卒アルにありったけの想いを込めて

モレリア

第1話

「あーもう無理。限界……」


 私はシャーペンを手にしたまま後ろに倒れる。

 社会のワークは提出範囲の10ページのうち、1ページしか解答が書かれていない。

「まだ始めてから30分しか経ってないって」

 爽玖さくが社会のワークを解きながら、私に言う。


「だってわからないんだもん!」

 寝転びながらおもちゃを買ってもらえない子どものように駄々をこねる。


「わからないから勉強するんだろ……。それに誰だっけ? 『爽玖テスト勉強付き合って~』って俺に泣きついてきたのは」

「うぐぅ……」

 言葉でお腹を殴れたような感覚がして変な声が出た。

 ――私です。

 ここで寝っ転がっている小松こまつ瑠菜るなです。

 私は勢いよく上半身を起こす。

 テーブルに顎だけを乗せて両腕をぶらーんとテーブルの脚に沿うように垂らす。


「爽玖っていじわるだよね」

「いじわるな奴がテスト勉強に付き合うと思うか?」

 私の質問に答えている間にも爽玖のワークを解く手は止まらない。

 左の問題文を見て、すぐに右の解答欄に答えを書く。


 私もやるかー。

 背筋を正し、気合を入れなおす。


 と意気込んだはいいものの――わからない。

 どうして社会ってやつはこうも暗記を私に迫るのだろう。


「ここ、間違ってるぞ」

 私が眉間に皺を寄せて悪戦苦闘していると見慣れたシャーペンが視界に入ってきた。


「え、そうなの? 間違ってると言われても何が間違っているのかわからないんだけど……」

 自分で言っていて悲しくなる。

 状況が絶望的すぎる。


「ならそれがわかるまでやるしかないな」

 そう言って爽玖が私の正面から隣に移動する。

「ん? 瑠菜どうした?」

「え、いや、どうして隣に?」

 急に隣に爽玖が来たため、声が詰まる。

「どうしてって瑠菜に教えるため」

 爽玖はそれが当然かのように言い放つ。

「でも、爽玖だって自分の勉強あるじゃん……」

 私は伏し目がちに言葉を繋ぐ。


「あぁそれね。ほら」

 爽玖はテーブルに手を伸ばし、社会のワークを手に取る。

 そして、パラパラとめくりながら私に見せる。


「もうテスト範囲はさっき終わらせたから。だから瑠菜が心配することは何もない」

 明るい笑顔を浮かべながら爽玖は親指を立てる。

 やっぱり爽玖はいじわるだけど、うん。

 優しい――かもしれない。


「よーし、やるぞー」

「……うん!」

「今回は厳しくいくかな」

「それは勘弁して!」

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