第14話 雨の日は官能的じゃない。 no.2

 ☆☆☆


 放課後、俺は途方に暮れていた。

 いろんな人に聞いてみたが、彼女の自宅は不明。

 唯一分かった情報は、東の方から登校しているということ。

 いや、範囲が広すぎるだろ東って。

 中学校なら範囲があるだろうからまだしも、俺達は高校生だぞ。

 行こうと思えば永遠に東へと進んでいける。

 けど、何もせずにはいられなかった。


「茜さん、一体どこで何をしているんだ」


 聞いた情報通り、東に進み通りのコンビニなど彼女が行きそうな店を一通り当たってみた。

 多分、今頃クラスメイト達は俺の話をしているだろう。

 有りもしない噂を広めているかもしれない。

 そりゃそうだ、クラスの陰キャがビッチと噂されている女性の事を必死に聞いて回ってるんだ。

 童貞を奪われて勘違いで惚れてしまった、とか、気持ちの悪いストーカーになっているだとか言われても仕方ない。


 だからといって、この衝動は止めることは不可能だった。

 頭の中は彼女のことでいっぱいだったら。

 こんな感情は、産まれてこのかた初めてだ。


 誰かの為に動くこと自体、俺にしては珍しいと思う。

 なるべく感情は表に出さないように生きて来た。

 別に、強制されたわけじゃないけど、父が職業柄あまり本当の姿を見せるような人じゃなかったから、自然とそうなったのだろう。

 代わりに妹が反発心で、感情をバリバリ表に出すタイプになってるし、家庭に問題があったとかじゃない。

 元々の性質、そこまで何かに対し熱くなることもなかったから。


「はぁ、はぁ……やっぱ見つからない、か」


 時刻はもう21時。田舎の夜は暗くなるのも早い。

 しかも、今日は特に土砂降りの雨、そろそろ帰らないと周りが見えなくなって普通に危険だ。

 スマホを確認すると林檎から心配連絡が来ていた。


『そろそろ帰った方が良くない?』


 理由を聞かないのが林檎のいいところ。

 茜さんを探すにしても外にいるとは考えにくいし、今日のところは家に帰るか。

 そう思い林檎に「今から帰る」と変身した後、帰路についた。


 ──が、帰り道、近所の公園で金髪女性の影を見た。


 視界が悪く、彼女の事を考えすぎて幻覚を見てしまったのかも。

 と思う前に既に足は駆けだしていた。


「茜さんッ!!」


 肩を掴み、彼女の名前を叫ぶ。人違いなら俺は完全に不審者だ。

 でも、振り向いたその顔は、紛れもなく茜さんだった。


「楠……っ」

「茜さん、今までどこに……それより、びしょ濡れじゃないか」

「びしょ濡れ? はは、下ネタ?」


 クスっと笑う彼女。いつもの顔だ。

 制服姿で、傘もささず、公園でボーっと立っているなんて、どう考えても変だ。何かあったに違いない。


「奇遇だね、こんなところで会うなんて」

「──ッ……!」

「ん、なんて顔してるの。さては、濡れて透けた制服に興奮してるな?」

「茜さん家近い?」

「え? いや……ここから結構先だけど」

「だったら、家に行くぞ」

「そんな、急に家に連れ込むなんて、楠も大胆にな──」

「ふざけたこと言ってる場合じゃないだろ、早く」

「あ──ッ」


 俺は茜さんに傘を私、腕を掴むと無理矢理自分の家へと連れていった。

 

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