかしげながらカーティス様にそう問いかける。もしも、そうだとすれば、彼はかなり女性慣れしていないということになるのではないだろうか? まぁ、多分否定されるだろうけれど。
「……違う。そういうわけじゃ、ない」
予想通りだった。カーティス様は私の問いかけを否定され、誤魔化すようにお水を一気に飲み干される。……ふむ、今のは照れ隠しを取った方が自然かもしれない。……というか、カーティス様、分かりやすすぎませんか?
(……二日目にして、印象が変わってきたわ……)
もっと辺境貴族らしく、冷酷で冷淡なお方かと思っていた。でも、今のカーティス様は何処となく照れ屋で、初心な人にも見えてしまう。……まぁ、初心というところは絶対に口には出さないけれど。
「……カーティス様って、照れ屋ですか?」
「そんなわけないだろ!」
私が普通にそう問いかければ、カーティス様は全力否定。……やっぱり、照れ屋なんじゃない。そう思ったけれど、これ以上言うのは逆効果だと分かったので、私は黙る。……でも、なんだか可愛らしい人よね。
「……そ、そんなことよりも。……母の応対を、頼むぞ」
「分かっております」
口元を拭きながら、私はカーティス様に返事をする。今のは、露骨にお話を逸らしてきたわね。別に、構わないけれど。さて、打ち合わせの続きと行きましょうか。
「カーティス様」
「ど、どうした」
「……いえ、カーティス様のお母様がどういうお方なのか、もう少し聞いておこうかと思いまして」
一応、侍女たちからある程度の情報は得ている。しかし、カーティス様から見るとまた違う印象が見えてくるかもしれない。そう考えたので、私はそう問いかけたのだけれど……カーティス様は露骨に眉を顰められるだけだった。……答えは、くださらない。
「答えにくいのでしたら、別に構いません。思い込みが激しく、ロマンチストなお方だというのも十分な情報ですので」
私は視線をお食事に戻して、そう付け足しておく。あ、このフルーツ美味しい。やっぱり、朝食にフルーツがあると、彩りが違うわよね。なんていうか、豪華さに拍車がかかるというか……。
「いや、そういう訳じゃ、ない。……そうだな、この後二人でゆっくりと話でもするか」
「……襲わないでくださいよ?」
「誰が襲うんだ!」
ちょっと面白くなってきたので、私はからかうようにそう言ってみた。そうすれば、カーティス様は露骨に慌てだし、勢いよく立ち上がられる。……いや、なにもそこまで驚かなくても。それだと逆に、襲う気があったのだと受け取られても仕方がないですよ?
「まぁ、私は一度婚姻しておりますが、口づけなどもしたことがないので。そこは、ご理解いただければ、と」
首をかしげながらそう告げれば、カーティス様は一瞬だけ狼狽えるものの、「……襲わないと、言っているだろう」とおっしゃった。……カーティス様の中では、口づけも襲うことの一つに入るのね。また一つ、カーティス様の情報を手に入れることが出来たわ。
「……まぁ、私には魅力がないみたいですけれどね」
ネイサン様に散々「お前には魅力がない!」と言われ続けた。あのお言葉は未だに私の心の中に残っているし、鮮明に思い出せる。だから、苦笑を浮かべながら私は自虐に走った。
なのに、私の言葉を聞いてもカーティス様は笑い声一つ上げない。……今のは、笑うところよ?
「……エレノアは、魅力的だぞ」
「嘘をおっしゃらないでください」
「俺が……その、こういう面で嘘をつくものか」
確かに、照れたような表情だし、嘘ではないわよね。けど、どうしてそんなことをいきなりおっしゃるのかしら? もしかしてだけれど……この格好、カーティス様の好みにぴったりだったのかしら?
「……カーティス様、こういう格好の女性がお好みですか?」
「……」
黙られた。図星か。そう思いながら、私は食事を終えたので立ち上がる。……さて、もうしばらくいろいろと準備をしなくちゃね。……カーティス様と二人でお話をするにしても、それまでにいろいろとやっておきたいことがある。
「カーティス様。私は一旦失礼いたしますね。……適当に、準備をしております」
「……あぁ」
「お話は、何時頃がよろしいでしょうか?」
「……一時間後で、頼む」
「かしこまりました」
なんだろうか、事務的な会話だなぁ。そう思いながら、私は二コラを連れて食堂を出ていく。
「……旦那様って、そういう女性がお好みだったのですね」
食堂を出てすぐに、ニコラがそう声をかけてくる。なので、私は「そうみたいね」とだけ言葉を返した。……というか、それってカーティス様のお好みに私が合っているということでは……?
(いやいや、ないない。私たちはお飾りの婚約者だし、惹かれあうことはないわよ)
確かに、カーティス様のことを「可愛らしい人」だと思ったのは認める。だけど、私は彼と婚姻をするつもりは一切ない。円満に婚約の解消を行って、バイバイさようなら。それで、終わりの関係。……そう思うのに。
『エレノアは、魅力的だぞ』
どうして、あのお言葉が頭から離れないのだろうか? ……私、熱でもあるの?
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