第5話
「おっ、お帰り? 大丈夫か?」
「ええ」
私は気持ち悪くなってトイレに行って、帰ってくると養母さんと新はくつろぎながら楽しそうにご飯を食べていた。
・・・・・・っ
湊は養母さんの腕の中にいた。
「うっうっ」
「あぁ、よしよし大丈夫ですよぉ。ほら、香里さん、早く締めてってばっ」
「あっはい」
そんなに湊の頭を揺らさないでよ。揺さぶられっ子症候群になっちゃうじゃない。
「養母さん、ありがとうございました」
私は急いでリビングの扉を閉めて、養母さんの隣に行く。自ら近づくなんて、また吐き気が起きそうだったけれど、愛する湊のためなら我慢できる。
「あぁ、良いわよ、良いわよ。安心して、これでも一児の母だったんだから」
だから、そんなに揺らさないでよっ!?
新といえば、美味しそうにお寿司を食べてテレビを見て、
「まぁまぁ、母さんも孫を抱っこしたいんだからさせてやってよ」
なんて言っている。
(揺すり過ぎはダメって言ったの覚えてないの?)
食べるのに夢中な新。
プシューッ
「ちょっと、駄目でしょっ!? お酒なんかっ」
「いっ・・・・・・はーい」
忍びなさそうに缶を遠くに置く新。
「あー、怖いでちゅねーーっ」
養母さんが赤ちゃん言葉で湊に話しかける。
「泊まっていけばいいじゃないねーー」
(新・・・・・・だから、そんな目で見ないでよ)
新が色々我慢してきたのを知っている。
お酒だって、ご飯だって。
(・・・でも、それは私もじゃんっ。なんなら、私の方が・・・よっぽど)
妊娠中だって食事に気を付けていた。それに新には美味しい物を食べてもいいよって言ってきた。最近は具合も悪かったから、簡単なものばかりだし、同じような栄養を考えた料理ばかりしか作らなかったけれど、この仕打ちはありえない。
「あっ、俺、トイレ行って来よ」
そう言って、新がトイレ向かった。
私と湊と養母さん。
「はぁっ」
養母がため息をついた。
「早生まれで、こんなに小さくて・・・可哀想にねぇ…」
まだ、言うの?
これは、明らかに私への敵意だ。
お盆や正月は相手の実家に顔を出すのが当たり前だ、という考えを持っている養母さんの敵意だ。
「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」
湊が泣いた。
それが私の代わりに泣いてくれたような気がした。
「あぁ、ご飯? それともオムツ?」
「代わりますね?」
養母さんもさすがに私に返さないといけないと思ったらしい。
「あぁ、母乳は出ないでしょ? 偏食しているから出ないのよ。私が作ってあげるわ、ミルクはどこ?」
養母が立ち上ろうとするが、私が湊を預かると、湊はすぐに泣き止んでくれた。
(ありがとう・・・湊)
1ヶ月にも満たない湊はまだ笑えない。だけど、湊のホッとした顔は私を癒してくれた。
「私、帰ります」
私は湊を返してもらって立ち上って、養母さんを見下ろす。
「えっ?」
「養母さんと一緒にいると、こんなに可愛いこの子が本当に可哀想になってしまいます」
かわいいとかわいそう。
似ている言葉なのに意味は全然違う。
「まぁ・・・この人は・・・・・・なんてことをっ」
その言葉、そっくりそのままお返しします。
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