全国編

第八伝 VS 兵庫県 播州ひび割れ皿屋敷女番




スケバンの朝は早い───。


朝、蓮水瑠衣は目覚ましの音ではなく、文月八雲の声で目覚める。


「だから何で俺が目覚まし止めてんだよおかしいだろうが!」


「う…ん~、あと5分…ぐがー」


「寝るな!」


八雲に叩き起こされた瑠衣は渋々ベッドから出ると、顔を洗いに一階へと降りていく。


「あっ、八雲兄ぃおはよ~」


「おう、おはよう」


後ろから声をかけてきたのは瑠衣の弟、しゅんだった。


「瞬は偉いな、姉ちゃんとは大違いだ、そういや兄ちゃんはもう学校に行っちゃったか?」


既に学帽とランドセルを背負った瞬の頭を撫でながら質問する。


ゆう兄ぃならもう行っちゃったよ、じゃ俺もう準備終わったし行ってくるね」


優とは瑠衣の兄である。


八雲が瑠衣と一緒に居るようになったのは優が八雲を家に呼んでからだった。


「そっか、いってらっしゃい、俺達も早く行かねえとな───」


そう呟く八雲だが、朝飯を食べてる途中や着替えながら寝る瑠衣のせいで、家を出たのは遅刻ギリギリだった。


「八雲、早く行かないと遅刻するぞ!!」


後ろ走りで急かしてくる瑠衣に八雲は溜息を吐く。


「何でそんな元気なんだよ…家出る前にその元気使ってくれよ、つーか前向け前、危ねぇだろ!」


「分かってるって───うぉっ!」


瑠衣が振り返るのと同時に曲がり角から人が飛び出して来た。


半ばぶつかるような形となったが、パッと瑠衣が避けたので衝突する事は無かった。


が、飛び出して来た人は瑠衣に驚いて体勢を崩し盛大に転んでしまった。


衝撃で持っていたバッグの中身が飛散する。


「お~悪いな、大丈夫か?」


「おい瑠衣、だから言っただろ! すみません大丈夫ですか?」


「うう…大丈夫です…こっちこそ飛び出してきてすみません…」


三人で飛び散った物を拾うと、その人は礼を言ってからまた走ってどこかへ行ってしまった。


「ここらで見ない制服の人だったな」


「転校生じゃね~、ん? これ…さっきの人の忘れ物かな」


瑠衣が地面の上に落ちていた白い皿をひょいと持ち上げる。と、その皿に突然ヒビが入り真っ二つに割れてしまった。


「な、なんだ、いきなり割れたぞ?」


「どうした瑠衣?それさっきの人の忘れ物か? さっき転んだ時に割れちまったんだろ、道の端にでも置いておいたらさっきの人が取りに来るんじゃないか」


「あ、ああ…そうだな」


不審に思いながらも八雲に従って学校へと向かう瑠衣だった。




「フフフフ、触ったな蓮水瑠衣…呪いは既にかかった…私の能力で、確実にお前は負ける…その前に勝利を確実にする為の準備をしておこう…それまで、せいぜい足掻け」


割れた皿を回収したのは先程ぶつかってきた制服の女子だった。


髪をかきあげて変装のために整えていた髪型を崩す。


背中から木槌を取り出すと瑠衣のいる学校へと向かった。




兵庫県 播州ひび割れ皿屋敷女番スケバン、おきく


VS


東京都 恋するスケバン、蓮水瑠衣


いざ尋常に、スケバン勝負!!




