第2話

「あぁー終わった~……」

 私はテーブルの上に体重を預けてうなだれる。

「お疲れさん」

 1時間半近く続けて勉強していただろうか。

 爽玖さくが麦茶の入ったコップを口へ運ぶ。


「それにしても今回は俺に頼るのがいつもより早いよな」

「そうかな?」

「うん。これまではテスト3日前とか1週間前に焦って俺に縋り付いてくるのに、今回はまだテスト2週間前だし。まぁ俺に縋り付いてくるのは変わらないけどなー」


 一言余計だっつーの!


「私たちももう3年生だしねー。考えたくなくても高校とか受験のこと考えなきゃいけないからさ」


 爽玖が私の横顔をじーと見つめている。

 爽玖は今、何を思って私を見ているの。


「そうだな。俺たちももうそんな歳になったんだもんな」


 今回のテストは中学3年最初の定期テスト。

 ここでの点数は内申点に思いっきり関わってくる。


 私と爽玖は家が近所で小学生の頃からよく一緒に遊んでいたし、お互いの家を行き来していた。

 爽玖のお母さんは「遊ぶのは宿題が終わってから」という考えだったから私もよく一緒になって爽玖と宿題をやっていた。


 でも、その頃から爽玖のほうが頭が良かったから私は教わっていた。

 爽玖は教えるのも上手いんだよね。

 特に社会。

 ひたすら頭に叩き込ませるわけではなくて、出来事のつながりやそれがどうして起きたのかなど理由や背景をきちんと説明できるから私でもある程度理解できる。


 結局宿題が長引いちゃってさ、外はもう暗くなってることが多かったから家のなかでゲームしてたなー。


 ん? ちょっと待って。あれ? これって私が爽玖に教わってたから宿題の時間が長くなっていたのでは? 爽玖1人だったら絶対もっと早く終わってるよね。


 はぁー。私は小学生から変わってないな……。


 ふと爽玖の笑顔を見て思う。

 口を大きく開けて、見ている人を巻き込んで笑顔にするその魔法のような笑顔。

 これまで当たり前に隣で、正面で見てきた。


 急に頭が冷静になっていく。


 ――そうだな。俺たちももうそんな歳になったんだもんな。


 爽玖は高校どこに行くんだろ。

 私とは成績が段違いだからなー。

 高校は違うところになっちゃうのかな。


 一緒の高校に行きたいな……


 私は私の頭で浮かび上がった思考を自分でかき消す。

 

 こんなのはただのわがままだ。


 爽玖にだって自分の勉強がある。

 私から勉強を教えてもらおうと頼るのは今回で最後にしよう。


 いつまでも当たり前に近くにあるものなんてないんだとそう私の心が私に警鐘けいしょうを鳴らした。

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