第二十六伝 VS 邪馬台国跡地 日本最古の女王
「にゃはは~、竹っぽい匂いがしたと思ったら、訳分からん所に連れてこられたみたいにゃ~、ここは廊下かにゃ~?」
快活に笑う少女の名前は
腰まで伸びたつやのある黒髪を白いリボンで結び、黒いブーツを履いている、歳は宿毛と同じくらいだろうか。
「初めまして、私の娘…とても強いのね」
祈るように手を組み、慈愛の眼差しで宿毛を見つめる少女。
(何にゃ…こいつ、会ったことがにゃいはずなのに見覚えが…)
「お前…誰にゃ?」
宿毛が問うと少女は薄く笑い言葉を紡ぐ。
「名はすでに忘れました…しかし魏志倭人伝にはこうあります───」
邪馬台国跡地 日本最古の
名を、卑弥呼と曰う
鬼道に
年すでに長大。
高知県 野生児ファイタースケバン、
VS
邪馬台国跡地 日本最古の
いざ尋常に、スケバン勝負!!
「卑弥呼にゃ~? どっかで聞いたことある名前だにゃ、私の名前は檮原宿毛にゃ!! 名前だけでも憶えて負けるんだにゃ!」
「ふふ…宿毛、あなたの力…今すぐ見たいわ…」
「言われにゃくても!!」
一足で卑弥呼の前まで飛び拳を繰り出す宿毛、しかし顔を狙った一撃は首を横に振られあっさりと避けられる。
更に体勢が崩れ前に倒れる形になった宿毛に合わせるように、卑弥呼は喉に向かって貫手を放つ。
乳酸の匂いで攻撃を感知した宿毛が咄嗟にもう片方の手で防ぎ、後方に飛んで距離を取る。
「凄い…現代のスケバンはここまで…」
(にゃ、にゃに~!? 私の攻撃が避けられたのかにゃ!?)
ただ避けられただけ…だが、宿毛であれば話は違う。
隙を突くという精度では常人をはるかに上回る宿毛は、攻撃を避けられるという経験をしたことがなかった。
「私は嬉しい…千年以上経った時代でも国は終わらず、道は続き、確かにあなた達まで受け継がれているのね」
「…にゃはは~お前何言ってるんだにゃ?」
「宿毛…私の娘───私の能力を教えましょう、『鏡』です」
「鏡…かにゃ?」
「ええ、鏡は…真実の姿しか映しません、私は鏡に映った未来の姿を見ることができます」
左手で窓ガラスを触る卑弥呼。
「この奥が透けて見える鏡であなたの姿を見たの」
(これは…所謂不思議ちゃんというやつかにゃ!? 能力は未来を見ることができるとか言ってたけど、それが本当なら私の土佐闘拳も通じにゃい可能性が高いにゃ…)
「にゃるほどにゃるほど、大体分かったにゃ」
宿毛は腕を組みながらうんうんと頷くと、今度は体勢を低くして卑弥呼に向かって駆け出した。
まるで犬の様に四足歩行で窓ガラスのある壁に身体を寄せながら近づき、ブレイクダンスをするように足を後ろから持ち上げ体を一回転させ蹴りを放った。
「ガラスに映らなければどうという事はないという事がにゃ!!」
確かに宿毛の言う通り、反射した自分の姿を見られなければ卑弥呼の能力を防ぐことができる。
対する卑弥呼は宿毛の蹴りをジャンプすることで避けた。
「自分の未来の姿を見ればどこに攻撃が当たるか分かるのよ」
「避けられるのは織り込み済みにゃ!!」
頭を地につけ空振った足をそのまま回し、もう片方の足に勢いを乗せ、再び卑弥呼の着地に合わせて蹴りを入れる。
直撃するかと思われた瞬間、卑弥呼が着地と同時に膝を折り、後方に身体を投げ出して上体を反らした事で、鼻先をかすめる程度でまたしても避けられた。
(にゃ、にゃんつー速度にゃ!?)
その姿勢のまま後ろに手をつき、全身のばねを使って前に飛び出し宿毛の無防備な腹部に足をねじ込んだ。
「に゛ゃッ…!!」
華奢な体躯からは想像もできないほどの重い一撃に驚愕するが、ギリギリで手で後ろに飛んでいたためもろに食らうことは防げた。
転がった勢いで卑弥呼との距離を取ってから体勢を整える。が、
「…ッガッハ…!! ゴホッ…ゴホッ…! 今の結構効いたにゃ~…」
(にゃんにゃんだこいつ…もしかして私より速くにゃいか?)