「ふー何とか間に合ったな…」


「八雲がちんたらしてるから遅刻するかと思ったよ」


「こっちのセリフだバカタレ」


始業のチャイムが鳴る前に何とか教室に滑りこんだ二人。


席は名前順なので瑠衣が八雲の前に座った。


「なあ瑠衣、今日は午前で帰れるらしいぞ」


「お~昼飯どっか食べに行く?」


「そうだな…そういや駅前に新しいラーメン屋ができたって聞いたな、確か昨日からだったような…そこ行ってみようぜ」


「あ、私もうそこ行った」


「え…それ昨日の話か?」


「うん」


「…」


そんな他愛も無い世間話をしていると二人の横に誰かが来た。


横を見ると、そこに立って居たのは愛宕だった。


「昨日は世話になった文月八雲、お陰でいつの間にか傷が癒えていた、感謝する」


「あ~いや、それは俺のお陰って訳じゃないんだが…まあいいか」


翔子の事を言おうか迷う八雲だったが、お化け嫌いの愛宕にわざわざ思い出させるような事はしなくていいだろうと思い、口を閉じる。


「それと昨日の事はよく思い出せないんだ、病院で誰かと闘った様な気がするんだが…」


「え、愛宕もそうなのか? 私も病院で誰かと闘った様な気がするけどあんまり覚えてないんだ、気が付いたら車の中だったし」


「「昨日は何があったんだ?」」


二人から同時に質問をされる八雲、話せば長くなるので誤魔化すことにする。


「まあ色々あったんだよ、それより愛宕もどうだ駅前のラーメン屋、一緒に行ってみるか?」


突然の昼飯の誘いに驚く愛宕、しかし首を振って断った。


「いや、私は放課後白鳥二香に勝負を挑む、元より昨日からそのつもりだったんだが、そこの蓮水瑠衣に既に倒されていたらしいからな」


「え~やめとけよ愛宕、二香の能力めっちゃ強いぞ、時止められる位じゃないと勝てねーよ」


勝ったお前が何を言ってるんだと言う目で愛宕は瑠衣を見る。


「まあそういう訳だ、その誘いはありがたいが、また今度にしてくれ」


「お、おう、まあなんだ…無茶だけはすんなよ」


八雲が返事をすると、同時に始業のチャイムが鳴った。


「では私は自分の教室に戻る、また」


片手を上げて教室から出ていく愛宕を見送ると八雲は瑠衣に疑問に思った事を聞いた。


「二香さんってそんなに強い人だったのか?」


「んあ? ああ~まあ私勝ったし、私の方が強いぞ?」


「いや別にそういう事が聞きたい訳じゃないんだが…」


その後すぐに担任が入ってきたのでその話題はお流れになった。




あっという間に時間は過ぎ、放課後。


横にかけておいたバッグをドスンと机の上に置くと、八雲が瑠衣に声をかける。


「よしっ! 今日も一日終わったな、飯食いに行こうぜ!」


「結局ラーメン屋にするのか?」


「あ〜嫌だったら別にいいんだが、定食屋とかにするか?」


昨日食べたという店に二日連続で連れていくのもどうかと思い、八雲は瑠衣に委ねることにする。


「八雲がラーメン食べたいならそこでいいよ、私も食べてみたい別のメニュー『いちまぁい…』があった…し?」


辺りをキョロキョロと見回す瑠衣、確かに誰かの声が聞こえたはずだが、周りのクラスメートは近くの人とだべったり帰る支度をしているだけだった。


「気のせいか…?」


「どうかしたのか?」


「いや、誰かの声が近くで聞こえたんだけど、気のせいだったみたい」


ヒラヒラと片手を振って何でも無いという瑠衣、帰る準備をしようと前を向こうとした時、八雲が瑠衣の腕を掴んだ。


「待て瑠衣、どうしたこの腕」


見れば瑠衣の腕にヒビが入っていた。


そのヒビから血が滴り落ちている。


「え───何だこれ」


「ひび割れ…ってレベルじゃないよな、割れた皿みてーだ」


「まさか…スケバンの攻撃かな?」


瑠衣がふと思いついたように零す。


「はあ? スケバンっつったって近くにはウチのクラスの奴しかいねーぞ」


辺りをキョロキョロ見回すが変わった光景は見られない。


「いやこれは多分『にぃまぁい...』痛っ今また聞こえたぞ!!」


瑠衣が謎の声を聞くのと同時に瑠衣の腕のヒビが更に広がった。


更に血が垂れる。


「何言ってるんだ瑠衣、俺には何も聞こえないぞ」


「こいつは…朝のアイツが能力者だ…!! 能力は…多分、皿を割ったやつか割れた破片に触れた奴に呪いか何かをかける能力だ…八雲、皿を一枚二枚って数える怖い話あるだろ?」


「あ、ああ皿屋敷…だったか? 皿を割った何とかって人が井戸で殺されたみたいな…」


教室を出てどこかへ向かう瑠衣、八雲もとりあえず着いていく。


「今私にそれが聞こえている、10枚か9枚まで数えられたら、多分私の負けだ」


話してる最中にも『さんまぁい...』という声が瑠衣の耳に入ってくる。


ピシッと音が聞こえ、身体にヒビが走る。


既に肩を超えて首の辺りまでヒビが入っていた。


「おいおい、何が起きてるんだよ一体!」


「痛ってぇ…でも絶対この学校内に朝の奴がいるはずだ、こういう能力なら、もし私を倒しきれなかった時のために近くで待機してると思う…そいつを見つけて叩き潰す! その前に八雲は家庭科室に向かってくれ」


