第零伝 古のスケバン神話大戦




これはとある地方で見つかった、古事記よりも古くに作成されたと言われる、神話上の大戦の話である。




そこには天照アマテラス大御女神オオスケバンと呼ばれる原初のスケバンがいた。


自身の弟でもある須佐之男命のあまりの横暴っぷりに我慢ならなくなり、天照は天岩戸に引きこもってしまう。


太陽神とも呼ばれる天照の不在によりたちまち高天原たかまがはら葦原あしはらの中国なかつくにも闇に包まれる事態。


そこで今が好機と姿を現したのが闇照ヤミテラス大御女神オオスケバンだった。




「あの目障りなアマテラスが消えたお陰で私の能力が存分に発揮できるわ」


-250000ルーメンの光を放ち、闇を操る能力者の彼女は、天照とは全く真逆の性質を持っていた。


彼女の能力の効果範囲は絶大で、この世の全てを闇で包み込むその力に、他の神は恐れをなし必死で天照に助けを乞いた。


事態を重く受け止めた天照は遂に天岩戸から出て、闇照と決着をつけることを決意する。




太陽の化身 天照大御女神


VS


黒き光を放つ者 闇照大御女神



いざ尋常に、女神スケバン勝負!!




「闇照大御女神、私が貴女に引導を渡します」


「っは! 引きこもりが笑わせてくれるじゃないの!!」


太陽を背に、天照は周囲を照らし続ける。


対する闇照は防戦一方だった。


暗黒物質ダークマターを生み出し周囲に散りばめるが、やはり全力の天照を相手にするのは分が悪い。


そもそもこうならないように、不在の所を狙って攻撃を仕掛けたのに一瞬でここまで形勢逆転されるのは闇照も想定外だった。


「このままだとジリ貧、そして恐らく奇襲が一番勝率が高い、機を待つ…か」


天照の光を暗黒物質で防ぎ、地球を闇で支配しながらその影に隠れる。


この時、闇照に支配された事によって、地球に現存する生物の遺伝子には闇に対する本能的な恐怖が刻み込まれているという。


そしてこの状況、天照も攻めあぐねていた。


地球ごと闇照を太陽光線で照射してしまえば簡単に勝てるが、そうすれば地球上の生命体が死滅してしまう。


両者共に膠着状態に陥った。




時が流れ、天照が異変に気が付く。


「……おかしい、闇照大御女神の姿が───こっ、これは…まさか日食!?」


『日食』、月が地球と太陽の直線上に来る事で、月の影が地球上に落ちる事で起こる現象である。


月の影に入った地域では、太陽が欠け、若しくは完全に見えなくなる。


つまりこのタイミングが、最も闇が濃い時間帯なのだ。


「勝機は今ッ、 闇よ! アマテラスを喰らい尽くせ───!!」


月の裏側から溢れ出す"闇"がやがて巨大な腕を形作り天照を襲った。


「ッ『プロミネンス』!! 焼き尽くしなさい!! 」


太陽からアーチ状に超高温のガスが噴出する。


絶対値の等しい攻撃が激しく衝突した。


天照は自身の光を操る能力に加え、太陽をも操り闇照の攻撃を防ぐ。


が、反撃虚しく奇襲で動揺していた天照を、闇で作られた腕が握りこんだ。


「勝った!! 握りつぶせ!!」


「甘い! 『太陽フレア』私ごと燃やしなさい!」


直後、天照の背後で爆発する太陽。


『太陽フレア』とは、太陽系最大の爆発現象で、その圧倒的なエネルギーは地球にも多大な影響を及ぼす程である。


完全に太陽フレアを支配下に置く天照に死角は無かった。


まるで導火線のように闇の腕を焼き尽くしながら、操っていた闇照の元まで届かせる。


「ば、馬鹿な…! 私の能力が…敗れた!?」


そしてエネルギーの全てを月の背後に隠れていた闇照に直撃させた。


いくら闇照とはいえ、天照の全力以上の攻撃を喰らっては一溜りもない。


「貴女の負けです、闇照大御女神」


衝撃波が月に届き地表に大量のクレーターを作る。


同時に集約されていた暗黒物質が周囲に霧散し宇宙空間を漂うようになった。



闘いの勝者は天照大御女神、かのように思えた。



それは天照が太陽のエネルギーを消費した事により、生じた物。


太陽のエネルギーとはすなわち熱エネルギー、つまり "そこ" は他より温度が低い場所だった。



太陽に唯一存在する闇───



『黒点』、太陽表面温度に比べ温度が低い部分の事である。


太陽を観測した時に黒く見える部分、そこに闇照がいた。


本体がやられる前に闇から生み出したダミーの身体を置き、自身を暗黒物質で覆い姿をくらます。


黒点の位置まで気付かれずに移動する事で、この瞬間、闇照は完全に天照の背後を取った。


奇襲の上の奇襲。


「これで私の勝利だッ!!闇に飲まれろ、アマテラス!!」


闇の力を集め、闇照は背後から天照に襲いかかる。



勝敗の差は『何手先まで読めていたか』だった。



直後、闇照の胸を背後から貫く黒閃。


「──ゴブッ!? なっ…何だあれは…?」


急旋回するその物体は再び闇照の元まで飛来すると今度は喉元を穿った。


「うぐっ…」


(い、今のは何だ、カラスか…?)


天照が振り返ることなくその疑問に答える。


八咫烏ヤタガラス、私の従者です」


『八咫烏』、太陽の黒点に住むと言われている伝説上の生き物、天照大御女神の使者である。


「貴女なら、必ずこの隙をついてくると予想していました」


天照がゆっくりと振り返りながら言った。


「闇に姿を溶け込ませる事が出来る八咫烏なら、貴女に気付かれる事無く攻撃する事ができると───」


「く…そ…私の───負けか」


やがて闇照は力を失ったように太陽へと落ちていき、その身体は焔に包まれた。




女神スケバン勝負これにて決着ッ!!


勝者、天照大御女神 !!



決まり手、射抜き




こうして地上の闇は消え去り、安寧が保たれた。



闇照大御女神に関して記述のある書物はこれのみである。


文字通り、彼女は歴史の闇へと姿を消したのだった。



闇を生み出し支配する闇照大御女神。


しかし、そこに闇があれば、或いは人々の心に闇が巣食えば───




◇◇◇




スケバン図鑑⑭


なまえ:天照大御女神


属性:太陽の化身


能力:光を操り、太陽を支配下に置くことができる


備考:闇照大御女神とは犬猿の仲


ご当地:古事記




スケバン図鑑⑮


なまえ:闇照大御女神


属性:黒き光を放つ者


能力:-250000ルーメンの光を放つ。暗黒物質を生み出し操る事が可能。


備考:天照大御女神とは犬猿の仲


ご当地:古事記

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る