第九伝 VS 鳥取県 こぼれ落ちない砂時計スケバン




「そう言えば、瑠衣の電話番号を聞いて無かったわね」


そう呟いたのは、上履きからローファーに履き替えた二香だった。


これから剣道場へと向かう所だったが、瑠衣の連絡先を聞いていないことを思い出したのだ。


また明日にでも聞けば良いだろうと思い、剣道場へと向かう。


それは、つい昨日愛宕と遭遇した場所を通り抜けた時だった。


「ねえそこの貴女、蓮水瑠衣という名前に聞き覚えはある?」


声の方に顔を向けると、ゴスロリのようなセーラー服に身を包んだ女子生徒が、校舎の壁の突出部に座っていた。


見れば、頭には小さなシルクハットを乗せている。


その異様な風貌に、二香はすぐに彼女がスケバンだと感じ取った。


「ええ、瑠衣とは知り合いですけど、どちら様ですか?」


「私? 私は鳥取県NO.1スケバンの更科さらしな沙羅さら、知り合いなら丁度良かった、貴女蓮水瑠衣の居場所を───」


まだ話してる最中に、二香は肩にかけていたバッグを沙羅に投げ付ける。


(瑠衣の情報が出回るのが早すぎる、恐らく既に別のスケバンも学校に侵入してるはず、このスケバンだけでも私が倒さないと!!)


更にそのバッグが直撃するよりも早く動き、蹴りで追撃を放つ。


が、次の瞬間二香の身体は後ろに吹き飛ばされていた。


「…ゴフッ───!?」


まるで一瞬の内に何発もの拳で撃ち抜かれたような痛みと共に転がる二香。


その勢いのまま身体を起こそうとする、が意識していなかった所からの攻撃はやはり効いたのか、若干足元がフラついている。


(何…今の攻撃、一つも見えなかった…どういう能力の持ち主なの…?)


対する沙羅は、さっきまで二香が立っていて場所で頭のミニシルクハットの位置を調節していた。


「随分喧嘩早い人に話しかけてたみたいね、いきなり何、貴女もスケバンなの?」


「ええ、私の名前は白鳥二香、瑠衣の元へ行きたいならまず私を倒してからにしなさい」


「そんな漫画みたいなセリフ、人生で初めて聞いたわ、でも残念相手が悪かった、私は貴女を倒して蓮水瑠衣も倒す、漫画の様にはいかないわよ」




鳥取県 こぼれ落ちない砂時計スケバン、更科さらしな沙羅さら


VS


後手必勝一撃必殺スケバン、白鳥二香


いざ尋常に、スケバン勝負!!




二香の能力は木刀や竹刀等の棒状の物で抜刀の構えを取ったときにどんな相手の攻撃にもカウンターを入れる事ができる能力である。


極論、ある程度の長ささえあれば木の枝ですら能力は発動する。


廃病院で二香がただの棒を武器にしてたのはそのためだった。


竹刀は朝の内に剣道場に置いてきていたので、手持ちにはない。


(とは言え、このスケバンを無視して剣道場へ行くのは厳しそうね)


既に先の攻撃が一つも見えなかった以上、スピードは沙羅の方が上、横を通り抜けた所で追い付かれることは必至である。


まずは能力の詮索が先決。


能力さえ判明してしまえばまだやりようはある。


二香の選択は、多くのスケバンに共通する物だった。


とりあえず一発ぶん殴る───!!


「あまり肉弾戦は得意じゃないけれど、仕方ないわね!」


強烈な踏み込みと共に一息で沙羅の眼前へと迫る。


「!」


目を丸くするをする沙羅、その顔目掛けて一撃を入れた。


しかし、両手で防がれる。


防御の後、沙羅は二香の身体を蹴り、その反動で距離をとった。


「中々いい攻撃ね、私驚いたわ」


服をパンパンと払い帽子を整えながら沙羅が言った。


「ええ、ありがとう、これからもっと驚く事になるわ」


そこで二香に疑問が生じる。


あの超スピードであれば悠々と避けられたはずの攻撃をわざわざ受け止める必要はない。


では、なぜ受け止めたのか。


(能力の連続発動は不可能、と考えられるわね、なら今の内に倒す!!)