「素晴らしいわ…今の攻撃、未来を読んでいても避けられないかと思った」
「にゃはは…褒められてるのかにゃ~?」
口から垂れた血を拭い、薄い笑みを浮かべる卑弥呼を警戒する。
宿毛の能力は、言わば受け身の能力である。相手の動きを事前に察知し、それに対応するように動く。
その点でいうと卑弥呼の能力も似たような物だった。
未来を見ることで相手の動きに合わせる。
互いに先読み特化の能力だが、スピードは卑弥呼の方が上。既に何度かの攻防で宿毛の嗅覚は防御にしか使えていない。
例え相手が次にどう動こうとしているかが分かっても、自身の動きより速く動かれては対応できない。
加えて恐らく卑弥呼は宿毛に手加減をしているのだろう、本気を出していない事くらい宿毛には嫌でも分かった。
(このままじゃ、多分私は負けるにゃ…受け手のままじゃ…『対応者』のままじゃダメにゃ)
「お前卑弥呼とか言ったかにゃ? フェアに言ってやるにゃ、私の能力は『嗅覚』、眼球が動く臭いすら感じとる自慢の鼻にゃ、戦闘スタイルは土佐闘拳、犬ができる事だったら大体何でもできるにゃ」
宿毛が親指で鼻を指差すと、対する卑弥呼は受け止めるように手を広げ、告げる。
「来なさい、私の娘…」
動かない卑弥呼に向かって駆け出す宿毛、卑弥呼が見た未来で宿毛は───
「…」
ダンッ、と一歩踏み込み身体を止め、急停止した運動エネルギーを足へと伝わらせ、宿毛は卑弥呼ではなく
突如、爆発のような破裂音と共に何かが吹き出し、両者の視界を一瞬にして覆った。
(これは…白い…粉…?)
宿毛が蹴りつけたのは壁ではなく廊下に設置してあった
強烈な衝撃が与えられた事によって破裂し中身が外に吹き出したのだ。
(…鏡が見えない)
視界を消火器内の粉末によって塞がれたため、卑弥呼には何も見えなかった。
ただし、それは宿毛にとっても同じ事、この状態では自慢の鼻もまともに使うことができない。
卑弥呼は冷静だった。
(仕掛けてくるとすれば、恐らく近接攻撃…私なら近付いた瞬間に瞳に反射した姿から未来を見ることができる)
正確な位置の特定ができない以上、宿毛は目で見て近づいてくるしかない、しかしその目を見られたが最後宿毛の敗北は必至だろう。
卑弥呼が身構えたのと同時に、白い幕の向こうから消火器が超スピードで顔面に向かって飛んできた。
「…ッ!」
身体を落とし仰け反る事で寸前、回避する。
背後で音を鳴らしながら地面に衝突する消火器。
次いで卑弥呼の耳は宿毛の足音を捉えた。
(来る)
卑弥呼の眼前に姿を現した宿毛は───
(目を開けていない…!?)
犬は、耳もいい。
鼻がよく利く事が特筆されがちだが、1km以上離れた距離の音を聞くことも可能だし、可聴音域も可聴範囲も人とは比べ物にならない。
『
宿毛はその耳で消火器が地面と衝突する音を聴き、卑弥呼の正確な位置を把握していた。
目を瞑っていたのは、卑弥呼の狙いに気付いたわけではなく、ただ目に粉が入るのが嫌だっただけだがそれが功を奏した。
驚いた卑弥呼の隙をつき、腋の下に両手を滑り込ませ、腰の辺りで自分の片手を掴み抱きしめる。
「!? ぐッ…あぁ…!!」
『鯖折り』、その名は技を掛けられた相手が首を折られた鯖のような姿になる事からついたとされる。
ギシギシと卑弥呼の肋骨を絞め上げる宿毛、千載一遇のチャンスを逃げられることを恐れた宿毛は逃げられない技を掛けた。
しかし腋の下から両腕で絞めている為卑弥呼の両腕は、まだ自由だった。
スッと卑弥呼が腕を上げる。
(不味いにゃ!! やられる前に…こっちが先にやる!!)
骨の軋む音が更に増し、卑弥呼の口から血が噴き出た。
それでもなお卑弥呼は、動いた。
「…私の…娘、本当に強い…のね…凄い…頑張ったのね……」
左手を宿毛の背中に回し、右手でその頭を優しく撫でる。
「───本当は避けられるかと思ったんだにゃ、いくら場所が分かったからって目を閉じてる隙だらけの私に捕まるとは思ってなかったにゃ」
かける力を緩めはしないが、強くもせず宿毛は聞く。
「…分からない…? 抱きしめようとしてくれる娘を──避ける親がどこにいますか…?」
「……私はお前の娘じゃないにゃ…」
「…フッ…私はすべてのスケバンの母…宿毛…あなたの、勝ち…よ」
やがて宿毛を撫でていた手が止まり、だらんと力なく垂れ下がった。
「母…かにゃ」
スケバン勝負これにて決着ッ!!
勝者、檮原宿毛 !!
決まり手、ベアハッグ
◇◇◇
スケバン図鑑⑳
なまえ:卑弥呼
属性:日本最古の
能力:鏡を見ることで未来を占うことが出来る、未来予知。鏡じゃなくても反射すれば何でもいい。
備考:全てのスケバンは彼女の娘、宿毛と闘っていたのは恐らく新手のスケバンの能力によって呼び出されたのだろう。
ご当地:邪馬台国跡地
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