第6話
「香里?」
トイレから帰って来た新は立ち上って養母さんを見下ろしている私に声を掛けてきた。
「いいわよ、新は残っても。でも、私と湊は帰ります」
私は湊を抱えながら、湊用に持って来たオムツやミルク関係の物を持つ。湊が軽いとはいえ、私は難なく荷物も持てた。
「ちょっと、そんな・・・えっ? どういうこと?」
新が追いかけてきたけれど、無視して湊をベビーシートに乗せる。湊は大人しくベビーベットに寝た。
「なんかあったのか?」
あったじゃない。
あなたの前でも―――
それがわからないなら・・・・・・・・・
私と家の方を何度も交互に見る新。
「ねぇ、新」
「ん?」
「あなたはどうする?」
新は私の顔を見ながら、少し考えて・・・・・・
「帰るか」
と言った。
その言葉を聞いたら、私はホッとして足元がふらついてしまった。
「大丈夫か?」
「ええ…」
まだ、出産して1か月。本来ならば安静にしていなければならないのに、ストレスがある新の実家に来て、案の定、養母さんの言葉でカーっとなったせいで、とてつもない倦怠感が身体を襲う。
私は新に支えられながら、反対側の後部座席に座り、
「閉めるぞ」
「ええ」
バタン
ビクッ
「えっ…えっ…」
その音で湊が起きそうになったけれど、頭を撫でてあげると、湊は再び心地よさそうに眠った。
(湊は可哀想じゃない、可愛いんだ)
「じゃあ、出るぞ」
「お願い」
車が動き出し、新の実家からどんどん離れていく。
(もう二度と・・・あそこへは行かない)
「なぁ、何があったんだ? 本当に」
運転中の新がバックミラー越しに私に尋ねてくる。
「別に・・・なんでもないわよ」
私は新に何があったか、私がどう思ったかをナイショにした。だって、本当に私のことや湊のことを想っていればわかるはずなのだから。それに仮に理由を話したとして、新の意見を聞いてしまえば、私の求めていない意見を新が言って、口論になり、離婚までありうると私は思ったのだ。
「りょーかい・・・」
それがわかったのか、新はそれ以上聞かなかった。
私は新の家では何も食べなかった。
だけど、飲んだものがあるとすれば、一言。
「もう二度と、あなたには会いませんし、湊も会わせません」
という言葉を言わずに飲み込んだ。
「ねぇ、新?」
「ん?」
「三人で幸せになろうね?」
「・・・あぁ」
これは私たちの最初で最後の離婚の危機。いつも思っていることを口に出して、お互いを理解しながら解決し合う私たちは、今回は思ったことを口にしないでこの危機を乗り切ることができた。
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