「家庭科室? 何だってそんな所に?」


「私の予想が正しければ、この能力の弱点は効果の発動条件が皿な事だ…もしかしたら皿を持ってれば身体じゃなくて皿を身代わりにできるんじゃないかって」


『よんまぁい…』


ビシッと目の辺りから血が流れ落ちた。


「よく分からないが…要は皿を持ってればヒビが入るのは瑠衣の身体じゃなくて持ってる皿になるって事だな?」


「そういう事、だから早く皿を取ってきて欲しい」


「分かった、瑠衣はどうするんだ?」


「私は本体を探す、能力を止めるには発動してるスケバンを倒すのが一番手っ取り早いからな」


八雲と瑠衣は二手に別れて、目的のものを探し始めた。


まず八雲は別棟の家庭科室を目指した。


「くそっ、家庭科室って何階だよ!」


そもそも八雲達は入学したての新入生、教室の配置すらまともに覚えていなかった。


「───違う、視聴覚室違う、調理室違う、家庭科室...あった!」


しかし3階までの教室を虱潰しに探して、見つけた家庭科室には鍵がかかっていた。


「おい鍵かかってんじゃねーか!! こうなったら蹴破ってでも…いや待てよ、皿があるのって家庭科室じゃなくて調理室だよな」


当然調理室にも鍵がかかっていた、がドアに付いた窓から中が見ることが出来た。


中の光景を見て八雲は絶句する。


「わ…割れてる…全部」


調理室に広がっていたのは棚から落とされて割れたであろう無数の皿の破片だった。


こんな事をする人物は一人しかいない。


つまり皿を身代わりにできるという瑠衣の予想は正しかった。


「くそっ、やられた!!」


思わずドアに拳をぶつける八雲、ケータイを取り出し、瑠衣を呼び出す。


数コールで出た瑠衣に、現状を報告した。


「調理室の皿は全部割られていた…! 瑠衣今何枚だ!?」


「今さっき6枚って言われた所!!」


走りながら電話をしているのか息が切れている瑠衣。


「皿が全部割られていた以上もうスケバン本人を見つけるしかないぞ、見つかりそうか?」


「全然! 検討も付かないんだけど!!」


打つ手無しか、と思われた時、八雲がふと廊下についてる窓から本棟の方を見ると、


ガラリと窓を開け、目を凝らすと髪型は若干違うが、確かに朝見た女子が屋上にいるのを発見した。


その女子が手に持った木槌を何かに振り下ろすと、電話口から叫び声が聞こえる。


「う…ぐぁッ!!」


「おい瑠衣!? 大丈夫か?」


「あ、あぁ大丈夫…なあ八雲今ふと思ったんだけど次…膝の皿とか割られたりしないよな?」


ありえない事ではないが、八雲は今見た光景をさっさと伝えた。


「そんなこえー事考えるな! それより朝いた人を見つけた!瑠衣今どこにいる?」


「今は…理科実験室だ! それでスケバンはどこにいるって!?」


「本棟の屋上にいるのが見えた! 俺も今から向かう!」


「分かった! ナイス八雲、後でチューしてやる!」


「はぁ!?」


ブチッと切られたケータイを片手に固まる八雲だが、気にせず本棟へと向かった。




瑠衣の予想は正しかった。


「フフフ、次の二枚で両足の皿を完全に割って、最期は蓮水瑠衣の魂という名の器の身体を割ってやろうぞ…」


辺りには飛び散った皿の破片が、その中心にお菊が立っている。


「既に調理室の皿は全て割っておいた…事前の準備が功を奏したな」


自身の能力の弱点はしっかりと補うことが大事なのだ。


弁当の器ですら身代わりとする事ができると言う弱点に、今日は絶好のチャンスであった。


全校生徒が午前帰りの今日は弁当を持ってきている者はいない。


学校にある皿も全て割ると言う徹底ぶりで瑠衣を追い詰めたお菊。


「さてまずは片足だ───はちまぁい…」


木槌を振り下ろすと、ガシャンと割れる皿。更に懐から九枚目の皿を取り出すと、息付く間もなくそれも粉々に砕いた。


「最後の一枚…十枚目!! 呆気ない最期だが、私の強さもこれで全国に轟くだろう…」


コト、と地面に皿を置くとお菊は木槌を振りかぶる。


「これで死枚だ…じゅうまぁい…!!」


そして思い切り振り下ろした。


バリーンと皿が粉々に砕け散る。


「これで───私の勝利だ」


お菊は空に手を広げると、勝利を噛み締めるようにそう呟いた。




◇◇◇




スケバン図鑑④


なまえ:お菊


属性:播州ひび割れ皿屋敷女番


能力:割れた皿の破片に触れた相手に呪いをかける。呪いをかけられた相手はお菊の持つ10枚の皿と同じ末路を辿る。


備考:変装が得意、呪いをかけられてしまったら皿に類する物を身代わりにできる


ご当地:姫路に伝わる怪談、播州皿屋敷

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