第十五伝 VS 香川県 喉越し悩殺スケバン




「あっ祭鈴ジャケット忘れてる!!」


食器を洗い、テーブルを拭いていた時に椅子にかかったジャケットに気が付いた。


慌てて店を飛び出し、駅の方向へと走り始める。


「うわっ、ケータイ置いてきちゃった! どうしよう!」


取りに行こうか迷うが、先に追いつく事を優先した。


幸い、そこまで時間は経っていなかったので急げば間に合うだろうと小麦が考えていると、何処からか爆発音が響いてきた。


「もしかして…祭鈴…?」




◇◇◇




「ここで寝ててね祭鈴、すぐ倒すから」


大の字に気絶していた祭鈴を起こし、壁に寄りかからせジャケットを肩に被せる。


「こ…小麦、気を付けろ…そいつ、強いぞ…」


「お前もしかして香川のスケバンかにゃ~?」


「そうです、貴女は?」


「私は高知の檮原宿毛にゃ、祭鈴に倒されたっていうのに傷一つにゃいのはなんでにゃ?」


若干焦げた髪をかきながら、至極真っ当な質問をする宿毛。


「…それは、あたしの嘘だ…負けたのはあたしの方だ」


小麦が口を開く前に、祭鈴が答えた。


「にゃ、にゃに~!? 何だってそんな嘘つくんだにゃ!?」


驚愕する宿毛だが、目の前のスケバンの評価を改める。


(どんにゃ能力かは分からにゃいが、祭鈴を倒したって事は相当な実力者のはずにゃ…なら一瞬で決めるにゃ!)


「私にはちょっと分かるかな、嘘をついた理由」


独り善がりかもしれないが、祭鈴は自分を守る為に嘘をついたのだと確信していた。


「今回ばかりは逃げられないな」




香川県 喉越し悩殺スケバン、饂飩川小麦


VS


高知県 野生児ファイタースケバン、檮原宿毛



いざ尋常に、スケバン勝負!!




僅か一分にも満たない攻防だった。


小麦が宿毛に近付こうと一歩踏み出そうとした足を、上から宿毛が踏み付ける。


「え───ガッ!?」


踏み出せない足に違和感を覚えたのもつかの間、宿毛の右腕が伸び、小麦の首を片手で締め上げる。


「悪いけど速攻でいかせてもらうにゃ!!」


段々と小麦の足が地面を離れ宙へと浮かぶ。


「カッ…ハ…!!」


宿毛の右腕を両手で掴み、振りほどこうとするが全く動かない。


(こっ、このままだと落ちる!)


全力で左足を上げて宿毛の首に引っ掛け、関節技である『腕ひしぎ十字固め』を掛けようとするが、足を上げようとする前に宿毛の左手で止められる。


「え…な…!?」


えてるにゃ〜」


首ごと身体を引き、小麦の鳩尾に肘鉄をねじ込ませる。


「~~~ッッ!!」


吐き出そうとする空気が締められているせいで再び肺へと戻っていく嫌な感覚。


「こっ小麦…!!」


祭鈴が立ち上がろうとするが、上手く足に力が入らず倒れ込んでしまう。


意識が途切れかける小麦だが、勝ち筋はまだ失っていなかった。


ぼふんっと両手から粉が大量に吹き出される。


「にゃに!?」


突然視界を塞がれ混乱する宿毛だが、流石スケバン、その手は緩まない。しかし───


「にゃ、にゃ、にゃっくしょーん!! にゃくしょん!! にゃーくしょん!!」


大量の粉が鼻腔に侵入し、クシャミが止まらなくなっていた。


(ま、不味いにゃ…鼻が使えないにゃ)


おまけに目にも入り込み、涙が止まらない。


(勝機は…今ッ!!)


あと数秒で落ちる小麦が最後の力を振り絞る。


が、野生児と呼ばれた彼女は勘も鋭い。


突き出した小麦の右腕が宿毛の左手で掴まれる。


まさしく野生の勘と呼ばれるべき物。



「危なかったにゃ...」



一つ彼女にがあったとすれば、一度攻撃を防いだ時点で安心してしまった事だった。


「にゃッ!?」


空いていた小麦の左手が宿毛の口と鼻を覆った。


それと同時に、小麦粉を最大出力で噴射する。


「わぶッッ!!」


口内、鼻腔、食道に至るまで全てを粉が埋め尽す。


堪らず両手で掻き出すように口から粉を吐き出した。


「おえーッ!! ゲホッゲホッ!! 気持ぢ悪いに゛ゃあああ!!!」



ハッと気付いた時には時既に遅し、小麦の気配が近くから消えていた。


(何処に───)



「祭鈴、言ってみたら」


「ああ、檮原…『粉塵爆発』って知っているか?」



逃げようと足に力を入れた瞬間、宿毛は大爆発に巻き込まれた。


爆心地から吹き飛ばされた宿毛の身体がドサッと二人の目の前に落ちてきた。


「か…あ…は…」


起き上がろうとするが、手足を投げ出しそのまま気絶する。


「何てタフさ…あたしの両手爆発でやられない訳だ」


「ありがとう祭鈴、おかげで勝てたよ!」


肩を貸している小麦が祭鈴の顔を覗きこむようにして見る。


「…ん、こっちこそありがとう…」


聞こえるか聞こえないか分からない程の音量で呟く祭鈴。


「何の事?」


普通に聞こえていた。


「…何でもない」


「ええ~教えてよ!」


「やだ」




スケバン勝負これにて決着ッ!!


勝者、饂飩川小麦 !!




「成程、愛媛と高知がやられたか、という事はつまり…次は僕の番…かな?」


四国最後のスケバン、徳島県 鳴門の大渦潮スケバンが不敵に笑った。




◇◇◇




スケバン図鑑⑨


なまえ:饂飩川小麦


属性:喉越し悩殺スケバン


能力:右手から片栗粉、左手から小麦粉を生み出す事ができる。


備考:学校へはうどんのツユを水筒に入れて持ち歩いている。麺類は基本好きだがカップヌードルはあまり好きではない、理由は汁が美味しくないから。饂飩より〇〇が好きと言うと暴走する。


ご当地:讃岐うどん

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る