再び距離を詰めようとした瞬間だった。


二香の目と鼻の先に沙羅の拳が存在していた。


「な───ッ!!」


当然ガードが間に合うわけなく、顔面を撃ち抜かれる。


加えてまたしても全身を殴られた様な痛みと衝撃。


そのまま後ろに殴り飛ばされ、植え込みに突っ込む。


「グ…ガハッ…!!」


ジンジンと身体が熱を発する。


「御免なさいね、あまりにもスキだらけだったから、つい」


口元に手を当て嘲笑を浮かべる沙羅。


鼻血を拭い取り、植え込みから起き上がると二香は言った。


「貴女の能力は、時を止める能力ね」


「…」


「今ので確信したわ…瞬間移動したとしか思えない速度を出していたにしては、風すら感じなかった、何より貴女の髪の毛が移動前と移動後で全く動いてなかった事…これらを含めて考えると、貴女の能力は時間停止か、時を遅くさせる能力」


殴る直前の沙羅の髪の毛は、視界から消えるほど速く動いていたにも関わらず、ふわりともしていなかった。


感心した様に沙羅はふーん、と呟く。


「正解、確かに私の能力は時間停止、でも分かった所で貴女は絶対に私には勝てない、むしろ絶望感が増したんじゃない?」


そう言って彼女はシルクハットを頭から外すと、中から砂時計を取り出した。


サラサラと流れ落ちる砂。


「今砂が流れているのが見える? でも今溜まっている砂が流れるのを、貴女は見る事はできない」


更科沙羅は、砂時計を返した際に時を止めることが出来る能力を持っている。


時を止めている最中にも砂時計の砂は流れているが、それは沙羅にしか認知できない。


故にこぼれ落ちない。


時を止めた後は一度砂時計を返して、もう一度砂を貯める必要がある。


連続使用ができなかったのはこの為だった。


「いえ、能力を知られた時点で貴女の負けよ…貴女はまだ私の能力を知らない、それが貴女の敗因───!」


またしても沙羅に接近する二香。


そのまま殴りかかると見せかけ、沙羅の目の前で急停止。身体を回転させ裏拳を右側頭部目掛けて打ち込んだ。


「ッッ!!」


咄嗟に右腕を上げ、ガードする沙羅。


前に出ていた二香の足を思い切り踏みつけ、ガラ空きになった右半身に左拳を叩き込む。


「くぁ…!」


二香が怯んだ隙に、沙羅は右手で握りこんでいた砂時計を返した。


なぜ二香が懲りずに沙羅に近付いたのか、それは下手に逃げれば先回りされ、道を塞がれてしまう可能性があったからだ


ラッシュを食らう覚悟を、沙羅の時止めを消費する為に、する必要があった。


能力が解除され、吹き飛ばされる二香。


何とか地面に着地しようとするが、痛みで足がもつれ失敗、地面を転がり更に傷を増やすことになる。


覚悟をし身体を固めていたお陰でダメージは少ない、が身体にガタが来ている。


二香にしてみれば、無抵抗のサンドバックになった様なもの、次またラッシュを食らえば今度こそ地面に沈む事になる。


震える足を奮い立たせ、二香は剣道場へと走った。


「逃げた…? 大口を叩いておいて…けど逃がしはしないわ」


後を追う沙羅、決着の時は早い。




◇◇◇




スケバン図鑑⑤


なまえ:更科沙羅


属性:こぼれ落ちない砂時計スケバン


能力:鳥取砂丘から取れた砂の入った砂時計を使用する事で時を止めることが出来る。砂時計をひっくり返すと、その瞬間から砂が落ちきるまで時が止まる。一度能力を使用すると再び砂が溜まるまで能力の使用はできなくなる。


備考:ゴスロリのような制服は自分で改造した物


ご当地:鳥取砂丘

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る