第4話

 懐かしい新の家。

 養母さんしかいないけれど、お庭は綺麗に剪定されているのが養母さんらしい。

 隣町にあるけれど、2年ぶりの訪問だ。


(大丈夫、大丈夫よ・・・)


 今度は一番の味方、湊がいる。

 まだ、生まれて1か月経っておらず、今にもぐずりそうだけれど、新がゆするとなんとか泣くのを堪えている。


「あらあら、まぁまぁお久しぶりっ」


 玄関を開けると、養母さんが小走りでやってきた。

 けれど、自意識過剰なのだろうか。「久しぶり」という言葉にもトゲを感じて迎えられている感じがしない。


「お久しぶりです」


「まぁまぁ・・・」


 やっぱりだ。私の返事など気にせず、新が抱えている湊に近寄る養母さん。


「あらあら、男の子でしょ?」


「ああ、そう言っただろ?」


「まぁ、可哀想にこんなに小さくて・・・・・・・・・『未熟児』でしょ?」


 え……っ?


 『可哀想?』『未熟児?』


 何?


 こんなに可愛くて、こんなに元気に生きているのに・・・・・・可哀想って何?


「今は、低出生体重児って言うんだよ。それより、寒いから入れてくれ」


 新・・・入るの?


(私は・・・・・・)


 入りたくない。

 

(止めて・・・・・・新・・・・・・湊を・・・・・・連れて行かないで)


「ちゃんと、ストーブで温めてますからね。さっ、香里さん早く締めて」


「あっ、すいません」


 私は養母さんに洗脳されているかのように心とは裏腹に身体が勝手に玄関の扉という逃げ道を塞いだ。


「ささ、食べて食べて」


 美味しいそうなお寿司にオードブルなどが用意してあり、


「おっ、懐かしい」


 そう言って新は養母さんの作った漬物を手で掴み口に入れる。

 

 ううっ・・・・・・


 喜んでいる新とは裏腹に私はとても困ってしまった。新は喜んでいて妊活中に学んだことを忘れてしまっている様子で、役に立たない。私のことは大事にしてくれるし、私に甘えるけれど、それは好きだからであり、新も30歳を超えているのだから、親しき仲にも礼儀がある。マザコン・・・というわけではないと信じたいけれど、新は実家に帰ると、養母さんには迷惑かけてもいいという発想なのか、子どもっぽくなってしまう。それも私の新の実家に帰りたくない理由である。


 角が立つかもしれない・・・でも、養母さんも孫のためなら理解してくれるはずだ。私が言うしか仕方ない・・・。


「あの、せっかくのご馳走なんですが、母乳に影響あるので遠慮させていただきますね。」


「えー、そうなの?」


「はい、アレルギーとかになってもいけないので・・・」


 私がそう言っていると、ようやく新もそうだったという顔で頷いて援護射撃をしてくれる。


 これなら・・・


「あらあら、未熟に生まれちゃうと大変ねぇ。私が新を生んだ時なんか何も気にしなかったわ」


 私だってお寿司や揚げ物を食べたい。でも、食べないのは湊のためだ。

 私の空いていたお腹は養母の一言できゅーっと狭くなって、逆に吐き気がした。

 なんだか、養母さんの匂いが漂うこの部屋、この家から逃げ出したくて仕方なかった。



 

 

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