第十一伝 激戦!!スケバンバトル
愛宕の顔を壁ごと貫いた、かのように見えた。
が、しかし桜の足には、壁を貫いた感触しかなかった。
そして桜は気付く、すぐ横に立っている愛宕に。
これが愛宕の能力、飛ばされた瞬間から既に光を操り自分の位置を誤認させていた。
「よそ見は良くないな宮ヶ瀬桜、隙ありだ…!!!」
「やっやめ───」
まずレバーブローが直撃した。
それだけで血が逆流し、口から飛び出す。
「おおおおおおぉぉらああああああああぁぁぁ!!!」
更に加速する嵐。
体力の限界などとうに超え、気力だけで身体を動かしている状態だった。
まるで魂を燃やす事でエネルギーを得ているような鬼気迫る顔。
最早腕でカードする事が出来なくなった桜は、嵐の中心でただ一撃を撃つために機を伺っていた。
(あと一撃、あと一撃で終わる…!!)
それは愛宕が左胸を殴りつけた時だった。
桜の左腕が衝撃で上がった、愛宕が若干注意を向ける。
(今だッ!!)
左腕に注意を向けさせ対角線上の右足でのステルスキック。
確実に当たる一撃。
「これであたしの勝ちだ!!」
愛宕にはその攻撃は見えていなかった。
勝負あったかと思われたその時、桜のキックは愛宕の肘に直撃した。
正確に言えば、愛宕の肘が桜の脛に直撃した。
桜を倒すために、拳をより速く、より重くしようとした愛宕は、腕を速く引いて速く撃っていた。
その引いた時の肘に直撃していたのだった。
「~~ッッ!!!」
弁慶の泣き所をエルボーされ悶絶する桜。
最後の抵抗も虚しく散り、連撃を食らい続けた桜の意識はいつの間にかなくなっていた。
「うをぉぉおおおおおらあああああああ!!」
嵐は最後の一撃で鳩尾に拳をめり込ませた。
くの字に曲がった桜の身体は、弾けるように剣道場の入口まで吹っ飛んでいき、ドアを破壊しながら外まで転がっていく。
愛宕は最後の一撃で桜の口から宙に飛び出したガリガリ君の棒を口でキャッチすると、学帽の位置を直して呟いた。
「まだまだ甘いな」
プッと飛ばした木の棒には『当たり』の文字。
スケバン勝負これにて決着ッ!!
勝者、泉坂愛宕 !!
不意に足元がぐらついて、床に膝を着く。
「ハァ…ハァ…くっ流石に疲れたな、それにしても…白鳥二香はまだ来ないのか…」
来た所で今の愛宕には勝てる見込みがないのだが。
その時、外から誰かが走ってくる足音がした。
「…誰だ?」
やがてその人物は靴を脱ぎ捨て剣道場へと入ってきた。
「ちょっと外の人は誰!? ドアも壊れてるし…貴女がやったの!?」
怒鳴り声を上げて愛宕に近寄ってきたのは白鳥二香。
初めは気付いていない様子だったが、ふと冷静になって、愛宕の顔を見つめると溜息をついた。
「はぁ…外の人はスケバンで、今まで貴女が戦ってたって事ね、なら仕方がないわ、それより私も急がないと…!」
「白鳥二香か、一体どうしたその傷は」
全身が切り傷まみれの二香に疑問を抱く。
「説明は後! 兎に角貴女はどこかに隠れていなさい!! 今から時を止める能力のスケバンが来るわ!!」
何だその強そうなスケバンは、と愛宕が思うのと同時に、再び誰かが剣道場に入ってきた。
「私から逃げ切られると思って?」
手には砂時計、それを見た二香が道場内の端にある竹刀袋へと走り出す。
「貴女の負けよ」
沙羅が砂時計をひっくり返した。
瞬間時が止まる。
その中を沙羅が優雅に歩く。
傷だらけの愛宕を横目に、袋へと手を伸ばしたまま硬直する二香の横に立つ。
元より攻撃を食らうことに慣れていない二香、次あのラッシュを喰らえば間違いなくダウンするだろう。
