第二話

第5話 買い物は官能的なのか? no.1


 快晴の空の下、俺達の日曜日は始まった。

 達、と言っても俺一人なのだが、まぁそこは置いておいて。

 とにかく、学生にとって日曜日とは、全ての柵から解放された癒しの一時なのだ。

 土曜の夜は見たかった漫画、アニメ、小説を拝見し、オンラインゲームに夢中になり、気が付けば朝。

 輝かしい太陽の光を浴びながら就寝し、お昼過ぎに目覚める。


 あぁ、自分はなんて無駄な時間を過ごしてしまったのだろうか。

 残りの時間はもっと有意義に使おう、と後悔するのもまた一興。

 思うだけであり、その後もダラダラと過ごし、夜になれば一発抜いてからふかふかの布団の中で瞳を閉じる。


 贅沢極まりない瞬間、生きていてよかったと思える曜日。

 それこそが、日曜日なのである。


 しかし、しかしだ。

 今日の俺は『贅沢な時間』の使い方を許されなかった。

 土曜日の夜は早く寝て、日曜日の朝も早く起きる。

 身支度をし、丁寧に髪型をセットした。

 適当な服しかなかったけど、これでいいのか……?

 いや、今更足掻いても仕方がない。ありのままの自分で行こう。


「あれ、おにぃ珍しいね」


 洗面所で顔を洗っていると後ろから妹の声がした。

 名前を楠 林檎。年は一つ下、つまり高校一年生。

 バトミントン部に所属している。


「あぁ、ちょっとな。林檎はこれから部活か?」

「うん、今日は練習試合があって」


 小さな背丈でぴょんと小さく跳ね、背負ったカバンを揺らして見せる。同時に後ろにまとめられたポニーテールも揺れた。

 家族贔屓かもしれないが、とても元気の良く可愛らしい素直な女の子になってくれた、と思う。

 俺みたいな陰湿な兄にも明るく接してくれるのだから。


「頑張れよ、俺も頑張るから」

「え、おにぃ部活とかやってないよね?」

「だが、今日は戦いなんだ。漢の、な」

「……おにぃ、一人で笑って、ちょっとキモいよ?」

「ふ、ふふふ、ふふふ」


 そう、今日は戦いの日。

 この間、フランクフルトを勝手に食べた償いに、茜さんからショッピングに付き合うよう強制されているのだ。

 相手のテリトリーに強制的に連れ込まれてしまうという不利な状況。

 気合をいれなければならない。


「なんだかとっても楽しそうだね、そんなおにぃ久しぶりに見たよ」

「ん、そうか?」

「なんだかちょっと寂しい気もするけど……応援してるからね」

「あぁ、ありがとう、きっと勝つよ。林檎も勝ってこい」

「うん!! それじゃあ行ってくるね!」

「行ってらっしゃい」


 林檎はグッと親指を俺に向けると、玄関を飛び出していった。

 時計を確認するともう少しで約束の時間。

 俺も急いで準備を終わらせないとな。

 ……茜さんの私服、ちょっと楽しみかもしれない。

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