第三話

第13話 雨の日は官能的じゃない。 no.1

 雨が好きだ。

 水滴と風が奏でるメロディーは夢の中へと心地よく誘ってくれる。

 窓際でぼーっとしながら外を眺め、のんびりとした時間が過ぎていった。

 そして、気が付けば授業は終わり、教室内は人の声で溢れ出す。

 俺はふと、彼女の席に視線を向けた。


 誰も座っていない椅子、綺麗に片付けられた机。

 一緒に買い物に行ってから3日間、茜さんは学校を休んでいる。

 特段珍しい事ではない。彼女が学校を休むのはよくあることだった。

 その内ひょこっと姿を現し、この間のような関係に戻れるはずだ。


「……はぁ」


 と、心の中で思ってはみるものの。

 嫌な予感は絶えず心を蝕み続ける。

 孤独を感じてしまっていた。

 周りで仲良さそうに話す男子、女子。

 その中に混ざりたい訳じゃない。


「茜さん……」


 彼女と話がしたい。

 最早、誤魔化しが効かない程、願ってしまっている。


『おにぃがどうしたいか、だよ』


 林檎の言葉が何度も頭を往復していた。

 俺が、彼女とどうなりたいか。

 恋人になりたい? 違う、そうじゃない。

 きっかけはどうであれ、俺は茜さんの事を「素敵な女性だ」と知ってしまった。


「茜がいないと、オカズが少なくて困るよなー」

「アイツ、マジでエロいからちゃんと毎日学校に来て欲しいわ」

「関わりたくはないけどな」


 何となく聞いていた男子達の会話に苛立ちを覚える。

 けど、怒りを露わにし強く否定する程、彼女の事を知っているわけではない。

 男らしくないって言われるかもしれないけど、事実だ。


 それに、俺だって男。彼女のエロさはよく理解している。

 でも、だからこそ、茜さんの事は茜さんとして知りたかった。


「……だぁー……もう」


 好きな雨音さえも、苛立ちを増長させる要素になってしまっている。

 このままじゃ駄目だ、スマホを開き茜さんに連絡した。


『体調、大丈夫か?』


 勇気を振り絞って送った一文。

 だけども三限から放課後に至るまで、既読すらつかない。

 いつもなら、5秒で返事が返って来るのに。

 やっぱりあの日から何かがおかしい。

 あの時見せた表情が、記憶に焼き付いている。


 急がなければ。

 確証のない焦燥感に襲われた。


 俺が、どうしたいか。

 今、ハッキリと、堂々と答えれるのはこの言葉だろう。


「茜さんと友達になりたい」


 ならば、やるべき事は一つ。

 友達になる為に最初にやること、それは──


「なぁお前ら」

「楠の方から話しかけて来るなんて珍しいな。どうした?」

「……茜さんの家、どこにあるか知らないか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る