外伝 四国統一編

第十三伝 VS 愛媛県 炎獄爆裂ファイヤースケバン




「はい、お待ちどうさま」


カウンター席の客にうどんを出す。


「今日はもう上がっていいよ」


母親からそう言われ、は〜いと返事をしてから厨房へと戻る。


彼女の名前は饂飩川うどんがわ小麦こむぎ、香川県のご当地スケバンである。




「ま~上がってって言われても、なんにもする事なんて無いんだけどね」


夕飯の支度をするために、材料を買いに行く途中で一人呟く小麦。


今日の献立を何にしようか考えていると、前の電柱に誰かがもたれかかっているのを発見した。


セーラー服の上から黒いジャケットを羽織っている彼女に、小麦は嫌な気配を感じた。


「……」


まさかね、と思いつつ横を通り抜けようとした時、声がかかる。


「あんた、香川県の饂飩川小麦だろう? あたしと勝負───」


声がかかるのと同時にバッと手の中に持っていた粉を彼女に向けてぶちまける。


「なッ!?」


投げつけるや否や即、後ろへ振り返り逃げ出す。


(やっぱりスケバンだった! まずは逃げなきゃ!!)


小麦は右手から片栗粉、左手から小麦粉を生み出す事ができる。


小麦が生み出した小麦粉でこねられたうどんの生地は非常に評判がよく、彼女のうどん屋は毎日大盛況だったが、如何せんスケバンの能力としては闘えるレベルではなかった。


「ケホッ…逃がさないよ」


襲ってきたスケバンは煙から飛び出し、小麦の背中に向かって手を突き出す。


「喰らいな」


ボッと彼女の手から拳ほどの黒い人魂のような物が、小麦に向かって発射される。


危険を察知した小麦が走りながら後ろを振り返ると、その人魂が既に目と鼻の先まで迫ったいた。


「何…これ」


瞬間、その物体が爆発する。


咄嗟に顔を買い物袋で覆い、致命傷は免れるが、爆風で横の壁に叩きつけられた。


「カッ…ハ…!!」


肺の空気が全て吐き出され、喘いでいると横に誰かが立つ気配。


「あたしは愛媛のスケバン、神火かみひの祭鈴まつり、あんたは?」


「饂飩川…小麦、香川のスケバンよ」




愛媛県 炎獄爆裂ファイヤースケバン、神火かみひの祭鈴まつり


VS


香川県 喉越し悩殺スケバン、饂飩川うどんがわ小麦こむぎ


いざ尋常に、スケバン勝負!!




まず初めに動いたのは小麦だった。


再び小麦粉を手から生成し祭鈴に投げつける。


「くっ!」


何かを取り出す動作もしていなかったので、もう煙幕は持っていないと判断した祭鈴が一手遅れる。


先程よりも粉が多く、目の中にまで入り込み抜け出すのに時間がかかった。


ようやく煙が晴れた頃には既に小麦の姿は消えていた。


「芸がないスケバンだな、相手のテリトリーで逃げに回られたら流石のあたしも骨が折れるぞ、だからこその待ち伏せだったんだがな…」


ジャケットを脱ぎ粉を落としてから再び袖に手を通すと、祭鈴はまず地面を見た。


「これだけ粉が舞ったって事は饂飩川の服にも粉が付着しているはずだ、それを辿れば…ビンゴ」


走った最中に零れ落ちたであろう小麦粉が点々と地面の上に続いている。


「よくあの状況であたしの後ろに逃げようと思うな、これは面白くなりそうだ…!」


無駄になってしまったが、小麦はあえて祭鈴の後ろに逃げる事で追跡を巻こうとしていた。


追う祭鈴と逃げる小麦、どちらが勝つのかは結局の所、能力の差ではなく策略の差なのである。




◇◇◇




祭鈴は手から生み出した人魂を爆発させたり、発火させたりすることが出来る能力を所持している。


本来は相手を掴んで爆発させ、負傷させるという使い方だが、遠距離攻撃も可能である。


地面に粉が落ちなくなってきて、焦る祭鈴だが同時に遠くの曲がり角を曲がっている小麦を発見した。


「見つけた、ここからは鬼ごっこの開始だ!」


何度か見失いかけるが、追いつくと同時に人魂を出し、小麦の背後で爆発させる。


が、インパクトの瞬間、小麦が横にジャンプした。


爆風とともに吹き飛ばされ、建物の窓ガラスを突き破り中まで転がっていく小麦。


「今の動き…ここに無理やり入る為か…?」


小麦が突っ込んだのはいかにもな雰囲気の廃工場だった。


「いや、そんな訳ないか、自分から閉じこもってくれるなら好都合だ」


中へと入り、小麦を探すが、飛び散った破片が残されていただけだった。


「ここ全部探すのも面倒だな、爆発させるか」


建物を破壊すれば小麦も炙り出せると考える祭鈴の耳に、奥の方からガチャりとドアの開閉音が入る。


「向こうか」


錆びた工具やら机を避けながら扉の付いた部屋に到着し開けると、暗い部屋の更に奥の扉を閉めようとする小麦の姿が見えた。


(この距離なら扉ごと破壊すれば当たるはず!!)


「弾け飛びな!!」


ボッと手から発射される人魂、すんでの所で小麦が扉を閉める。


「「勝った」」


その瞬間、二人の声が重なった。


ドガァァァン!! と地面を揺らすほどの巨大な爆発音。




立ち上がったのは───小麦だった。



「『粉塵爆発』、扉に当たる前に予め撒いておいた粉に当たってくれてよかった…」


粉塵爆発とは、可燃性の粉が空気中に浮遊した状態で着火される事で、連鎖的に他の粉に熱が行き渡り最終的に爆発を引き起こす現象のことである。


かなり暗い部屋だったので祭鈴には見えていなかったが、辺りには小麦粉やら片栗粉が既に宙を舞っていた。


扉で塞ぎ爆風から逃れた小麦と、直撃した祭鈴、勝敗は文字通り神を見るより明らかだった。




「それにしても…痛てて…威力強過ぎだよ…」


軽度だが背中に火傷、風圧で転がった事による全身の擦り傷、全てが痛むが取り敢えず工場の中に再び入り、壁に背中を預けたまま気絶している祭鈴を背負う。


「凄いな、あの短時間で自分の目の前でもう一度爆発を起こして、威力を相殺しようとしたのかな」


若干の火傷こそあるものの、死んではいなかった。


「まあこれで倒れてくれて良かった、流石に全力疾走し過ぎて疲れたしね…」




スケバン勝負これにて決着ッ!!


勝者、饂飩川小麦 !!




◇◇◇




スケバン図鑑⑦


なまえ:神火祭鈴


属性:炎獄爆裂ファイヤースケバン


能力:手から黒い人魂のような物を出し、爆発させたり発火させたりする事ができる。


備考:肩の辺りに白いファーが付いたジャケットを着ている。髪は向かって右側が黒く、左側が白い


ご当地:寺村山の神火祭り


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