第8話 魔法と情報

「そうそう。これだけは説明しておかないと……」


 しばらく歩くと人込みもだいぶマシになってきた。

 道沿いに店が少なくなったから、それ目当ての買い物客がいなくなったんだろう。  

「この世界と皆さんの世界と……。

 その違いを理解するうえで一番重要なこと。

 それは『情報』です」

「じょうほう?」


 急にファンタジー世界に似つかわしくない言葉が出てきたな。


「といっても難しく考えなくて大丈夫。 

 皆さんの世界から来た人は

 なぜだかどうして、とてものみ込みが早いんです」


 えーと、と言いながらアルは右手の店へ近づいていく。


「……これって……」


 武器屋、だった。

 見るのはもちろん初めてだが、RPGでいうところの武器屋で間違いないだろう。狭い店の中には物騒な刃物類が所狭しと並べられていて、それでもスペースが足りないのか、軒先にナイフなどの小物がむき出しで陳列されている。 

 日本ならソッコーで警察から怒られそうな店だ。


「失礼。少し品物をお借りしたいんですが……」

「……あぁ? 借りるだぁ? ひやかしなら帰んな」


 新聞?らしきものを見ていた主人は見るからに頑固そうで、接客態度はコンビニバイトの百倍ぐらい悪かった。

 だが、ちらっと顔をあげた瞬間……。 


「ひっ、……し、執政官どのぉ……!」


 顔が恐怖と驚きで一杯になった。


「そうですか。では別のお店で……」

「ま、ま、待って……待ってください。

 へへ……執政官様ったら人が悪いんですから。

 ちょっとした冗談じゃないですか、冗談。

 やだなー、もう!!」

「……」


 なんつーすさまじい変わり身だ。

 さっきまでふんぞり返るように座ってたくせに、今は見た目中学生のアルにへこへこしている。

 

「そ、それで……うちの武器を借りるってのは?

 それに……後ろの変な格好のガキども……。

 い、いえ、お嬢様がたは……?」

「この方々は新しく召喚された勇者様たちです。

 これから世のため、人のため、

 身を粉にして命がけで働いてくださいます」


 おい、勝手なこと言うな。


「ただ、さっきこの世界に来られたばっかりでして……。

 ちょっと武器を使って説明したいことが……」

「そ、それでしたらもうご、ご自由に。

 へへ、どれでも好きなもの使ってもらっても……」

「そうですか。ではお言葉に甘えていただきます。 

 用件はそれだけですので、お仕事に戻られても結構ですよ。

 使ったらきちんと返しておきますから」


 アルにそう言われると、主人は脱兎のごとく店の奥へと引っ込んでいった。

 猫に追いかけられるネズミでも、あんなに情けなくはないだろう。 


「お前、前に何かしたのか?」


 ビビりまくりだったぞ、あの店主。


「大したことは……。

 ただこの店は、以前、呪いの武具を無許可で販売してましてね。

 とっ捕まえてぶた箱送りにしたことがあるんですよ。   

 あんまり余罪を吐かないので、

 私の拷問魔法で強引にゲロらせてやったんですが……」    

「……」


 こわっ。つーか、口わるっ。

 なんだよ、拷問魔法って……。

 俺もゲームはけっこうやってるけど一回も見たことないぞ。

 そんなので追い込まれたらそりゃあトラウマにもなる。 

 そんな恐ろしいこと、無表情でたんたんと語らないでくれ。

 

「あの様子だとまだ悪いことしてるようですが……。

 まあいいでしょう。

 それよりも、さあ、これを見てください」


 アルは陳列台からナイフを二本取り上げた。


「一見すると同じように見えますが、

 右手のものは1500G、

 左手のものは倍近い2800Gします。

 さて……。これ、なんでだと思います?」

「……」


 いきなり始まったクイズに俺たちは顔を見合わせた。


「なんでって言ったって……。

 そりゃあ材質が違うんでしょ?

 パッと見じゃわからないけど、

 高い方はすごく固い金属で作られてるとか……」

「いえ、この二つのナイフ、素材は全く同じです」


 ツカサの解答は外れ。

 当たっててもおかしくなさそうだったが……。


「わかった。すごく偉い人が打ったとかじゃない?

 名工の作とかだったら倍の値がついてもおかしくないでしょ?」

「それも外れです。 

 たぶん……このナイフは二つともさっきの親父が自分で打ったものでしょう」


 如月の答えも違った。

 え、あと何かあるか……?


「な、ならそれ以外になにか価値がついてるんだろ?

 野球選手のサイン入りバットとか

 それだけでバカ高い値段で売れるんだし……。

 なんか有名な剣士のサインが入ってたり……」

「そういった類のものではありませんね」


 天峰のもダメ。


「あなたはどうです?」


 いや、そう言われても……。


「……だめだな、何も思いつかない。

 物としてはおんなじわけだろ?

 倍以上の値が付く理由なんて俺達には……」

「……そうですか。

 ……正解はですね」


 アルは高い方のナイフを少し掲げて言った。


「書き込んである情報が違う、でした」

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底辺部活の異世界冒険記 このメンツで勇者パーティーは無理でしょう。 @yoanisosi

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