「これで終わりよ!!」
そしてラッシュを放とうとした時だった。
スカッと拳が二香の身体をすり抜けた。
「───は?」
2度3度殴っても結果は同じ、訳の分からない目の前の現象に立ち尽くす事しかできない沙羅、やがて砂時計の砂は落ちきり、時が動き出した。
「何だったの…今の…?」
二香は急いで竹刀袋を手に取り、流れるような手つきで木刀を取り出して、腰に当て構える。
「間に合った…」
「今のが貴女の能力なの? 攻撃をすり抜けさせる能力って事? なぜ初めから使わなかったのか理解できない…」
不意に背後でバタンと誰かが倒れる音がする。
「まさか本当に時を止めるスケバンとはな…宮ヶ瀬桜も瞬間移動のような速さだと思ったが、今のは確かに何も見えなかった、だが、これで借りは返したぞ、白鳥二香」
そこまで言うと、愛宕は死んだように眠り始めた。
「…どうやら私は知らない内に助けられてたみたいね」
「今のは貴女の能力じゃなくて彼女の能力って事…? さっきの一瞬でそんな相談をしていたのね、でも彼女は気絶してるみたいだし───次は当てるわ」
「いいえ、更科沙羅さん、私に木刀を持たせた時点で貴女の負けよ」
1手目は首元への居合切り、相当な速度だったが後ろに下がられ避けられる。
再び抜刀の構え。
「なるほどね、私に近寄らせない戦法か」
ならば好都合と、沙羅は避ける事に集中する。
五度ほど木刀を避けた時、後ろに下がろうとすると、何かに足を取られる。
倒れていた愛宕の足だった。
「な───ゴフッッ!!」
その一瞬の気の緩みを、二香は狙っていた。
木刀を思い切り横薙ぎに振るい、沙羅の脇腹に直撃させる。
ビキッと嫌な音を立て、横に転がる沙羅。
初めての有効打だった。
追い打ちをせずまた同じ構え。
腹を押さえて苦しむ沙羅に背後から近付く。
近付いた二香が次に見た光景はニヤリと笑いながら砂時計を裏返そうとしている沙羅だった。
「!!」
気付いた時にはもう遅い、世界の時が止まった。
「こんな攻撃でひいひい言ってるようじゃ鳥取でNO.1は取れないのよ」
起き上がり拳を構える沙羅。
「正真正銘、これで終わりね」
瞬く間の一閃、流れる鮮血、吹き飛ばされる身体。
「グッ…ああああああああぁぁぁ!!!」
壁に叩きつけられ痛みにのたうち回る。
「だから言ったでしょ、貴女の負けだって、
「なん……で私が攻撃されて…ガフッ…」
「さあて、何ででしょう」
二香が抜刀の構えを取っている最中に攻撃する者は、何人足りともその攻撃を当てることは叶わず、その攻撃の何倍もの痛みを身体に味わう事になる。
例えそれが時が止まってる中であったとしても、例外なく。
震える手で砂時計を探すと、粉々に割れたガラスの破片が散らばっていた。
壁にぶつかった衝撃で割れてしまっていたのだ。
「あ…あああ、私の砂時計が…!!」
「まだやるかしら?」
震える手で脇腹を押さえながら上半身を起こす沙羅を見下ろす二香。
「…これでも鳥取の代表なのよ…!! 自分から降参なんてしない…!!!」
「そう…そうよね」
スパンと沙羅の顎に木刀を直撃させ、一瞬で意識を刈り取る。
沙羅はばたりと倒れると気絶した。
辺りを見回すと倒れた二人、ガラスの破片と砂、そして血痕、ドアは完全に外れており、更に外にも気絶した人間が一人。
「はぁ…まずは掃除ね」
スケバン勝負これにて決着ッ!!
勝者、白鳥二香 !!
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