第十六伝 四県集結
「熱っつーい…」
燦々と降り注ぐ陽光の下、顎に垂れる汗を手首で拭う。
「大体プールの屋台でうどんってどういう事って感じじゃない? 普通焼きそばとかでしょ」
「まあ四捨五入すれば焼きそばもうどんも対して変わらないしな」
「は〜? 全然違いますぅ!!」
ラッシュガードをジャケットのように羽織る祭鈴とTシャツを脇の下で裾結びし、へそを出している小麦が言い争いをしている。
何を隠そう、彼女達は今水着を着ているのだ。
季節は夏、舞台は大型海水プール。
事の発端は二日前に遡る。
つい先日、香川県と徳島県の県境付近に大型の海水プール施設、『ジャンボシーサイドプール』が新しく開業された。
ナガシマスパーランドのパクリみたいな施設だが地理的に四国だけでなく本州からも観光客が見込める事で話題になっていた。
そこで内部の屋外屋台としてご当地要素を盛り込んだ商品を提供しようと抜擢されたのがうどんである。
小麦が母から紹介されたのが、ここでのアルバイトだった。
たまたま運営側の人間とツテのあった母が、商品を出さないかと打診を受けた所、二つ返事で娘を行かせることを了承していたのだ。
「まあ一週間位らしいし、小麦行ってきなさいよ」
丁度夏休みだった小麦に断る理由は特に無かった。
友達も連れて行っていいか母に聞いた所、バイトとしてなら雇えるとの事、元より行ってみたいと思っていたので渡りに船だった。
◇◇◇
「それにしても…随分盛況だったな」
「ホントにね、私疲れちゃったよ」
パラソルの下で氷の入ったジュースを飲みながら涼む二人組。
意外にも小麦と祭鈴のうどん屋は評判が良く、集客が多かった。
味が美味しいのは当然だが、二人が看板娘的立ち位置になっていたのが大きい要素だろう。
そこにもう一人現れる。
「お前達もうバテたのかにゃ~? そんなんじゃこの夏を乗り切れにゃいぞ!」
水着用ショートパンツを履いた宿毛が声をかけてきた。
「そういえば宿毛の所も結構人気だったよね」
高知名物ウツボの唐揚げを出していた宿毛、何でも自分で海に飛び込んで捕まえてた物を自分で捌いて提供したのだという。
「まあにゃ~私の手にかかればこんなの朝飯前にゃ~、お前達も休憩タイムかにゃ?」
「そうだよ、流石に疲れたからちょっと休憩」
「宿毛、向こうの方にウォータースライダーがあったぞ、行ってきたらどうだ」
親指で後ろを指す祭鈴、宿毛の顔がパァッと明るくなると一気に飛び出した。
「それは行かなきゃ損にゃ!! 私だけ先に行ってくるにゃ!!」
疾風の如く駆け出し、一瞬で見えなくなる。
うるさい奴が居なくなったと、祭鈴がジュースを一口飲むと小麦が急に立ち上がった。
「私も行きたい!! 祭鈴も早く行こうよ!!」
「ええ…あたしはまだ休憩していたいんだけど」
「いいからいいから!」
泣く泣く祭鈴はカップを飲み干し、ごみ捨て場に放り込むと小麦に手を引かれて宿毛の後を追うのだった。
◇◇◇
「にゃはは~! 沢山人がいるにゃ~」
ウォータースライダーの高さは相当な物で、上まで登るための螺旋階段には夥しい数の人が並んでいる。
「う~ん、どう考えても普通に並んだら効率悪いにゃ、そうにゃ! いい事思いついたにゃ~」
笑顔のまま階段の手すりを外側から掴むと、凄い勢いで登り始めた。
「こうすれば先回りできるにゃ~!」
安全装置など一つも付いていない、落ちたら終わりの高さで手すりをぴょんぴょんと飛び跳ねながらどんどんと上へ向かう。
これが高知県のスケバン、檮原宿毛だった。
「着いたにゃ!!」
手すりを掴んだまま壁を蹴り、一回転し着地する、そこはウォータースライダーの頂上、突然外から現れた少女に、順番待ちをしていた男性は度肝を抜かれる。
「お~随分高い所まで来たにゃ~、ん?」
横を見るとあんぐり口を開けたままの男が立っている。
「あ、私が先に滑っていいかにゃ~?」
「ど、どうぞ…」
近くに居た係員の指示に従って滑走路に座る。
「おお~先が見えないにゃ…楽しみだにゃ~」
「では僕の合図に合わせて、滑り始めて下さいね」
脇から溢れ出す水に押されないよう横の手すりをがっちりと掴み、時を待つ。
係員がしばらくコースの下の方を眺め、合図を送ると宿毛に声をかける。
「準備出来ました!」
「おっようやくかにゃ~ワクワクするにゃ!」
パッと後ろを振り向く宿毛、しかし何故かその視界がぼやけている。
「…何にゃ?」
よく見ると、水が宙に浮かんで目の前で漂っているのが分かった。
「高知県の檮原宿毛…だったかな? これが僕の能力『
刹那、飛び跳ねて能力の範囲外から逃げようとする宿毛だが、相手の方が速かった。
「『
水が螺旋状に回転し始めたかと思いきや、ドリルのように高速で宿毛の身体に激突した。
激流に飲み込まれウォータースライダーを超スピードで滑り始める宿毛。
「それではお客さん、行ってらっしゃい」
◇◇◇
「ここに落ちてくるのかな」
「そうだろうな、落ちてくる頃には目が回りそうだ」
ウォータースライダーの着水地点のプールを眺めていると近くに居た係員が上に向かって合図を出している。
「誰か滑ってくるんじゃない?」
「どの位の勢いなのかまずは見てみるか」
しばらく待っていると不意に小麦が何かに気付いた。
「ねえ祭鈴…何か聞こえない?」
「何か…って何だ?」
祭鈴が耳をすませると確かに何か聞こえる。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!!!!」
突然コースから滝のような水量と共に滑り落ちてくる少女。
ぐるぐると回転しながら大量の水飛沫を上げ水面に突っ込むと、プカーと背中が浮かんできた。
「「す、宿毛ぉぉぉおお!!!」」
小麦と祭鈴がほぼ同時に飛び込み、宿毛を引き上げ床に寝かせると泡を吹きながら気絶していた。
「な、何て恐ろしいウォータースライダーなんだ…宿毛が気絶する程か…!!」
祭鈴が驚愕していると、また一人誰かが滑り降りてきた。
バシャアッ、と大きな音を立てながら水面の
「やあ、君達は香川と愛媛のスケバンかな? 僕の名前は
香川県 喉越し悩殺スケバン、饂飩川小麦
VS
徳島県 鳴門の大渦潮スケバン、
いざ尋常に、スケバン勝負!!
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